lynch.、かけがえのないバンドを続けていくための進化 新たなスタートを切ったこれからの活動を語る

lynch.、バンドを続けていくための進化

 lynch.が、3月1日にアルバム『REBORN』をリリースする。前作『ULTIMA』から約3年ぶりとなる本作は、一時活動休止から復活を果たした昨年11月23日開催の日本武道館ワンマンで発表された。インタビュー中の悠介の発言にもあるように「生まれ変わったlynch.として1からスタートする」という意欲が込められた作品である。本作ではメンバー全員が作曲を担当したことにも“生まれ変わったlynch.”の姿が表れているのではないだろうか。昨年の日本武道館ワンマン、それぞれの楽曲制作を通して、進化を示すアルバムになったこれからのlynch.について聞いた。(編集部)

lynch.をマイナーチェンジするためにこの壁は絶対にクリアしないといけない

ーーまずは復活おめでとうございます、待ってましたと伝えさせてください。

一同:ありがとうございます。

ーー昨年11月23日に開催された日本武道館ワンマンにて約一年弱ぶりに復活となりましたが、当日のことを振り返っていただけますか?

葉月:まず朝起きて健康であることに感謝しましたね。一時期に比べればだいぶ(コロナ禍の影響が)穏やかになったとはいえ、また中止になりかねないですし、たとえコロナじゃなくても起きて鼻が詰まっていたら満足に歌えないわけじゃないですか。なので、とにかく健康には気をつけてましたし、逆に健康状態にさえ問題がなければいいライブができる自信はありました。

悠介:久しぶりにファンのみんなと同じ時間を過ごして、これまで当たり前だったものがこんなにも特別なものなんだと気づかされました。もちろん武道館という場所は特別ではあるんですけど、それ以上にファンとの時間というものがいかに大切だったのかを改めて再確認した一日だったと思います。

玲央:本当にlynch.があってよかったと思えるライブができたと思います。メンバーはもちろん、多くのファンや関係者の方に喜んでもらったというのは別の言い方をすれば、移り変わりの早い音楽業界でlynch.は生かしてもらっているという証でもありますし、そこでいいライブをすることで僕らの存在意義を改めて再認識する機会をいただけたと思っています。

ーーメンバーの皆さん各々が一時活動休止中にソロやバンドをはじめ、サポート等も含めてそれぞれlynch.から離れて外での活動をされていたかと思うのですが、日本武道館に向けてどのようにlynch.に戻っていったのでしょう?

玲央:もちろんリハーサルで集まることはありましたが、lynch.に戻ったなと実感したのはステージの上ですね。当日、SEが鳴ってステージに立って、一曲目の「LAST NITE」が始まった時にリハーサルとは違う一体感を感じました。あの瞬間にlynch.として帰ってきた実感がありました。

ーー当日は明徳さんのMCが印象的でした。やはり、人知れず日本武道館に対して様々な想いを抱えながら当日を迎えたのでしょうか?

明徳:今までは自分のしたことに対して「ごめんなさい」「申し訳ありませんでした」って言ってきただけで。もちろんそれも必要だったんですけど、武道館のステージに立って、「ありがとうございます」という言葉を一番伝えたかったんです。そのためにこれまでの流れを話して、全員に向かって“ありがとう”をしっかりと伝えなくちゃという想いが強くて、下手したら演奏よりも緊張してたかもしれないです。

ーーそして、その武道館で発表されたのが今回リリースする『REBORN』ですが、一時活動休止前から葉月さんが“他のメンバーの色をもっと出したい”とおっしゃっていたことを踏まえて、今作のコンセプトや構想みたいなものはあったのでしょうか?

葉月:コンセプトや構想みたいなものは特になくて、音源をどうやって作ろうかというミーティングを進めていく中で最低でも一人二曲ずつ持ち寄って10曲にしようという指標が決まった感じですね。

ーー前述の発言を踏まえて、これまで作曲に参加してこなかったメンバーも作曲するんだろうという予想はついていたものの、ここまで均等に割り振られているというのは驚きでした。メンバーから見て『REBORN』はどんなアルバムになったと思いますか?

