ゴホウビ、弱さや至らなさをポップに昇華する音楽 「kissしよ」が証明する老若男女に愛されるバンドのポテンシャル

ゴホウビ「kissしよ」が証明するポテンシャル

 cody(Vo/Gt)とスージー(Vo/Key)による男女混声ツインボーカルと、405(Ba)、むんちゃ(Dr/Cho)も含めた4人で奏でるポップでカラフルな音楽を持ち味としたバンド、ゴホウビ。今年1月にメジャーデビューしたばかりの彼らが、2月8日、メジャー2ndデジタルシングル「kissしよ」を早くもリリースした。初の楽曲「ミッドナイトコンビニドラマ」を発表してからインディーズラストシングル「スポットライト」を発表するまで、約4年にわたったインディーズ時代では、配信シングル28作、ミニアルバム2作を発表。リリースを絶えず行えたのはインディペンデントな活動スタイルゆえかと思われたが、メジャーデビューしても変わらず多作家であり、これからも私たちに様々な楽しみを提供してくれそうな予感だ。

 「kissしよ」は、codyがメインボーカルをとる男性目線のラブソング。始まりを告げるファンファーレに思い浮かぶのは、絵本に出てくるようなお城のイメージ。〈鏡よ鏡〉と語りかけるシーンや、“キスで目覚めさせる”というモチーフから連想できるのは『白雪姫』で、歌詞はおとぎ話風の世界観で彩られている。しかし冒頭で判明するのは、“ケンカの翌日に恋人がいなくなる夢を見てしまい、眠れずにいる”というシチュエーションで、どうやらこの曲の主人公は、華やかでスマートな、誰もが憧れる王子様的な人物ではなさそう。ケンカをしても相手を追及せず、言葉を変えながら“僕が情けないのがいけないんです”と伝え続ける様子は完璧な王子様像とは程遠いが、楽曲を聴き終える頃には“何だか憎めないな”という気持ちになっているから不思議だ。〈王子様なんて/ガラじゃないとわかってるんだ〉と思いながらも〈それでも僕が思いつく限りの/ときめきをぜんぶ贈りたいのさ〉と勇気を振り絞る彼を、いつのまにか応援したくなっている。

 〈ベイビー アイラブユー/アイラブユーのkissしよう/ベイビー アイラブユー/僕のキスで/何度も目を覚ましてよ〉と歌うサビは、メロディも歌詞もシンプルかつキャッチーだ。codyの「僕の3歳の甥っ子は、この曲のサビを一回聴いただけで完コピしました」というコメント(※1)にも頷ける。ico_craftsのイラストを用いたMVにはNHK『みんなのうた』に通ずる温かさと親しみやすさがあり、楽曲によくマッチしている印象だ。一方、サウンドプロダクトにおいてはThe MonkeesやThe Beatlesを意識したとのことで(※2)、ビンテージ感のあるロックサウンドも聴きどころの一つ。特に長尺のアウトロはムード抜群で、ギターの音色やサビの歌メロを踏襲したフレージングも印象的だ。

「kissしよ」 - ゴホウビ [Official Video]

 そんな「kissしよ」が、流行に敏感なTikTokインフルエンサーの目に留まったようだ。発端となったのは、ゴホウビTikTok公式アカウントによる2月8日の投稿。スージーが飼い猫にキスしようとするも、全力で拒否される様子が微笑ましいが、その後、「かいつむカップル」、「ケイデンとみづきの日常」といったカップルアカウントによる投稿が続いた。投稿された動画はサビの歌詞に合わせてキスをするもので、コメント欄には「かわいい」「幸せそう」といったユーザーからの声が目立つ。その他UGCも作成されていて、“#バレンタインにkissしよ”のハッシュタグとともに楽曲が一般ユーザーにまで広まりつつある。バレンタイン間近というタイミングの良さも追い風となり、シンプルかつキャッチーなメロディ&歌詞が功を奏した形だ。

