でんぱ組.inc~ディアステージ~秋葉原の過去と現在 古川未鈴&相沢梨紗&小鳩りあが吉田豪と語り合う
ディアステージは熱くないとなかなか生き抜いていけない
――やる側としてもグループ一新で新鮮さが出て、またおもしろくなってきた感じはあるわけですか?
古川:ぺろりんがすごくお姉さんというか、もう一番下じゃないからしっかりしなきゃって、頑張ったらちょっと小ボケをかます感じがおもしろかったり。ピンキー(藤咲彩音)もすごくお姉さんになってしっかりしたり、私が知ってたメンバーの関係性も変わりましたね。あと新メンバーの子たちがここ最近ツアーを周るようになって、いろんな側面が見えてきたのがおもしろくて。りあちゃんのことは勝手に不思議天然系なのかなって思ってたんですけど、バチクソ熱い女だったっていうのがめちゃくちゃおもしろい。でも、よく考えたらりあちゃんって秋葉原ディアステージの文化がかなり根づいてる系のディアガなんですよね。私も梨紗ちゃんもディアガ出身ではあるので、じつはちょっとこの3人って通ずるところがあるんですよ。ディアステージは熱くないとなかなか生き抜いていけないところではあるから、たしかになって。
――ディアステージはそういう世界なんですか?
小鳩:やりたいことをちゃんと自分で発信してやっていかないと見つけてもらえないというか。私はずっともふくさん(福嶋麻衣子)に見つけてほしくて、店舗でどれだけ人気が出るかとか、どんな成績を残すかをけっこう考えてました。
相沢:やりたいことがないとルールも無茶苦茶だし、毎日やることも変わるしけっこう面倒くさいと思う。それを楽しいと思えるちょっと特異な人じゃないと根づかないところがあるかな。
古川:そこの試練を突破した3人(笑)。
――もふくちゃんに見つけてほしかったっていうのは?
小鳩:ディアステージには、でんぱ組.incみたいなユニットをやりたいっていう気持ちがあって入店したんですけど、ちゃんと集客があって自分のキャラクターを持ってないとユニットは作ってもらえないんです。もふくさんにちゃんと私のことを覚えてもらわないとと思ってがむしゃらでした。でんぱ組.incに入る前はENGAG.INGっていうユニットをやってて、もふくさんにもっと見てもらいたい、もっと目をかけてほしいって思いが届くのにけっこう時間がかかったなって。挫けそうになったこともいっぱいありました。
――でも、届いたからこそでんぱに入れたわけですよね。
小鳩:でんぱ組.incみたいになりたいと思ってやってきたけど、まさか本物になっちゃうとは思ってなかったというか、夢のまた夢というか。そんな未来もあるんだなって。私も未鈴さんが言ってたみたいに30歳になったら死ぬって、言ってはいなかったけど思ってはいたんですね。
――そっち側の人だったんですね。
小鳩:でも、私がでんぱ組.incになっちゃう未来が来たり、未鈴さんが結婚されて子供を産んでっていう未来を生きてるのを見ると、「私もしかして生きててもいいのかもしれない」って。
古川:おっ、誰かの希望になれた!
小鳩:でんぱ組.incはずっと続いてるし、未来ってちゃんとあって、私もちゃんと生きてていいのかなって思いました。
古川:いいんだよ!
――それを未鈴ちゃんが人生で示しているから。
小鳩:はい、でんぱ組.incに示してもらった未来です!
古川:そんな大層な人間じゃないですよ、私は。ご存じだと思いますけど(笑)。
――ダメな人がここまで来たのがすごいんですよ!
古川:たしかにいま考えると私がAKBのオーディションに落ちたのもモーニング娘。のオーディションに落ちたのもよかったなっていうか。私たぶんここでしか生きられなかったんだなって。
――わかります!