晁直:全体的に見るとやっぱり特殊なアルバムですよね。

葉月:lynch.の歴史を見てもここまで曲を持ち寄って作ったアルバムは初めてなので、そういう意味ではバンドらしいアルバムだなと思います。

玲央:今までになかった作り方をしたという意味でも実験的なんですけど、結果的に意外と安心感のある作品になったなと思うし、その両方が混在してるなと思います。

ーー今実験的というワードがありましたが、それ故の怖さ、もしくは逆に楽しみなど、どういった気持ちで制作されていましたか?

玲央:僕は半々でしたね。ちゃんと仕上げられるのかという不安もありつつ、やってみないとわからない部分もあるわけじゃないですか。ましてや僕たちは一時活動休止をしているからこそ、やらなきゃいけない部分でもあるし、そこができなかったら何のために休んでいたのかというところにも繋がるので、lynch.をマイナーチェンジするためにこの壁は絶対にクリアしないといけないなと思って制作していました。

悠介:これは毎回思うことでもあるんですけど、作る以上は前作を超えないとという思いもある中で、今作で初めて曲を作るメンバーもいて、どんな曲が出てくるかわからないし、出てきた後もそこからどう作っていくかなど未知な部分が多くて。僕はいろんな部分で不安が大きかったですね。

葉月:今回制作にするにあたって、この形態でないと作れないし、作る以上はこの形態でという前提で始まっているので、作る前はどっちの感情もなかったです。ただ、この作品が出来上がって、この作品がどういうものかを知って、今はツアーを前にしてとてもワクワクしています。

ーー僕自身、この音源を聴いて“これまで培ってきたlynch.らしさ”と“これまでになかった新しいlynch.”のどちらも感じる作品になっているなと感じました。ただ、復活一発目の音源、加えて一時活動休止した意味も見出すためにも新しいlynch.も見せなければいけないという側面もあり、バランスを取るのは難しくなかったですか?

玲央:目新しいことをするだけなら他にも選択肢はたくさんあったと思うんですよ。例えば別のソングライターさんに外注するとか。ただ、あくまでlynch.の歴史を踏まえたうえで枠をはみ出さないように新しいことをしなきゃいけない。いや、しなきゃいけないというよりはしたいと思っていました。だからこそアー写に関しても、これまで使っていない色を使いながらも、衣装はこれまで通り黒でまとめたりと、既存のものと新しい流れを両立させたいと考えていたので、難しさはあまり感じなかったですし、結果的にうまく混ざったかなと思います。

ーー新しい流れという点に関しては先ほどもあったようにこれまで作曲に携わっていなかったメンバーが作曲に参加するというのが一番大きなトピックかと思いますが、どのように制作に取り掛かったのでしょう?

晁直:僕は活動が止まった段階で作曲をするための環境作りから始めて、メインとなるサビを何パターンか作って、そこからチョイスして広げていくという作業をしていった感じですね。

玲央:僕はネタ帳みたいなものに(楽曲の)パーツをストックしてあったので、それをニュアンス含めて葉月や悠介のように曲として認識できるところまで各パートまで作り込んで共有するということを意識しながら、自分に足りないものをソフト、ハード含めて入手して形として届けられたというところです。

明徳:僕も玲央さんと同じ感じでずっと手元にあった素材を7月の曲出しの締切期限に向けて作り込んでいきました。

ーーlynch.の楽曲を新たに作るうえで、既存の楽曲との混ざり方は意識されたのでしょうか?

晁直:僕は何も考えてないです。というよりは何も考えられないが正しいかもしれない(笑)。

一同:(笑)。

明徳:いわゆる“lynch.らしい曲”を作ろうと考えても、今までのlynch.の歴史を踏まえて葉月さんより“lynch.らしい曲”を作れる人はいないので、あまり考えすぎずに“自分の作る曲はこんな感じです”と作って、あとはメンバーに委ねていました。

玲央:既存の“lynch.らしさ”の中に収めようというより、今後のために新しい焦点を作れる機会だと思っていたので、僕に関しては自分のバックボーンを反映させた曲を出したんです。それをメンバー各々が歌い、弾き、叩けば、新しいlynch.の枠組みになるのかなという風に捉えていたので、既存曲をなぞるようなことはむしろしたくないなと思っていました。

