4s4ki、アルバム『Killer in Neverland』に込めた自己肯定への願い 仮想空間を通じて向き合った過去の自分

4s4ki、自己肯定への願い

 4s4kiが、いよいよ「東京発・新世代オルタナティブポップ」の旗手として、国境を越えた注目を浴びつつある。

 昨年にリリースしたメジャーデビューアルバム『Castle in Madness』を経て、今年3月にはアメリカ・テキサス州で開催された複合フェス『SXSW 2022』へのオンライン出演が実現。8月14日にはZheani、Puppetという海外アーティスト2組を招いた初の主催フェス『NEW ALTERNATIVE FESTIVAL “AREA 44 vol.1”』を開催し、ネットを通じて実現したそれぞれとの共作曲をステージでも披露した。

 8月24日にはメジャー2作目となるアルバム『Killer in Neverland』をリリース。エレクトロやパンクやラップミュージックが刺々しく融合した持ち前のカオティックなサウンドに乗せて、電脳世界や仮想現実をモチーフにしたストーリー性ある楽曲が繰り広げられる。ハイパーポップというジャンルではもはや括れない、自由で幅広い発想も魅力だ。主催フェス翌々日の4s4kiに、ライブ、そして新作についてのインタビューを行なった。(柴那典)

昔の自分も含めて、自己肯定してあげたい

ーー初の主催フェス、めちゃめちゃよかったですね。まず、ライブを終えての感触はどうですか?

4s4ki:去年の8月に『FUJI ROCK FESTIVAL』に出た時に、初めてライブで記憶をなくすくらいナチュラルハイになって、次の日に筋肉痛になったことがあったんですけど、今回のライブは久しぶりに記憶が飛んで、次の日に全身筋肉痛で全く声が出ないみたいな状況で。やりきった感はありますね。

ーーZheaniもPuppetも顔を合わせるのは今回が初めてですよね。

4s4ki:そうですね。ネット以外で直接お会いするのは初めてで。なのに、すぐに意気投合しました。

ーー音楽的には違うことをやっている3組ではあるんですが、どこかしら共通点があるのも感じました。

4s4ki:みんなそれぞれをすごくリスペクトしてるので、自然とお互いのライブですごい盛り上がるんですよ。あとは、全員がはみ出し者だったんで。なかなか類を見ないタイプの3人で、はみ出し者たちが意気投合したっていう感覚はありました。とにかく楽しかったです。

ーーPuppetやZheaniと話して印象的だったことは?

4s4ki:印象的だったのは、人柄がパブリックイメージよりもピースフルだったことですね。2人とも私より年上で、可愛がってくれるし、それこそPuppetはアメリカで、Zheaniはオーストラリアで、いろんな文化とか言葉も教えてもらったし。本当に素敵な人たちでした。

ーーでは、新作アルバムの『Killer in Neverland』について聞かせてください。アーティストとしての進化が表れている力作だと思いますが、いつ頃から作り始めたものでしたか?

4s4ki:アルバムの制作に本格的に取り掛かったのは今年の4月くらいからです。でも、前に作った楽曲もありますね。それこそ5曲目の「Cross out」は私が17歳の時に書いた楽曲をリアレンジした作品だし、11曲目の「BOUNCE DANCE」もタイアップ用に1年半以上前に書いた曲で、もともとアルバムに入れる予定ではなかったんです。そういうところも含めたらすごく時間はかかってるんですけど、アルバムの制作自体は短い期間でできたのかなと。

ーー考えてみたら、去年から今年にかけてアルバム『Castle in Madness』とEP『Here or Heaven』『Here or Hell』の2枚を出してるわけで、これだけ短いタームで作品を出すというのは、ぶっちゃけ大変じゃないですか?

4s4ki:いや、大変というよりは作曲が止まらない状況だったんです。逆にどうやってリリースしていくかを組み立てる方が難しいくらいでしたね。もちろん細かい締め切りはあるんですけど、私、曲ができる時はバーってできるし、できない時は本当にできないんです。曲ができる時期にちょうどこのアルバム制作中だったので、いいタイミングだったなと思います。

ーー『Killer in Neverland』というタイトルとアルバムの全体像はどんなふうに決まったんですか?

4s4ki:このアルバムを作るとなって、タイトルも決まってない状態で最初にできたのが2曲目の「LOG OUT」なんですよ。これは仮想空間への現実逃避みたいなことを歌っている楽曲で、アルバムもそういうモチーフにしたいなと思っていて。で、長距離の車の移動があった時にたまたま虹を見て、その瞬間に「ネバーランド」って言葉がぱって浮かんだんですよね。そして曲を作っているうちに「Kill」っていうワードを結構使っていて。殺すっていう意味じゃなくて、ひとつの課題を乗りこなす的な意味で使っていたんですけど。それで『Killer in Neverland』っていいなって思ったんです。「Killer」は「破壊者」っていう意味で、ネバーランドに破壊者がいるって、直感でいい感じだなって。それでこのタイトルにしました。

