THE SLUT BANKS、ロックバンドらしく暴走し続ける 2年ぶりアルバム『Lucky & Rock』に散りばめた音楽の原体験

THE SLUT BANKS、攻めの姿勢

 THE SLUT BANKSの約2年ぶりとなるニューアルバム『Lucky & Rock』はタイトル通り、これまで以上に明るく爽快な作品に仕上がっている。鍵盤や女性コーラスといった、大きな振り幅を見せたサウンドプロダクトに、結成から25年を超えてもなりふり構わず暴走し続けるロックバンドらしい、余裕の中にある貪欲な音楽探究を垣間見る。なんでもありなその振り幅によって、どんな音楽をやってもTHE SLUT BANKSになるという自信をまざまざと見せつける意欲作だ。

 板谷祐(Vo/TUSK)、坂下丈朋(Gt/三代目ACE DRIVER)、戸城憲夫(Ba/DUCK-LEE)という泣く子も黙る百戦錬磨のメンバーの中にひとり紛れた、現在27歳のドラマー・GOD後藤が参加する作品としては2作目。その若さと物怖じしない姿勢を存分に感じるエネルギッシュなプレイがバンドの大きな起爆剤となっている。多彩なアルバムの全貌はもちろんのこと、親子ほど年齢の離れたメンバー同士の不思議な関係性まで、とことん迫っていく。(冬将軍)

我慢と人恋しさと、ほんのちょっとだけ希望をぶち込んだ歌詞になりました(TUSK)

——ジャケット、バンドの円熟味とアーティスティックな質感のバランスが絶妙ですね。

戸城憲夫(以下、戸城):おしゃれでナルシストにならないように、だな。そういうバンドでもないし。デザイン的にはアンディ・ウォーホルみたいな感じだね。

——そんなジャケットを象徴するように、本作はこれまででいちばんバラエティに富んでいるアルバムなのではないかと思います。

戸城:バラエティというか、ポップにしたかったんだよ。ガツガツとした“ロック”じゃなくて、“ポップス”にね。1975年前後の音楽が好きなんですよ。今でも気づいたら、そういう子供の頃に聴いてた曲ばっかり聴いてるから。「やっぱ、いいな」と思うんだよね、アレンジも。だからそういう感じにしたかったというのはあります。

——アレンジは曲作りの段階で見えているのですか?

戸城:そうそう、作りながら「何の楽器を入れよう?」とかね。もちろんやっていくうちに考えたところもあるけど、大体はそういう感じで展開していく。

——ポップス路線の楽曲が多いということで、歌詞はこれまでと変わった部分はありますか?

TUSK:バンドとしてはどんどん前に行きたい気持ちはある、だけど、こういう世界的な状況もあるからさ。少し前の話だけどコロナ禍ではライブハウスが叩かれていたこともあった。そうやってなかなか活動もままならない中で頑張っていく、みたいなのがひとつのエネルギーになったりもしたんだけど。コロナの流行が始まって3年ぐらい経って、我慢して「俺たち頑張った」と思う瞬間も一瞬あったけど、その到達点もなんか違うなとも思った。そういう中だからこそ全然関係ないことを書ければよかったんだけど、やっぱりTHE SLUT BANKSというのはリアリティを重視してるし。今回は、我慢と人恋しさと、ほんのちょっとだけ希望をぶち込んだ歌詞になりましたね。

——TUSKさんらしい社会風刺、皮肉っぽさってあるじゃないですか。本作でいえば「ぐにゃり」だったり、「ガイライヤマイ」はタイトルから直球ですし。

TUSK:そういうのも、悩みはしたの。音だけ聴けば、ラッキーでロックなバンドがバーン! と行ってるんだけど、それに伴うリアルな言葉がなくて、やむを得ず個人的な思いが強くなった感じはある。でも、そうやって吐き出すことで前に行けるっていうのもあったかな。

——それは制約のあるライブの中で感じたことが大きかったんですか?

TUSK:正直言うと、まだ行き詰まってる感はあるしね。「どうしよう? どこに行けばいいの?」みたいな。この状況がまだ続くかもわからないけど、これからも向き合うべきテーマかなって思ってはいる。お客さんのノリも、THE SLUT BANKSはぐっちゃぐちゃになってナンボのところもあったから。それが失われると、盛り上げるのも難しいし。だから楽しみ方というものに対して、しっかり向き合っているよね。

——ライブ自体の制約は徐々に緩和されてきているとはいえ、シーンの状況的には厳しいところはありますよね。

TUSK:いやぁ、難しいよ。ガクンとお客さんが減ってさ。一時は「こういう時だしな」と思ったけど、プロ野球やワールドカップは盛り上がってるから、いいショーをしていればちゃんとお客さんが来ることはわかってる。だから、いい方法を探っていますけどね。悪くはない課題だと思います。

