連載「lit!」第26回:米津玄師、Vaundy、Måneskin、The 1975……再燃するロックシーンの最前線を象徴する5作
週替わり形式で様々なジャンルの作品をレコメンドしていく連載「lit!」。第26回となるこの記事では、「2022年、ロックの現在地」に迫る5つの作品を紹介していく。
10月上旬に公開した第20回(※1)では、「2022年秋のアニメ作品を彩るロック/バンドの楽曲」というテーマのもとで5つの作品を選出したが、その時はタイミングが合わずどうしても取り上げられなかった楽曲があった。それが、アニメ『チェンソーマン』(テレビ東京系)のオープニング主題歌である米津玄師「KICK BACK」だ。リリースから数週間が経った今も痛快なチャートアクションを続けていて、日本の音楽シーンを問答無用で“ロック”した同曲については、どうしてもこの連載で触れておきたかった。また、第1話のエンディング主題歌であるVaundy「CHAINSAW BLOOD」についても同様で、今、様々なアーティストによって、『チェンソーマン』からインスパイアを受けたロックチューンが次々と生まれている。今回フィーチャーする米津もVaundyも、いわゆるロックバンドではないが、その2人がこれほどまでに豪快なロックを作り上げた事実に心を撃ち抜かれたリスナーは多いと思う。
また、グローバルのポップミュージックシーンにおける動きからも目が離せない。10月14日には、『SUMMER SONIC 2022』における来日公演も記憶に新しいThe 1975から新作がリリースされ、その翌週の21日には立て続けにArctic Monkeysの新作も発表された。詳しくは後述するが、彼らの新作は、ロックの革新を体現するような素晴らしい作品であった。そして、夏の来日公演で日本のロックリスナーを打ち震わせた新世代ロックバンド Måneskinからも、必聴の最新シングルがリリースされた。他にも、Red Hot Chili Peppersが今年2作目のアルバムをリリースしたり、Museが新作においてロックシフトを果たしたりというように、今、世界各国で、ロック復権を巡る動きが同時多発的に起こっている。
今回、この記事でピックアップする5作品は、そうしたムーブメントのごく一部に過ぎず、この連載では今後もその動向を追い続けていくつもりだ。2022年の今、ロックというジャンルを巡る熱量が少しでも伝わったら嬉しい。
米津玄師「KICK BACK」
この曲については、『チェンソーマン』の物語と深く共振し合う歌詞や、モーニング娘。「そうだ!We’re ALIVE」のサンプリングをはじめ、数多くの側面から深掘りしていくことができるが、今回は記事のテーマに則って“米津×ロック”という切り口で語っていきたい。米津のロックナンバーといえば、「ピースサイン」や「TEENAGE RIOT」がここ数年の代表的な楽曲として挙げられるが、これほどまでにダーティで、そして無軌道な危うさを感じさせる豪快なロックチューンは、今回の「KICK BACK」が初めてだ。米津が『チェンソーマン』から受けたインスパイアは、それほどまでに深く大きなものであったということだろう。
そして、このタイアップ楽曲において、米津が自身のロックサイドを覚醒させるに至った最大の要因は、盟友・常田大希(King Gnu/millennium parade)とのタッグであると思う。米津は、BUMP OF CHICKENやRADWIMPSをはじめとしたロックバンドの音楽をルーツとして持ちながら、ソロアーティストとして活動を続けている。もちろん、これまでも様々なクリエイターとの共作を行なってきたが、「KICK BACK」の編曲を担当した常田とのタッグは、ロックバンドへの憧れを実現するという大きな意味合いがあったのではないか。今回の制作過程において、具体的に両者の間でどのようなやり取りがあったかについては、11月22日にYouTubeで公開予定の「KICK BACK対談」で本人たちの言葉を通して明かされるはずだが、いずれにせよ、お互いに背中を預け合えるような深い信頼によって結ばれた常田と“ロックバンド”を組んだことで得た刺激が、米津のクリエイティブのリミッターを解除したことは間違いない。