4s4ki - LOG OUT (Official Music Video)

ーー「LOG OUT」が入り口になったということですが、この曲で歌われている仮想現実って、4s4kiさんが以前から慣れ親しんできたものですよね。歌詞にも〈オンラインでネトゲをしてた/中学2年の春が今/作る音楽に与えたportion〉という言葉が出てくる。こういう世界が4s4kiさんの今の音楽のテーマやコンセプトになっていったのは、どういう理由だったんでしょうか。

4s4ki:前までは、自分がゲーム好きなのとかって、あんまり話したくなかったというか、ちょっと恥ずかしかったんですよね。でも、曲を作ってるうちに、私はゲームが好きだし、ゲームを題材にした楽曲を作ってるし、そのことが糧になっていたんだって思って。後ろめたいことではなかったなって最近になってやっと気づいたんです。「LOG OUT」は、私がゲームを好きな理由、現実逃避できるということを肯定する楽曲を作りたいと思って生まれた曲だったんです。それこそ中学校2年生の時は『マビノギ』っていうPCのオンラインゲームにすごくハマって、学校にも行けずにネトゲばっかりしてるみたいな生活をしていて。

ーー「ネトゲ廃人」という言葉が生まれた頃ですよね。

4s4ki:そうですね。ほんと「廃人」って言葉がぴったり当てはまって。むしろそっちが現実って思い込んじゃうくらいハマってたので。その頃の自分を肯定してあげようみたいな気持ちで、まず自分を救うために生まれた楽曲ですね。

ーー「先制の剣」もゲームのモチーフを持った楽曲ですよね。〈そんな装備で大丈夫か?/大丈夫だ、問題ない。〉っていう、わかる人はわかるワードが出てくる。

4s4ki:『エルシャダイ』ですよね。私はニコニコ動画も好きだったんですけど、それこそ中学生くらいの時に『エルシャダイ』というゲームのその言葉がニコニコ動画でも流行っていて。その頃をリバイバルさせたいと思って、その代表的なワードが浮かんだんです。「先制の剣」はもともと『ゼルダの伝説』をテーマに作った曲で。その時にやってたゲームが『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』だったんですけど、締め切りが結構ヤバくて。この曲はそういう状況を歌ってる曲ですね。頭から〈お前このまんまで良いの?〉って、自分にハッパをかけるようなリリックなんですけど、そうやって自分の心境とゲームを組み合わせた曲です。

ーー「電脳郷」もゲームがモチーフの曲ですか?

4s4ki:そうですね。この曲は『ENCODYA』というインディーゲームをもとにしてるんですけど、そのゲームはドイツのベルリンがディストピア化してる近未来の話で。サイバースペースがはびこっている世界で、みんなVRグラスみたいなのを装着して、そっちを現実として生きてる人たちが当たり前になっちゃってる世界がテーマなんです。たまたまそのゲームをやっていたら、アルバムの世界観ともマッチしたので、それを曲にしたいと思って作った感じです。

ーーアルバムにはゲームのモチーフもありますが、もう一つ、10代の自分、昔の自分が思っていたことや状況について書いた曲も軸になっていますよね。

4s4ki:はい。自分で言うのも変なんですけど、私、幼少期から学生時代って、今よりも上手くいかないことがすごく多くて。10代特有の悩みもあったし、環境的にもよくなかったことが続いていて。だから今、その頃の自分を救ってあげたいっていう気持ちになっていて。どの楽曲にも当てはまるんですけど、昔の自分を浄化してあげる作業みたいなのを今、必要としていると思ってるんですよね。やっぱり、昔の自分も含めて、自己肯定してあげたい。そういうものが、どんな楽曲にも共通してある願いなので。

ーー4s4kiとして活動を始めた頃の自分と今の自分で、過去との向き合い方が変わってきた感じはありますか?

4s4ki:すごく変わりました。私、インディーズデビューが19歳で。その頃はまだ、悲劇のヒロイン中毒みたいな感じだったんです。「私はこんなにかわいそうなんだよ」みたいなことを歌っていたというか。たぶん、その時も精神的に不安定な状態で。19歳から23歳くらいまではそうだったんですけど、24、25歳で結構意識が変わってきたんです。いろんなことを克服したタイミングだったんですよね。完全に克服したというよりは、ちょっとずつよくなってきたみたいな感じだったけれど、そこで楽曲もガラッと変わって。昔の自分の状態に近い若いファンも増えてきて、逆に自分が引っ張ってあげられる立場にならなきゃなっていう意識も出てきた。ただ、自分の弱いところを無理やり強くして浄化していくっていうのは、私のスタイルとは違うなと思ったんです。みんな無理に強くならなくていいし、私も無理に強くならないし、頑張らなくてもいいよ、みたいな。とにかく、そういう鬱っぽい状況とかも全部肯定してあげたいっていう気持ちになってきた。視野が広がってきたんだと思います。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる