鳥山雄司と神保彰、PYRAMIDが担う音楽の力 クラウドファンディングを経て完成した『PYRAMID 5』を語る

PYRAMID鳥山雄司と神保彰、『PYRAMID 5』を語る

 2021年に急逝したメンバーの和泉宏隆(Pf)も望み、楽しみにしていたクラウドファンディングでのPYRAMIDの新作制作。鳥山雄司(Gt)と神保彰(Dr)は彼の遺志を継ぎ、目標額の270%超えという熱い支持も得て、アルバム『PYRAMID 5』を完成させた。掲げたのは、3人が高校時代心躍らせた音楽への「Back To Basic」。当時の音楽がまとっていた熱量を、2人はPYRAMIDならではの新しいスタイルに見事に進化させた。人力のスキルと音楽へのリスペクトが詰め込まれた耳が幸せになる音。ラストの「Friendship(feat. Philippe Saisse)」に至ると、なぜか胸がジーンとする。8月からすでに「ODORO!(feat.MIHO FUKUHARA)」、「Paradise(feat. Kan Sano)」、「Back To You(feat.Millie Snow, Nenashi)」と先行シングルが続々と放たれ、「これ誰?」とチャートを賑わしてもいる。10月26日、それらの楽曲を含む『PYRAMID 5』がいよいよデジタルアウト。作品に貫かれたPYRAMIDの流儀、そして、クラウドファンディングという初めての体験について、鳥山、神保両氏にたっぷり語ってもらった。(藤井美保)

和泉くんが背中を押してくれている

ーー『PYRAMID 5』が完成して、まず何を思いましたか?

鳥山雄司(以下、鳥山):今回ミックスまで自分でやったので、「やっと終わった!」というのがまず正直なところ。もちろん、和泉くんのことはずっと頭にありました。クラウドファンディングのことも、70年代後半〜80年代初頭の音楽をソニック的指針にしようということも話していたし、「次、作るならもっとちゃんとやろう」と、一緒に覚悟も決めてたんです。「ちゃんと」というのはつまり、「PYRAMIDをもっと世に認知させよう」ということ。そう話していたのにいなくなってしまったので、とにかく和泉くんの分も頑張らなきゃと思っていました。ホッとした今は、「もっと売れたいよね」という思いを新たにしています。

神保彰(以下、神保):クラウドファンディングで270%達成という想像だにしなかった反響があって、これは和泉くんが背中を押してくれているんだなと思いました。いい作品で応えなきゃという責任感みたいなものはずっと感じていましたね。実際の作業は、プロデュース、アレンジ、エディット、ミックスに至るまで鳥山くんがやってくれたので、僕の出る幕はなかったんですけど、後ろからそれを眺めるだけですごく勉強にもなりました。実り多き体験だったと思います。

ーークラウドファンディングに参加されたファンの方たちのパワーも、いいモチベーションをもたらしてくれましたか?

神保:もちろんです。PYRAMID CITY(PYRAMIDによるウェブ上の架空の音楽都市で、クラウドファンディング参加者はそこの市民権を得る)で、市民会議というものも何回か催しまして、たとえば「こういうデモがあるんですけど、どんな曲名がいいと思いますか?」などと投げることもありました。なるほどと思う意見も多くて、そういったものは有形無形に随分作品に反映されていると思います。

鳥山:相互通行がいい刺激になりました。そうそう、クラウドファンディングのコースのひとつであるスタジオ見学もやったんですよ。ベースの須長(和広)くんと3人で「せーの」でリズム録りするところを、5人ずつ2回に分けて、3時間に渡って見てもらいました。

神保:最初は僕らも気が張ってるんですけど、音に集中していくと普段のスタジオの感じに戻っていくんですね。ファンの方たちには逆に普段見せてない姿を見せちゃったかなと(笑)。

ーーちなみにどの曲を?

神保:「ODORO!」、「Reflection Green」、「Squeeze!」、「Paradise」あたりです。

鳥山:みなさんけっこう緊張している感じだったので、途中で「よし、ハンドクラップやろう!」と思い立ち、「ODORO!」で叩いてもらいました。「市民」だけが手に入れられるCDには、ちゃんとお名前のクレジットも入れました。参加したという実感の持てるサプライズになったんじゃないかなと思います。

ーーでは、1曲ずつテーマを持って順不同でうかがっていきます。まず、お2人にとってもファンの方たちにとってもずっと心のメンバーである和泉さん軸で。「Reflection Green」は和泉さん作曲の飛翔感あふれるナンバーですね。ピアノ音源はどのように残されていたんでしょうか?

鳥山:ICレコーダーに残っていました。彼はすごく多作で……。

神保:そういったものが山のようにあるんです。

鳥山:そこから、「きっとこれはPYRAMID用に書いたものだろう」と我々が見当をつけたひとつが「Reflection Green」。いわゆる作曲スケッチだからクリックに対して弾いてるわけじゃないし、止まっているところもたくさんある。なので、つじつまが合わないところは一部僕が弾き直してもいるし、テンポがすごく揺れているところはエディットで馴染ませました。それが一番大変だったかな。ピアノを完成させるのに4、5日かかりましたから。

ーーその姿を和泉さんはずっとご覧になっていたかも。

鳥山:「すまんね。ちゃんと弾けよ」なんて言ってね(笑)。ICレコーダーの音だからクオリティとして心配だったけど、バッチリでした。

ーー景色が変わる大サビのあたりというのは?

鳥山:あれは、実はまったく別の曲だったんです。和泉くんが僕のスタジオに来て弾いたMIDIデータが残っていて、ちょっとピンとくるものがあったので、リハーモナイズして貼ってみました。

ーー記憶や想いが曲を完成させたんですね。

神保:「飛翔感」という言葉が出ましたけど、たしかにそうで、あの曲の展開はまさに和泉節だなと思いました。彼を思い浮かべて、一緒に演奏しているような感覚でプレイしましたね。

鳥山:高校時代からお互いを知る3人だから、オーバーダビングで重ねてもいつもなんだかタイミングが合ってたんですね。でも、今回はさすがにクリックで弾いたものではなかったから、ピアノとギターでハモるところはちょっと悪戦苦闘しました。

ーーガットギターが温かくピアノを包んでいます。そして、逆回転の音がすると、キューンと切なくなります。

鳥山:マニアックな聴き方してくれてありがとうございます。

ーー次にうかがいたいのが、鳥山さん作曲の「Friendship」。

鳥山:今作の打ち合わせを始めた去年の秋頃、神保くんと「まず曲を書かなきゃいかんね」とお互い叱咤激励して取り掛かったんですけど、神保くんも多作な人なので、ものすごい勢いで8曲ほど上がってきたんですね。一方僕は全然エンジンがかからなくて、どうしようかなという状態だった。そしたら、和泉くんがフッと降りてきたとしか思えない感じでピアノ曲が2曲できたんです。もう1曲のほうはStuffのリチャード・ティー的な感じなんですけど、「Friendship」は本当に和泉くんが憑依したような曲になりました。

ーーピアノでフィリップ・セスさんが参加されています。

鳥山:自分で弾いてもいいかなと思ったんですけど、ふと思い出してフィリップに連絡してみました。彼とも僕は古くからの付き合いで、’80年代半ばからよく仕事もしたけど、なんとなく幼馴染みっぽいところがあって、PYRAMIDの3人の関係のこともよく知ってくれているんですね。すぐに「もちろん喜んで参加するよ」と言ってくれました。

神保:プレイがまた素晴らしくて、さすがだなと思いました。

ーーまさに「Friendship」ですよね。これにも冒頭逆回転の音が。

鳥山:あの部分のアコースティックギターとピアノは、別録りっぽく、モノラルっぽい質感にしました。

神保:この曲、作りがすごく面白いんですよ。通常曲って、バース(Aメロ)とコーラス(サビ)があるんですけど、これにはその境目があまりないんです。そんなところもPYRAMIDらしいなと思いました。

鳥山:あと、そう、和泉くんが、「クラウドファンディングが成功したら生のストリングスを入れたい」と言ってたんです。さすがにセクションを呼ぶのは難しかったんですけど、バイオリンの川口静華さんに10回オーバーダブしてもらいました。クインシー・ジョーンズの『Sounds…And Stuff Like That!』の「Tell Me A Bedtime Story」で、ハービー・ハンコックのプレイにずっとついていくストリングスがありますよね。あれはひとりで15回重ねてるそう。それに倣いました。

――興味深いエピソードありがとうございます。続いて、「Blue Bop」、「Mau Loa」、「Squeeze!」とインストナンバーについて。この3曲は神保さん作曲ですね。いつもどのように曲を発想されていますか?

神保:僕はギターで作るんです。

ーーそうなんですか!

神保:ギターってコードのボイシングがオープンですよね。それをキーボード風に内側に寄せて打ち込んで、鳥山くんに渡しています。

鳥山:『ドラえもん』みたいなコードで届くんですよ(笑)。

神保:人前で弾けるような腕前ではないんですけど、ボサノヴァがすごく好きだった時期があるんですね。ボサノヴァのコードってジャズ的ないい響きがいっぱいあって。理論のことはさっぱりわからないんですけど、コードの押さえ方の形で覚えているので。

ーー夜の滑らかさ香る「Blue Bop」は、具体的にどう生まれましたか?

神保:これは循環コードなので、あまり記憶がないです(笑)。

鳥山:デモはハネてて、サビ頭でした。

ーー神保さんからのデモに鳥山さんの解釈が加わるわけですね?

鳥山:はい。信じられないくらいの超解釈が(笑)。

神保:実はこの曲、僕自身では60点くらいの感じで、まさかピックアップされるとは思わなかったんですよ。

鳥山:アハハハ! そうだったの?

神保:最初のリフを鳥山くんが考えてくれて、そのおかげですごくよくなりました。ああ、いい曲じゃん、みたいな(笑)。

鳥山:70年代後半〜80年代初頭のソニックというのが頭にこびりついていたので、ハネないようにしてルイス・ジョンソンみたいなのを登場させたらどうなるかっていうところからアレンジしました。

神保:須長くんのスラップベースがすごく効いてますよね。

ーー鳥山さん解釈に異議を唱えることはあるんですか?

神保:ないです(即答)。もう百戦錬磨の名プロデューサーですから、僕が意見をする余地はないんです。

鳥山:しかも、僕の解釈はどれも事後承諾的な、ね(笑)。

神保:また、鳥山くんのプレイも素晴らしいんですよ。

ーーオクターブユニゾンがたまらないです。

鳥山:クインシーが手がけたジョージ・ベンソンの「Give Me The Night」の感じですよ。

ーーまさに! 「Mau Loa」はいかがでしょう?

神保:ハワイ語で「永遠の幸福」という意味なんですけど、ま、タイトルは後づけです。僕のデモはM1からM9まであったんですが、これはM9。できたからオマケで送っておこうという感じだったんです。自分としては63点くらい。つまり、M1、M2とかが80点くらいで推し曲だったんですけど、ことごとく採用されなかったんです(苦笑)。

鳥山:アハハ。すみませんね!

神保:もちろん、これも鳥山さんのおかげでよくなりました。

鳥山:これまでのアルバムにも必ずサンバテイストは入れていたので、今回もそこは踏襲しようと。クインシーの『The Dude』でいうと、トゥーツ・シールマンスがフィーチャーされる「Velas」の位置。なので、そのトゥーツ・シールマンスに師事したことのある西脇(辰弥)くんにハーモニカを吹いてもらいました。クロマチックでジャズフレーズを吹ける人ってあまりいないんです。彼の本職はキーボードだけど、本当に素晴らしかった。

ーーライブ感あふれる賑やかな「Squeeze!」はどうでしょう?

神保:コード進行とリフが最初にできて、そこからベースラインを作り、最後にメロディを乗せたみたいな作り方でした。

ーーなるほど。リフがあってああいうロックな感じに?

神保:いや、ロックな感じは全然イメージしてなかったです。

鳥山:すみません(笑)。

神保:最初に一緒にデモを聴いたときに、即、「これロックっぽくしたらいいんじゃない?」って言ってましたよね。

鳥山:そう。まずBrecker Brothersが浮かんだんです。Brecker Brothersって高校時代の僕らにはすごく特別な存在。だから、ホーンのトレードみたいな箇所も作りました。さらに、歪んだギターでベースと一緒にリフを弾くというところまでやってみたときに、今度は、「あれ? これ、ちょっとドナルド・フェイゲンっぽい?」と思って、で、エレピのリフっぽいのも入れたんです。結果、Brecker Brothersの裏にドナルド・フェイゲンがいる、みたいな面白い匂いになりました。

ーーソニック的な共通言語として当時のアーティストの名前が屈託なく上がるのが、お話ししていてとして楽しいです。きっと若い世代にとってPYRAMIDは、イケてるキュレーターでもあるはずと。

鳥山:今はストリーミングの時代だから、気になったアーティストはすぐチェックできるしね。

ーー神保さんの鳴り物も繊細で美しいです。

神保:ドラムの録音をなるべくドライにというのを、今回鳥山くんは徹底していましたね。ドラムセットの周りには米俵のような吸音材が4つほど。なんだか不思議な空間で叩いていました。

鳥山:昔のドラムブースってデッドだったんですよ。いわゆる(響きが)止まるっていうような。

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