サウンドの鋭さや重さ、転調を重ねながら加速していくスリリングな展開がもたらすロック体験は凄まじいもので、特筆すべきは、突然ミュージカルが幕を開けるような破天荒なアレンジだ。もともと米津が持ち合わせていた表現者としての自由さが、常田のロックバイブスと共鳴し合うことでさらに増幅されていることが、あの一幕を通してこれでもかというほど伝わってくる。2020年代の日本の音楽シーンを牽引する2人のタッグによって、2022年を代表するロックチューンが生み出された事実は、ロック史に刻まれるべき出来事として語り継がれていくことになると思う。
Vaundy「CHAINSAW BLOOD」
現在、サブスクリプションサービスで累計再生数1億回を突破しているVaundyの楽曲は全7曲(※2)。それぞれ異なるジャンルのナンバーで、各ジャンルの本質をシャープに射抜いたアンセムを次々と生み出していく彼の手腕が、“1億回×7”という破格の数値を通して見事に証明された形となる。
この数年の間に何度も思ってきたことではあるが、Vaundyが誇るマルチな才能には改めて驚かされる。そして、数あるVaundyの楽曲の中でも、筆者が特に強く心を動かされているのが、彼が全パラメータをロックに全振りして生み出した楽曲の数々だ。例えば、筆者はロックフェスにおけるVaundyのステージを何度か観てきたが、「怪獣の花唄」も「裸の勇者」もすでに2020年代における新たなロックアンセムとしての輝きを放っている(オリジナル曲ではないが、ELLEGARDEN「Missing」のカバーも本当に素晴らしかった)。そして、その系譜に連なる新たなVaundy流ロックチューンが、「CHAINSAW BLOOD」である。
『チェンソーマン』の熾烈な戦いにおける鋭く重たい痛みをリスナーと分かち合うようなソリッドなナンバーで、まるで残虐な戦いに身を投じる主人公・デンジとシンクロしたかのような、頭のネジがぶっ飛んだ時の危うい高揚感をもたらしてくれる。この楽曲は、非日常的な刺激を求めて『チェンソーマン』を観た数多くの視聴者の心に、深い痕跡を残したはずだ。『チェンソーマン』という作品が放つロックのバイブスと、Vaundyが誇るポップセンスが、お互いにとってギリギリのエッジの上で奇跡的に重なって生まれたこの曲が、今後のライブやフェスのステージにおける新たな起爆剤となることは間違いないだろう。
Måneskin「THE LONELIEST」
すでに様々な場で多くの人によって語られ尽くされていることを承知の上で、あえて改めて書き記しておきたいのは、この夏のMåneskinの来日公演が本当に凄まじかったということだ。筆者は『SUMMER SONIC 2022』(東京)におけるステージを目撃した一人で、前々からとんでもないアクトになる予感はしていたが、その予想を上回るどころか、この先何年も伝説として語り継がれていくロックアクトになったと思う。コロナ禍において、海外のロックバンドの来日中止/延期が続いた時期を経てのステージだったこともあり、ロック復権のムーブメントをダイレクトに肌で感じ取ることができた感動も大きかった。王道のロックンロールバンドが時代の主役の座を退いてから長い年月が経つが、Måneskinの登場、および彼らの驚異的なペースで続く快進撃は、再びロックバンドが覇権を奪還する未来を心の底から信じさせてくれる。
この秋、そんな彼らから届けられた最新シングルが、壮大なロックバラード「THE LONELIEST」だ。余計な要素を一切排したシンプルにして強靭なバンドサウンド、果てしないロマンを描き出していくダミアーノ・デイヴィッドのボーカル。まるで空を切り裂くように高らかに轟く鮮烈なギターソロ。この楽曲には、他のMåneskinの楽曲と同じように、歴代のロックレジェンドへの果てしない愛とリスペクトが滲んでいる。そして、この2020年代において、自分たちが新時代のロックアイコンを担うのだという気概が全編から伝わってくる。凄まじくハイエナジーな楽曲である。これから新しいロックの時代を更新していく彼らと、同じ時代を生き、リリースされる新曲を聴きながら、時に来日公演を観られることは、2022年のロックリスナーの特権に他ならない。まだMåneskinのロックに触れたことがない方は、ぜひ、まずは音源で体験してみてほしい。Måneskinの物語は、現在進行形どころか、まだ始まったばかりだ。