 メンバーの目標は『NHK紅白歌合戦』に出場すること(※3)。老若男女に愛される音楽を目指す4人だが、今後「kissしよ」がさらに波及していけば、ゴホウビの音楽のポテンシャルが一つ証明されることになりそうだ。また、「kissしよ」然り、ゴホウビの恋愛ソングには、人間の情けなさやちょっとしたズルさを“かわいい”や“愛おしい”に変えてくれる曲が多い。いくつか紹介すると、まず、「次の恋が見つかるまで」は〈次の恋が見つかるまで/君を好きでいていいですか〉という歌い出しに「それってどういう意味?」と想像したくなるだろう。とりあえずキープしているような状態を指したズルい言葉にも読めるが、曲を聴き進めていくと、好きな人に恋人がいると知っても、なかなか割り切れず、最終的に出てきた言葉がこれだった、というストーリーが浮かび上がってくる。キャッチコピーのようにインパクト抜群のフレーズの裏側には、〈誰と居ても何してても/毎晩 夢に出てくるの〉と思い悩む日々や、〈これ以上傷つきたくない〉と新たな出会いに臆病になってしまう気持ちがあったのだ。

次の恋が見つかるまで

 恋愛は“惚れたら負け”とよく言うが、「友達だったよね」は自分が惚れられている側=優位に立っていると思っている人が主人公の曲だ。サビでは軽やかなリズムに乗せて〈うっすら君の気持ちに気づいていたから/強気になっていた〉と歌っている。しかしそこから実は自分が惚れた側だったと自覚していく展開で、〈あーもうホントヤバイって/実によくない あらがえない/やけに綺麗に見えるんだ〉と狼狽える様子が可笑しくもかわいらしい。この期に及んで〈君はどうしたい〉と相手に行く先を委ねるのはなんともズルいが、その後〈僕はどうしたい〉という自身への問いかけへと発展し、〈君を抱きしめたい〉という決意で以って締め括られる。

「友達だったよね」 - ゴホウビ [Official Lyric Video]

 「ラムネ」の主人公は、恋愛対象として見られていないと分かっていながらも、〈それでも必要とされるなら/うれしくて〉と好きな人からの急な呼び出しに駆けつける人物だ。〈“やさしい僕は”/今夜 海に投げ捨てるんだ〉というラストにドキッとさせられるとともに、その後の物語を想像したくなる。なお、〈恋愛ごっこだって/君の側に居たいよ〉と歌う「カメラロール」でも近いテーマが扱われているが、「ラムネ」はスージーが書いた曲で、「カメラロール」はcodyが書いた曲という違いも面白い。ソングライターが変われば言葉も変わるが、言葉が変わればバンドのアレンジも、ボーカルのアプローチも変わる。この多彩なアウトプットもゴホウビの持ち味だろう。

「ラムネ」 - ゴホウビ [Official Lyric Video]
「カメラロール」 - ゴホウビ [Official Video]

 できればなくなってほしいコンプレックスや、純とは言い難い欲望をしっかり見つめた上で、ポップで親しみやすい表現に昇華するゴホウビの音楽は、自分の弱さも相手の至らなさも許し認めるための音楽だ。このバンドに出会いさえすれば今よりもっと生きやすくなるという人も少なくないはず。だからこそ、ここからさらに楽曲が広がっていくことに期待したい。

※1:https://realsound.jp/2023/02/post-1253992.html
※2、3:https://realsound.jp/2023/02/post-1249815.html

「kissしよ」

■リリース情報
「kissしよ」
2023年2月8日(水)配信
https://lnk.to/kissshiyo

■ライブ情報
『あるくとーーふpre. 歩豆腐街』
 【日程】2023年2月28日(火)
【会場】 下北沢ReG
【出演】 あるくとーーふ / ReiRay / ゴホウビ

『ゴホウビ ONEMAN LIVE "Home Sweet Home!! Vol.1"』
【日程】2023年5月11日(木) 開場18:15 / 開演19:00
【会場】Shibuya WWW

■関連リンク
■公式HP:http://gohobi.site/
■公式Twitter:https://twitter.com/gohobi_records
■公式YouTube:https://www.youtube.com/c/ゴホウビ

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