古川:わかりますよね(笑)。それはひしひしと思ってます。
――コミュ障の人たちのリハビリ施設的なイメージも、でんぱにはあったんですけど。
古川:それはずっと言ってたね。
相沢:活動自体がリハビリだからっていうのはすごく言われてたな。
――それが実際こうやって形になったというか。
古川:いやすごい! うれしい。
相沢:ただ、りあちゃんみたいにソロでの素質が見えてると、逆にグループに入れてもらいづらいこともあるのかも。
――もふくちゃんが昔言ってましたもんね。ディアステの初期はアニソンシンガー的なことをソロでやりたいような子が多かったって。
古川:私はずっとディアステージで頑張ってる子をでんぱ組.incに入れたいなって言ってて。今回りあちゃんもそうだし、店舗組でりとさん(天沢璃人)も入ってきてくれて。ディアステージにいたからこそステップアップできたとか、夢がひとつ叶ったみたいな、そういう場所になるのがいいんじゃないかって。
相沢:りあちゃんはメイドさんを経験してディアステージに入ってくれて、世代は少し違うけど一緒のルートの子がいるのが心強い。
古川:おもてなしの心がね(笑)。メイド経験者って人に喜んでもらうのが好きじゃないですか。その根っこにある部分ってでんぱ組.incにとって大事だと思ってて。えいたそも、ねむさんも、メイド喫茶出身が多かったので。
――トイズファクトリーの稲葉社長を落としたのがえいたそのメイドスキルだったわけで、そこが重要なんですね。
古川:そうだ! 現代のナイチンゲールとか言って。社長をあんなに感心させる……しかも数分の接客ですからね。それほどのえいたそのおもてなしの心がいまのでんぱ組にとっても大事だし、りあちゃんにも根づいてると思う。
小鳩:私、秋葉原がすごく好きなんです。『電車男』が流行ってたりメイドカフェ全盛期みたいなときはまだ福岡にいたので、あこがれが強くて同じようなことがしたかったんですよ。だから福岡のメイドカフェで働き始めて。あの当時の秋葉原に生きていたかったなって。
古川:これ、早く新しい「W.W.D」を作るべきじゃないですか? いまの話で。
相沢:最近のツアーとかを経て、とうとう「W.W.D」ができるかもとは思ってる。私たちも私たちなりにいろいろな思いがあるだろうし、新規で入ってきてくれた子たちも成長して変わって、自分たちの意見とか気持ちを伝えてくれるようになったけど、そのなかでまた生まれてることがけっこうあるのかなって。昔のは封印してていいと思うんですけど。
――いっそ曲はそのままでもいいですよ。歌詞を新しくして、長くなったりするぐらいで。
古川:ヒャダさん(ヒャダイン)ならやってくれそう。
相沢:最初に歴代のイントロとか語り部を入れて。
――それぞれの人生めちゃくちゃ聴きたいですよ。
古川:ぜひ聴いてほしいです!
3人が愛した秋葉原という不思議な街
――秋葉原にあこがれてたという意味では、今回の『でんぱぁかしっくれこーど』がまさにそういう世界なわけじゃないですか。
小鳩:そうなんですよ、すごくうれしいです。
相沢:しかも、りあぴは「我ら令和のかえるちゃん!」を作ってくださったまふまふさんがめちゃくちゃ好きで。
小鳩:まさかまふまふさんと交わる世界線があるとは思ってなくて。仮歌を聴いたとき吐くかと思いました(笑)。
――まさかここまで原点回帰するとは。FICEの「接吻〜らぶらぶ🖤ちゅ〜」カバーには本気でビックリしましたよ。
古川:あれ、豪さんFICEさんわかる?
