THA BLUE HERBとは異なる、tha BOSSにとってのHIPHOPーー自らの人生とリンクした音楽を作り続けること
過去に起きたこと、自分が壊したものを修復していく。その全部で一個の人格
一一以前「BOSSにとって格好いい曲の条件は?」って質問したら「寂しさがあること」って即答していたんです。
BOSS:うんうん。だからhondaさんとやったのは割とそっち。今回は逆だね。そういうフレーバーの曲ももちろんあるんだけど、全体に開けてるしリラックスしてる。でもね、もうここまでやってきたらさ、別に俺がリラックスした曲を作っても……「俺がブチギレたらおっかねぇのお前ら知ってるだろ?」って感じ。
一一ははははは! 知ってます!
BOSS:だから全然余裕だね。今はたまたまそういう感じ。
一一怒ってばかりの人ではありたくない?
BOSS:どうであれ、俺は俺らしくありたいね。いろんな感情を表現したいから。怒りであったり渇きであったり、それだけでキャリアの最初は出てきて、それでいろんな人たちと軋轢を起こして。俺という人間のイメージ、かなり偏ったものを残してきて、俺もそれを利用してきた。でも、今も同じことギャーギャー言ってたら論外でしょ? 26年の間にいろんなことケリつけてきたから。(Mummy-)DくんにしてもYOUちゃんにしても、過去に起きたこと、自分が壊したものを修復していく。その全部で一個の人格なの。今の自分の穏やかさは、最初に怒りがあったから辿りついたものだとも言えるし、同時に、昔の俺にリラックス感がまったくなかったことは決してない。今現在の俺に怒りがないってことも決してないし。ただ、今回は特にリラックスしてるなって感じる。
一一今、話に出たMummy-Dとの「STARTING OVER」。これは泣けますね、当時を知っている人間はなおさら。
BOSS:うん。いい曲だよ。こういうところまでHIPHOPで表現できる。僕らは長い時間をかけてここまで回収できる。今はバトルだの何だので、すぐ勝ち負けを決めていく。人は言葉で傷ついた後、人を言葉で傷つけた後にどうやって生きていくのか。それは思いつきの16小節ではとても表せる世界じゃないね。
一一バトル文化への批判も多少含んでます?
BOSS:いやいや、全然違うことやってるから何も思ってないよ。自分の人生、自分の関係性の中で作るものだから。でも、僕とDくんの中で起こったことを知ってる人、リアルタイムで体験してきた人たちは、もう深夜のクラブにはあまりいないかもしれないけど、街のどこかで生きてる。仕事しながら、親になりながら、もうHIPHOPのことなんて下手すりゃ忘れながら。でもこの曲を聴けば、彼ら、彼女らのストーリーはまた動き出すかもしれない。そういうところにも向けた曲でもあるね。僕とDくんの「STARTING OVER」が、誰かのHIPHOPの、再びのきっかけになってくれたらいい。そういう気持ちはある。
一一つまり、BOSSの言葉は、同じ時代を生きてきた世代じゃないと真に理解できないものでもある。
BOSS:伝えたいのがライフストーリーである以上、そうとも言えるね。
一一たとえばですよ? 今、生意気な20代が「はっ、オッサンのやってることだろ?」って言っても怒らないですか?
BOSS:まったく怒らない。「わかった。(手を払う仕草で)行け」って感じ(笑)。俺だって20代の時に50代の音楽、ましてやHIPHOPって音楽で考えたら、そこまで世代の離れたラッパーがいたとしても絶対に聴かなかったもんね。だから全然いい。ただ、40、50歳になった時に、まだHIPHOPを好きでいたのなら、まだHIPHOPの道を諦めずに探求していたのなら、だったらあなたにも絶対わかるよ、とは思ってる。あと20代だったら俺がその頃に作ったTHA BLUE HERBのファーストの曲、そこから遡ってくれとも思う。聴いてくれるのならね。
一一はい。ここまで長いスパンで人生とリンクした音楽を作ること、最初は考えていなかったと思います。いつ頃から意識するようになりました?
BOSS:いつからだろうね? 気づいたらそうなってた。……でも考えてみたらね、ガキの時に初めてSIONを聴いた時、当時のSIONはすごいハードで刺々しくて、その時の俺にぴったりきたの。ただ、20代になるとHIPHOPにどっぷりであんまり聴かなくなってた。でも30歳になってもう一回聴くと、「ありがてぇ」とか歌う時代になってて、あぁ、なるほど! みたいな。歳とともに歌う内容も変わっていく、それってアリなんだって思ったことは記憶にあるかな。
一一素敵な先輩がすでにいたわけですね。
BOSS:うん。それはある。
一一今、後輩にあたるのはJEVAとZORNという二人のラッパー。30代の彼らに声をかけた理由とは?
BOSS:そもそもZORNとは「Life Story」(2020年に発表した共演曲)があって。いつかやろう、ビートもBL(BACHLOGIC)くんで、「Life Story」と同じメンツでやりたいっていうのがあった。で、JEVAはまたちょっと違ってて。彼は三重にいて、ユニークに、マイペースにやってて。スキルもあるしね。すごく瑞々しいラップを入れてくれた。
一一先輩は憧れが条件だとして、若手への共感って、どのあたりがポイントになります?
BOSS:正直、もっと若くなってくるとほとんどわかんない。
一一そういうものですか。
BOSS:そういうもんだね。俺なんかに理解されてるようじゃダメだとも思うし。オッサンに「何がいいのかわかんない」って言われるのは、その世代がイケてるってこと。それで全然いい。ラッパーの表現っていうのは、世代で見てきたものを歌わなきゃいけない以上、上の世代なんかのことは構ってないっしょ。
一一老若男女に響く必要はない。でも自分のリアルなら、身近な仲間だったり同世代のリスナーには深く突き刺さるのだと。
BOSS:うん。そういう音楽だよ、HIPHOP。今は特にプレイヤーの数も多いし、ビジネスのやり方もひとつじゃない。何が正解で何がダサいか、そこに答えもないような時代だから。それぞれが自分のやりたいことをやる。それでいいと思ってる。でもね、同じ時代、同じ国に生きてもいるわけで。リアルタイムを生きてて、フレッシュに、ラフにタフにやろうぜってのは世代は関係ない。同じHIPHOPの名のもとにこの思いは若い人とも共有できると思ってる。俺もそこは大いに刺激される人は若いラッパーにもいる。だからもし世代が離れてても、俺もその思いを伝えたいと思うし、伝わると思ってる。フレッシュに、ラフにタフに、ってね。
■リリース情報
『IN THE NAME OF HIPHOP II』
発売:2023年4月12日(水)
CD購入初回特典:CD(アルバム未収録音源1曲収録)
①通常盤CD
フォーマット:CD
価格:¥3,300(税込)
②生産限定盤2CD
フォーマット:2CD(インストDISC付属)
価格:¥4,400(税込)
③ダウンロード
DL/CD購入店URL:https://tbhr.lnk.to/itnoh2
■tha BOSS 関連リンク
HP: www.tbhr.co.jp
Twitter: https://twitter.com/tbhr_sapporaw
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