レコード会社がNFTに参入するメリットとは? ビクター鵜殿高志氏に聞く、アーティストを広く知ってもらうための活用法

ビクターがNFT参入に至った経緯

 株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント(以下ビクター)がNFT技術を活用したプロジェクトをスタートさせた。

 3月15日、東京・代々木公園 イベント広場 野外ステージにて行われたヤングスキニーのフリーライブで来場者特典として「いつかの引換券付きチケット型カード」を先着で配布。これはビクターオンラインストアに実装されたNFT技術を連動させたもので、ドキュメント映像などのコンテンツを提供している。また、3月18日に開催されたスピードスターレコーズ30周年記念『LIVE the SPEEDSTAR』では先着3,000点限定で来場記念NFTを無料プレゼントした。これらの施策は、株式会社レコチョクのECソリューション「murket」を採用した「ビクターオンラインストア」を通して行われている。

 リアルサウンドでは、ビクターの鵜殿高志氏(経営企画部 部長兼 新規事業準備室長)にインタビュー。NFT参入の経緯、ヤングスキニーのフリーライブ、『LIVE the SPEEDSTAR』でのNFT配布の手ごたえ、NFTを活用した今後のビジョンなどについて聞いた。(森朋之)

楽曲、アーティストのプロモーションのためにNFTを活用

ーービクターとしてNFT参入を決めた経緯から教えていただけますか?

鵜殿高志(以下、鵜殿):最初のきっかけは、社長(代表取締役社長:植田勝教氏)に「ビクターでNFTを扱う道筋を作ってほしい」と言われたことですね。私自身、元々はNFTの知識が浅く、まずはNFTのことを知るところから始めたというのが正直なところです。いくつかの企業さんからNFT参入に関するお話を伺ったり、web3.0のセミナーなどに出席したりしながら少しずつ理解を深め、弊社で何ができるかイメージを固めていきました。

ビクター鵜殿高志氏

ーー御社のNFTのプロジェクトはNFTの販売も可能なレコチョクのECソリューション「murket」を採用した「ビクターオンラインストア」を通して行われています。

鵜殿:「ビクターオンラインストア」をリニューアルしたのは2022年7月。「murket」はデジタルコンテンツも取り扱える仕組みがあり、将来の拡張性も含めてリニューアルしたのですが、NFTのプロジェクトに取り組んだ後にNFTの販売もそこでできることを知りました。そして「だったら自社(ビクターオンラインストア)でやったほうがいいね」ということになりました。ただ、その時点でどういうことが可能なのか見えていないところがあって。

ーーその後はレコチョクのスタッフと週に1度のペースでミーティングを重ねたそうですね。

鵜殿:はい。昨年の6月から専門知識のある方々からレクチャーを受けたり、国内外の事例なども参考にしながら、NFTに対する理解を深めていきました。NFTの起点は、“このデジタルコンテンツは唯一無二のもの。だから価値がある”と信じ合うということ。当初は“信じるか信じないかはその人次第”というイメージもありましたが(笑)、レコチョクのスタッフとミーティングを重ねるなかで、ブロックチェーンの在り方を含めて学ばせていただきました。海外ではメジャーアーティストが音源そのものをNFT化するケースもすでにありましたが、いろいろと学んでいるうちに、著作権の問題などを含めてかなりハードルが高いことがわかって。そのことを踏まえて、具体的に何ができるかを一緒に探っていきました。さらに11月には社内での説明会も2度ほど行いました。自社でNFTを扱えるようになったことを弊社のスタッフに周知し、活用に向けて動いてもらえたらなと。そのときに我々が強調したのは、「楽曲、アーティストのプロモーションのためにNFTを活用しましょう」ということですね。SNSがプロモーションやマーケティングの中心になった時代だからこそ、NFTを活用すれば、ユーザーにきちんと寄り添える活動ができるはずだと。

ーー“NFT=投機”というイメージもありましたが、そうではなく、プロモーションの一つとして利用したいということでしょうか?

鵜殿:そうですね。弊社でNFTの導入に向けて動き始めた時期はNFTバブルみたいなものがはじけてきていた時期でした。ただ、我々はレコード会社であり、あくまでも音源をメインにしているので、NFTもやれるならやりたいけれど、順を追って丁寧に浸透させるなら、今のようなやり方がよいのかと思っています。もちろんNFTを商材にしてビジネスを展開してもいいのですが、そこで利益を上げるのは難しいでしょうし、レコード会社としての本筋ではないので。あと、いくらこちらからアプローチしても、アーティスト側に興味がなければやれませんから。啓蒙というわけではないですが、アーティスト、担当者を含めて、NFTを理解してもらうことも必要でしたね。

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