坂本龍一が携わった後世にも伝えたい音楽作品 日本のポップミュージックを豊かにした偉大なる功績

坂本龍一が携わった後世にも伝えたい音楽

 坂本龍一の逝去後、世界中のメディアを介し、音楽家、社会活動家としての軌跡や功績が発信され続けている。坂本の作品と活動は多岐に渡り、仕事量も膨大。今後も様々な角度から光が当てられ、次の世代に受け渡されることになるだろう。

 ここではプレイヤー、アレンジャー、プロデューサーとしての坂本の仕事を紹介したい。

■プレイヤーとしての坂本龍一

・矢沢永吉「時間よ止まれ」(シングル/1978年)

 資生堂のCMソングに起用され、大ヒットを記録。矢沢永吉をロックスターの座に押し上げた名曲のレコーディングセッションに坂本はキーボーディストとして参加している。ドラムは高橋幸宏、ベースは後藤次利。ギターは相沢行夫、木原敏雄と当時のトップミュージシャンが集結。坂本は抑制の効いた演奏で、メロウかつトロピカルな楽曲のムードを際立たせている。

・山下達郎『IT'S A POPPIN' TIME』(アルバム/1978年)

 1978年3月にライブハウス「六本木 PIT INN」(2004年閉店)で録音されたライブアルバム。バンドメンバーは坂本のほか、村上“ポンタ”秀一(Dr)、岡沢章(Ba)、松木恒秀(Gt)、土岐英史(Sax)、伊集加代子、尾形道子、吉田美奈子(Cho)。坂本はピアノ、エレクトリックピアノ、シンセサイザーを演奏している。「ペイパー・ドール(Paper Doll)」「ソリッド・スライダー(Solid Slider)」における奔放にして精緻なソロ演奏は聴きごたえ十分。セッションミュージシャンとしてのきらめきを実感できる作品だ。

・加藤和彦『ベル・エキセントリック』(アルバム/1981年)

 『パパ・ヘミングウェイ』(1979年)『うたかたのオペラ』(1980年)に続く、加藤和彦の“ヨーロッパ3部作”の3作目にあたるアルバム。パリ郊外の古い城館を改築したスタジオでレコーディングされた本作には、坂本、高橋に加え、細野晴臣、矢野顕子も参加している。坂本は、アルバムの最後に収められた「Je te veux」(エリック・サティ)のピアノのソロ演奏も担当。20代後半の坂本龍一の、凛とした鋭さと洗練された抒情性を内包した演奏に心を打たれる。

・ACIDMAN「風追い人 (前編)」「風追い人 (後編)」(アルバム『新世界』収録/2013年)

 もともと坂本龍一のファンだったという大木伸夫(ACIDMAN)が、脱原発をテーマにしたイベント『NO NUKES』に出演した際、坂本にレコーディングへの参加を依頼(※1)。音数を抑えたシンプルで奥深いフレーズ、一つひとつの音に豊かに感情を込めた演奏によって、楽曲のメッセージ性を支えている。

・U-zhaan x 坂本龍一「Technopolis」(U-zhaan アルバム『Tabla Rock Mountain』収録/2014年)

 坂本龍一のピアニカ、U-zhaanのアルトホルンによるYMO「Technopolis」のカバー。牧歌的なピアニカの音色、録音現場のリラックスした雰囲気を楽しめるレアなテイクだ。

 両者は“U-zhaan & Ryuichi Sakamoto feat. 環ROYx鎮座DOPENESS”名義で「エナジー風呂」(坂本龍一「energy flow」のリメイクバージョン)を発表、ライブでもたびたび共演するなど深い音楽的交流があった。

■アレンジャーとしての坂本龍一

・サーカス「アメリカン・フィーリング」(シングル/1979年)

 コーラスグループ・サーカスの代表曲。70年代のアメリカンポップスを想起させるゴージャズな曲調と4人のハーモニーが印象的なこの曲のアレンジで坂本は、第21回日本レコード大賞の編曲賞を受賞した(レコード大賞はジュディ・オングの「魅せられて」)。巧みなオーケストレーションを軸にしたサウンドメイクはまさにエバーグリーンな輝きを放っている。

・南佳孝「モンロー・ウォーク」(シングル/1979年)

 アルバム『SPEAK LOW』にも収録された代表曲。ジャズ、ラテン、AORなどをルーツにしながら日本のポップスの新たな可能性を切り開いた楽曲と言えるだろう。参加メンバーは高橋幸宏(Dr)、小原礼(Ba)、鈴木茂(Gt)など。華やかなホーンセクションとストリングスを軸にした坂本のアレンジの構築美はまさに絶品だ。

・森進一「紐育物語」(シングル/1983年)

 作詞・松本隆、作曲・細野晴臣によるシングル曲(細野は編曲にもクレジットされている)。歌謡の雰囲気を残しつつ、洗練されたポップスとして成立しているのは、坂本の編曲センスによるところが大きい。カントリーミュージック経由の素朴さ、流麗にして高品質な弦のアレンジのバランスが見事。

・松任谷由実、小田和正、財津和夫「今だから」(シングル/1985年)

 “松任谷由実,小田和正,財津和夫”名義のシングル曲。作詞・作曲は松任谷、小田、財津。坂本が編曲を担当した。レコーディングのメンバーは坂本、高橋幸宏(Dr)、後藤次利(Ba)、高中正義(Gt)。坂本の煌びやかなシンセサウンド、高橋のタイトなビート、高中のなギターなど、聴きどころ満載の80’sポップの名曲だ。

・大貫妙子『Cliché』(アルバム/1982年)

 『ROMANTIQUE』(1980年)『AVENTURE』(1981年)に続く、“ヨーロッパ3部作”の第3弾。坂本はレコードのA面にあたる4曲(「黒のクレール」「色彩都市」「ピーターラビットとわたし」「LABYRINTH」)をアレンジ。“アンニュイで憂いを帯びたヨーロピアンテイストのポップス”という80年代の大貫のスタイルを的確にサポートしている。坂本は“シティポップの名盤”と称される1977年のアルバム『SUNSHOWER』でも全曲の編曲を担当。2010年には“大貫妙子&坂本龍一”名義のアルバム『UTAU』を発表するなど、彼女のキャリアにおいて、きわめて大きな役割を果たした。

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