俺たち、おっさんくさい音楽はやってないからね(戸城)

——アルバムのサウンド的には鍵盤やウワモノが多いですが、それによってギターの取り組み方も変わったのではないかと思いますが。

坂下丈朋(以下、坂下):ホーンみたいなフレーズとか、もっとダビングが入ると思ったけど。結果的にアレンジはギターではなく、他の楽器でやることになったから、ギターだけ聴くと割とシンプルだよね。やるべきことをやって、あとは違う楽器にアレンジを任せるというのが多かったかな。でも、THE SLUT BANKSは昔からそうだけど、バラエティに富んでいるよね。今回はそれがよりわかりやすく、具体的に出てきたなって。

——派手さがありますよね。そして、ウワモノに抗うようなアグレッシブなドラムがすごくいいなと感じまして。個人的にスネアの音が大好きです。

GOD後藤(以下、GOD):おー、ありがとうございます!

戸城:「おっ、コイツわかってるな!」って顔してるね。

GOD:言い方よ!

一同:(大笑)。

GOD:こういうバンドですから、スネアの音ひとつとっても日和ることができないんです。前回と比べて音選びも幅広くなって、チューニング含めて、楽曲ごとに差別化することができるようになったと思います。スネアの音でいうと、11曲目の「どうにもならねぇよ」は他の曲ではやってないような重心が落ちてる感じだったり。個人的にドラムのチューニングに関して幅が広くなるきっかけがここ1年くらいであって。というのも、石井悠也さんのローディーをさせてもらったんです。第一線で活躍されてるドラマーなので、横で見ていて“いい音”と出会える瞬間がすごくあって。そこでストックされていったものがこのアルバムに反映できたんじゃないかな。

——ドラムに関して、戸城さんからリクエストされることはあるんですか?

GOD:THE SLUT BANKSは戸城さんの中に「こうして欲しい」と固まっているものがあるので、そこにどれだけ応えられるか。要所要所好きにやっていいという箇所もあるにはあるけど。

戸城:「とにかく叩いて!」って。うるさく言うのは、キックの感じとか、リズムのパターンだけ。俺がベースだからなんだけど、自分のフレーズと合わないと気持ち悪くて仕方ないから。フィルとかは自由でいい。

——THE SLUT BANKSはこれまで錚々たるドラマーが叩いてきましたが、そこに対するプレッシャーみたいなものはありました?

GOD:どうだろう……あまりないかもしれないですね(笑)。歴代いろんな方がやってきて、中には自分が一方的に慕っているドラマーもいたんです。城戸(紘志/参代目KiD-HIROSHI)さんとか。ネットに「叩いてみた」動画を自分で上げさせてもらってるからかもしれないけど、誰かのドラムを自分なりに叩くことをずっとやってきたから、他人のドラムと比べて自分がどうというものはそんなにないんです。ただ曲を聴いて「こう叩きたい」という感覚でやっているというか。「このフレーズはカッコいいからこのままやろう」となったらそうだし、「ここは変えよう」と思ったら素直にそうするし。そこはTHE SLUT BANKSでも同じです。

TUSK:GODの何がいちばんすごいかって、やっぱ若さっすよ。20代というのは大きな武器です。だからGODは早くTHE SLUT BANKSをやめるべきです!

一同:(笑)。

TUSK:ここで充分吸収してもらって、まぁ、吸収できるものがあるかわからないけど、羽ばたくべきです。だから本当に好きにやっていただきたいし、言っちゃえば、DUCK-LEEさん、戸城さんは60代、俺も50代ですよ。そういう中に混ざって20代の若者が楽しんでバンドをやっていることが、俺もすごく楽しいし嬉しい。GODもGODで譲らないしね。

一同:(大笑)。

戸城:手前味噌で悪いけど、俺たち、おっさんくさい音楽はやってないからね。だから若いヤツも付き合ってくれるんだと思う。

GOD:自分世代のバンドでもこんなに攻め攻めのバンドはいないですからね。他のバンドだとヘタってくるところでも自分は「まだいけるぜ!」って。「ああ、これはTHE SLUT BANKSで20何曲もフルスロットルで叩くライブをやってきたからだな」って思う。

戸城:(『巨人の星』の)“大リーグボール養成ギプス”だな。

TUSK:若い人と対バンすることはあっても、一緒にやることはなかなかないと思うから我々はラッキーだよ。俺たちは若い人たちのことはわからないし、若い人は昔のことがわからないだろうし。でも、交わっていくことで良いものが生まれたら……というのが、このアルバムですよ!

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