4s4ki×谷口廣次朗『コードギアス』対談 斬新なインスパイアド・アルバム、創造性を刺激する物語の魅力を語り合う
「ルルーシュが持つ“芯の強さ”と“10代の等身大な面”」(谷口)
――『コードギアス 反逆のルルーシュ』の本放送開始は2006年でした。4s4kiさんは、いつ頃この作品に出会い、どんな要素に強く惹かれたのでしょうか?
4s4ki:絞ってお話するのは難しいんですが……私、ルルーシュくんが一番好きなキャラクターなんですけど、彼は学園生活とゼロとしての活動という二面性を持っていますよね。そこがまず私自身の性格に似ていると思って。ルルーシュくんは(妹の)ナナリーが大好きで、彼女のために革命を起こしたように私は受け取っているんですけど、私も革命を起こしたかったんですね。私が『コードギアス』を初めて観たのが小学生のときで。たしか9歳だったかな?
谷口:小学生向きの作品ではないですよね(笑)。
4s4ki:私には兄がいるんですけど、私も兄も『ガンダム』をはじめ元々アニメ好きで。『コードギアス』も兄と一緒に観ました。すごい迫力だったけど、幼かったからまだ上手く理解できない部分も多かったんです。中学生になると、周囲にアニメやゲーム好きの子がいなくて、自分も好きだと言い出しづらい生活環境になってしまって。そこから大人になって、メジャーデビューしてから、ようやくゲーム好き/アニメ好きを公言するようになったんです。すると歌詞も「好きなものは好き」と、より胸を張って書けるようになって、今の方向性に辿り着いて。
――つまり4s4kiさんにとって『コードギアス』は自分の内面や精神性を解放するための起爆装置だったんですね。
4s4ki:本当にそうでしたね。だから今回のアルバムも、自分の「好き」を貫き通して、それを守るために本気で「革命を起こすぞ!」という意気込みで作りました。
谷口:たしかにルルーシュは作っていた制作サイドからしても興味深いキャラクターでして。「世界を平和に」とか「とにかく敵を倒す」といった単一的な行動原理でもなく、まさに多面性を備えていて。実は皇子であることやテロリストであるという素性を隠して学園生活を送っているんですけど、友達と話すときは本音も漏らしてしまうし、好きな女の子だって意識してしまう。芯の強さと共に17歳の男の子の等身大な面も備えているんですね。アニメーション制作もまた200~300人のスタッフで一つの作品を作るチームワークでありシャッフルワークですので、当時の谷口監督や大河内さんをはじめとする様々なクリエイターの思いが混ざり合っている。結果的にそれがルルーシュのキャラクターに深みを与えたのだと思います。
4s4ki:谷口さんのお話を伺っていると、やっぱりルルーシュくんが自分のジャンルレスな多面性のルーツなんだと改めて認識させられます。
谷口:ルルーシュも自分が戦うのは世界を平和にするためだと言うし、それも嘘ではないんですが、その根幹は「ナナリーを幸せにしたい」という個人的なエゴなんですね。彼自身も劇中で俺はエゴが強いと言っているし、自分のわがままな部分も実はよく分かっている。でも、物語の世界は超大国(神聖ブリタニア帝国)の支配や植民地制度(劇中で日本は「エリア11」というブリタニアの植民地となり、日本人は「イレヴン」と呼ばれ蔑まれている)がまかり通っているような状況だから、自我を通さなければ自分たちが殺される側になってしまうという切迫感もある。でも、ルルーシュのそういう面というのは、案外リアルな14~15歳くらいの子たちの普遍的な感情なんじゃないか? と私は思っていて。
4s4ki:それ、すっごく分かります。
谷口:私にもちょっと覚えがあるんです。『コードギアス 反逆のルルーシュ』放送開始の2006年当時、私は20代で、「上の世代に勝つためにはどうしたらいいんだ?」とか「多少なりとも卑怯な手を使わないと勝てないのかな?」とよく考えていましたから(笑)。でも、そういう思いの最たる具現化だからギアス(他人に自分の命令を強制できる絶対遵守の力)が魅力的に映るんだと思います。しかもギアスは万能ではなく、使用制限もかかるし、弱い能力を頭良く使う努力も求められる。そういう力を世の中がどこかで欲していた時代だったんだと思います。あれから17年で世の中もだいぶ変わりましたが、そうした力を欲する人の心はあまり変わっていないような気もしますね。
4s4ki:本当にそう思います。今でもルルーシュくんの台詞にはハッとさせられるものが多いんですが、「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」という台詞が小学生の頃の自分にものすごく深く刺さって。何かを成し遂げたいなら、伴う責任も自分で被っていかなければならないし、曲を発表すれば時に非難を浴びることもあるかもしれない。でも、そのリスクをも覚悟した上で「好きなものは好き」と言い続けたいし、表現し続けたい。そうした思いに気づかせてくれた意味でも『コードギアス』は私の原点です。
「折笠さん=シャーリーに歌っていただけて“完成”した」(4s4ki)
――そうしたそんな4s4kiさんの台詞へのこだわりが、劇中のCVをふんだんにフィーチャーした本作の構造に繋がったんでしょうか?
4s4ki:まさにそうです。しかもまさかあんなに新規でCVを収録していただけるなんて!
谷口:かなり異例でしたが、福山潤さん(ルルーシュ役)も小清水亜美さん(紅月カレン役)も折笠富美子さん(シャーリー役)もアルバムのコンセプトをすぐに理解してくださいました。そこも17年間のチームワークだと思います。
4s4ki:本当に光栄でした。その上、「Shirley」を“シャーリー・フェネット ver.”として折笠さんにカバーしていただけるなんて……今回のお話をスタッフさんから初めて聞いたとき、私、もうマジでほっぺたをつねっちゃって。「そんな夢みたいなことが本当に叶うの?」って……あ、すみません、もう話しているだけで泣いちゃいそう(笑)。
一同:(笑)。
――実際、「Shirley」からは本当に胸を打つピュアネスが感じられます。
4s4ki:嬉しいです。このリリックには、私から見たシャーリーが抱くルルーシュくんへの気持ちをストレートに込めました。メロディはシャーリーの優しさや可愛らしい女の子らしさ、そして面倒見の良さを意識して、歌い方も優しくも芯が通ったニュアンスにしようと、かなりこだわりました。
谷口:思えばシャーリーって生徒会や水泳部にいる女の子で、とても明るくて優しいんですが、もしほかのコンテンツのキャラだったら何の特徴もないキャラにもなりかねないと思うんですよ。でも『コードギアス』の物語では輝いている。それは彼女が唯一“嘘をついてない”メインキャラクターだから。ルルーシュもカレンも(枢木)スザクもC.C.(シーツー)もみんなつかざるを得ない嘘をついている。しかしシャーリーには全く嘘がない。だからこそ魅力的に見えるのだと思うし、4s4kiさんはそこを的確に感じ取ってくださいましたね。
4s4ki:ありがとうございます。折笠さんに歌っていただけて、本当の意味でこの曲が「完成した」と感じました。今回のアルバムのなかでも『コードギアス』ファンに一番聴いてほしい楽曲です。