ーーそれでは各コンポーザーの楽曲に焦点を当ててお聞きしたいと思います。まず葉月さん作曲の二曲(「ECLIPSE」「CALLING ME」)はlynch.の王道で、『REBORN』という作品において“lynch.らしさ”を一身に担う楽曲かと思います。

葉月:「CALLING ME」に関してはソロをやったことで、俯瞰的にlynch.を見た時に“lynch.ってこういうところがいいところだよな”って思っていた部分なんですよ。荒々しくて、ハードコアっぽさがあって、キレイすぎず、うるさすぎず、みたいな。なので、lynch.が始まったら持っていこうと思っていた楽曲です。

CALLING ME / lynch.

ーー今作において葉月さんの作曲の割合が減っている分、この二曲に全力投球できた面はあるのでしょうか?

葉月:これまでは自分が大半の楽曲を作っていて、その中で幅を持たせないとアルバムとして成立しないわけじゃないですか。それでも悠介君が作曲するようになってからはだいぶ楽にはなっているんですけど、今回はさらに楽になって、おっしゃる通り皆さんが“lynch.らしい曲”と言ってくれる曲をピンポイントで突いた感じですね。

ーー悠介さんはlynch.で作曲を始めてから時間が経ちますし、ファンの方の間でも“悠介さんらしい曲”のイメージが出来上がるほどにコンポーザーのイメージが定着していると思いますが、その中でも今作に収録されている「CANDY」は異質ですよね。ここまでヘヴィな楽曲を悠介さんが作るイメージがなかったです。これは葉月さんの作曲の割合が減ったことによってハードさを出すというような意識があったのでしょうか?

悠介:そこも若干あるんですけど、この曲で鳴ってるシンセの音の構想というのは『ULTIMA』(2020年)を作っている頃からあったんです。でも、当時は思ったような音を出せずに断念してしまって、そのモヤモヤがずっと残っていたのを解消するために自分の頭で鳴ってる音を探してはストックするという流れから作っていきました。なので、「CANDY」はギターのリフありきではなく、シンセありきで作り始めたもので、結果的にメタリックでモダンなリフが乗ってあの仕上がりになったんですけど、もっと早くできていれば『ULTIMA』に入っていたかもなと思います。

ーー「SINK」に関しては一転して悠介さんらしい楽曲だなというイメージです。

悠介:そうですね。ただ、この曲に関しては健康(ex真空ホロウ 松本明人とのユニット)の活動で得たものを取り入れていて。というのも、歌が乗っていないインストゥルメンタルの状態でも成立するように作っているんです。もっと言うと、前々からリズム隊の質感がRadioheadみたいな曲を作ってみたくて、今回ようやく作ることができたという感じです。

ーー健康での活動がlynch.にもフィードバックされているんですね。

悠介:それは少なからずありますね。

ーー玲央さんはkein(玲央が参加するバンド。2000年に解散するも、2022年に復活)以来の作曲になりますよね。

玲央:当時のことを思い返すと、実際keinでの作曲ってヒントになるものを投げて、それをみんなでスタジオで肉づけしていくスタイルだったんですね。なので、keinやGULLETにおける作曲はその言い出しっぺが誰かみたいなニュアンスでしか捉えていないんです。でも、lynch.においては構成含めて各パートまで作り込んで原曲と完成形が近い状態で持っていくことを作曲と言うので、そういった意味では初と言っても差し支えないかもしれないですね。

ーー今keinのお話がありましたが、今回玲央さんが作曲された曲を聴いた時に特に似てるわけではないのに「暖炉の果実」(玲央作曲のkeinの楽曲)に似た独特な湿度を感じました。

玲央:別のライターさんにも同じことを言われました! 全く意識していないのになんでなんでしょうね(笑)?

ーー先ほどおっしゃっていた玲央さんのバックボーンにそういった要素があるのかもしれないですね。

玲央:自分が音楽を一番聴いていた時期というのが80年代後半から90年代、2000年代前半くらいまでで。ジャンルでいうとニューウェイブからアメリカのラウドロックまでが僕のルーツだったりするんですが、そういうものを踏まえて「CRIME」はアメリカ、「PRAGMA」がイギリスというのをある程度意識しながら作りました。

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