(sic)boy、tonun、ao、Tele……4組のライブから感じた新時代の息吹 熱気に満ちた『Spotify Early Noise Night #14』

『Spotify Early Noise Night #14』レポ

 3組目は、シンガーソングライターのtonun。Teleと同じくバンドセットでの出演だが、こちらはR&Bやソウル、ジャズなどの要素を感じさせる、グルーヴィーで艶っぽく即興音楽的なアプローチ。バンドサウンドの上を泳ぐように気持ちよさそうに歌うtonunの姿が印象的だ。甘く囁くような歌声が持ち味のtonunだが、ライブでは魅力的な声質を保ったまま伸びやかな歌声を聴かせてくれる。また、1曲目の「東京cruisin’」はシンコペーションを多用したメロディラインやBメロのラップパートのハマりが良く、リズムのセンスが伝わってきた。「Sweet My Lady」では、サポートギタリストとともに前に出てきてギターを鳴らし、腕の立つギタリストとしての一面も見せてくれる。

 束の間の静寂が生まれたと思いきや「……MC、忘れてました(笑)」と初々しさを覗かせつつもライブは進み、花火を模した映像演出があった「真夏の恋は気まぐれ」、切ない恋のバラード「今夜のキスで」と短いセットの中で多彩な楽曲を披露したtonun。「最後2曲、踊れるような曲を用意してるので、準備はいいですか?」と「琥珀色の素肌」を届けたあとは、華やかな最新曲「Sugar Magic」をドロップ。サマーソングの連投にフロアが高揚感に包まれる中、情熱的な歌唱で以って根にあるソウルを表出させるtonunだった。

 イベントを締め括ったのは、ラッパーの(sic)boy。1MC+1DJ編成での出演で、「Akuma Emoji」でライブをスタートさせると、以降、曲間をほとんど空けずに次々と楽曲を披露していくストイックなスタイルだった。ヒップホップにロックやエモ、ハードコアを掛け合わせたトラックに乗って繰り出されるのは、言葉を打ち出す鋭いライミング、緩急豊かなフロウ、リミッターを解除させながらのスクリーム。ボーカリストとしての瞬発力の高さがどの瞬間からも窺える。(sic)boyの勢いに満ちたアプローチによって、ステージの熱はフロアにも伝染していった。

 「新曲です。みんなの耳で堪能してください。よければぶち上がってくれ!」と紹介された未配信曲「dark horse」までの6曲を一気に駆け抜けると、「熱いっすね」と(sic)boy。MCで「2年半ぶりの開催って聞いて、コロナ(禍から)からそんなに年月が経ってるんだって気づきました」、「こうやってパンパンに人を入れてライブできるようになって。すごく嬉しいです」、「熱気がすごくて、逆に緊張が解けてます」と実感を語っていたように、ライブハウス特有の熱気が彼のパフォーマンスをさらに良くさせているのだろう。新曲「Afraid??」の〈何も怖くないよ/君がいない夜を超える〉というラインを抜群の歌声で響かせると、ライブはクライマックスへ。ラストには、彼の存在を一躍シーンに知らしめた楽曲「Heaven's Drive」を披露したのだった。

 おそらくこの4組の対バンをO-EAST規模のライブハウスで観られる日はもう二度と来ないだろう。そんな確信を観客の心の内に残して終わった『Spotify Early Noise Night #14』。

『Spotify Early Noise Night #14』(sic)boyライブ写真
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 みずみずしい感性で以って音楽の可能性を広げる新しい才能と、自身にフィットする音楽を求めてシーンにアンテナを張るリスナーとが繋がる場として、これからも『Spotify Early Noise Night』は重要な役割を担ってくれるはずだ。

当日のセットリストプレイリスト

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