――わかりはしますけどボクはまったく通ってないというか。当時、アイドル文脈とは違うところから不思議な人たちが出てきたな、ぐらいの感覚でした。
古川:いまのとこFICEさんについてまだ誰とも熱く語れていないんですよ。
相沢:私も存在は知ってるけど直接会ってお話とかはしたことがなくて。メイドカフェを始めるときにプロフィール写真を六本木のスタジオに撮りに行かなきゃいけなくて、人生で六本木に行ったことがなかったからめちゃくちゃビビッてたんですよ。怯えながら改札を出たら目の前にピンクと水色の頭の人が歩いてて、すごいなと思って。後々それがFICEさんだってことがわかるんですけど、あの人たちがいるなら大丈夫かも、みたいな感じで行けたんですよ。初めて東京で見た芸能人の記憶がFICEさんだったので、あのときから10何年経ってここで関わりができるとは思ってなかったのでビックリしました。
古川:私たぶん共演したことあると思います。さすがにはるか彼方すぎるから定かではないんですけど、「接吻〜らぶらぶ🖤ちゅ〜」ももちろん知ってるし。たぶんライブで会ってるんじゃないかな。
――いま検索したらあとのほうのバンド体制でやってる動画と、あとはニコニコ動画に当時の秋葉原路上でのめちゃくちゃ画質が粗い動画がひとつ上がってるぐらいで。
古川:われわれの参考資料もたぶんそれです(笑)。
相沢:コスプレの女装子さんたちがいっぱい映ってて。
古川:それこそアキバでホコ天をやってた時代だと思うんですけど。まず秋葉原のホコ天でライブをめちゃくちゃやってたという事実がいまではまったく考えられないというか。
相沢:めちゃくちゃやってましたね。コスプレイヤーさんもあふれてたし。すごい時代だったね。
古川:毎日がコミケみたいに賑わってて。最近、秋葉原に来た子はたぶんその光景を知らないのがもったいないというか。
相沢:ホントに不思議な街だった。メイドカフェが夜中まで営業してると『FF(FINAL FANTASY)』のクラウドさんの姿の人がお店にふつうに飲みに来てくれたり。それがお祭りとかじゃなくて日常だったから。
古川:なぜかみんな仲間感があったよね。
小鳩:そういうのをテレビとかで観てすっごくあこがれてたんですよ。
相沢:あの頃テレビでやってた秋葉原ってけっこうおもしろおかしく、ちょっと妙なところだけピックアップされて放送されてたから、それがおもしろくて私もやりたいって言ってくれてるのはすごい。
小鳩:ニコニコ動画とかでも観てたので。ホコ天もそうですし、コスプレしたみなさんがハルヒを踊ってたり(『涼宮ハルヒの憂鬱』EDテーマ「ハレ晴レユカイ 」のダンス)。
相沢:オタクの人は愛情でいろんなことができちゃうちょっと特異な人種というか。ゆかりん(田村ゆかり)の現場でちゃんと製本した口上の本を無料で配ってる方がいて、それをもらったときに「すごいな、この場にいるだけで仲間だと認めてくれるんだ」と思ったのが印象に残ってるし、そういうところに感動してオタクが好きになりました。そのつながりが秋葉原の街にはあったんですよね。
――だからこそ、いまここに来るかって衝撃を受けました。
古川:われわれも衝撃ではあったんですけど。
相沢:FICEさん、MOSAIC.WAVさん、IOSYSさん。そこに玉屋2060%さんやヒャダインさん。でんぱが初期からお世話になっていて、この先の道筋が見えるような、授けてくれるような魔女的な存在でもある畑亜貴さんまで参加してくださっていて。でんぱ組.incの歴史もしっかり感じられる『でんぱぁかしっくれこーど』、素晴しいですね。大好きです。
古川:豪さんは原点回帰って言ってくれたんですけど、あんまり原点回帰じゃなくて。原点回帰に見せかけた、超スーパー令和の魔改造された電波ソングEPだと思ってて。「令和のいま新しく電波ソング出すならこれでしょ」みたいな、めちゃくちゃ新しいものだと私は思ってて。電波ソングといったら“萌え萌えキュンキュン”みたいなものをみなさん連想されると思うんですけど、こういうのもあるんだよって突き刺すようなCDになってるんじゃないかなと。
――かなり強力にはなってました。
古川:攻撃力は高いと思います。