新たな場の誕生、大型フェス復活、VR……ageHaやVISIONの閉店を機に、変化し続けるクラブシーンの今を考察
地方出身で国内外のダンスミュージックやヒップホップを愛聴していた筆者にとって、東京のクラブシーンは紛れもなく憧れの対象だった。学生時代は地元のクラブに足しげく通っていたが、社会人となって上京してからは、昔からその名前を耳にしていた場所に何度も通い続けた。その中でも新木場の「ageHa」と渋谷の「SOUND MUSEUM VISION」は特に思い入れのある場所だ。その時々のトレンドの最先端をキャッチしつつ、レジェンドも次々と登場し、様々なジャンルの音楽が混在していて、そこに集まる人々が互いにリスペクトを持っている。tofubeatsのような日本のインターネット発のミュージシャンも、DJプレミアのような海外の著名なアクトも、それぞれがヘッドライナーとして出演し、観客に受け入れられる。それでいて、そのブッキングは決して無秩序ではなく、ある種の一貫性や美学があるように感じられる。そんな空間が大好きで、数え切れないくらい通った。
様々な音楽の“ハブ”となっていた「ageHa」と「VISION」
2022年、この2つのクラブが閉店した。ageHaは借地契約の満了、VISIONは道玄坂地区の再開発による入居ビルの取り壊しがその理由である(VISIONと同様の理由で、長きに渡って渋谷のダンスミュージックシーンを支えてきた「Contact」も閉店となった)。
2020年に緊急事態宣言が発令された際、日本各地のクラブシーンは大きな打撃を受けた。長年にわたって愛されてきた渋谷・道玄坂の「VUENOS」、「Glad」、「LOUNGE NEO」が閉店を余儀なくされたのは、都内のクラブシーンにおける特にショッキングな出来事だったと言えるだろう。
【clubasia存続支援プロジェクト】
系列3店舗の閉店を受け、我々カルチャー・オブ・エイジアはclubasiaを渋谷に残す為に5/1金12:00〜存続支援を募るクラウドファンディングを立ち上げます。誰もが困難な状況下、大変恐縮ですが応援の程、宜しくお願い致します。#KEEP_clubasiahttps://t.co/6zrLypatlb— clubasia|CLUB (@clubasia_tokyo) April 30, 2020
そのような状況下で、「clubasia」や「R Lounge」、「THE ROOM」などではクラウドファンディングが行われ、「秋葉原MOGRA」では同クラブを起点に他業種を巻き込み日本全国のクラブ/ライブハウスを繋いだストリーミングイベント『Music Unity 2020』が開催されるなど、この苦しい時期を何とか乗り越えようとする動きが続いた。あれから2年が経ち、何とか再びクラブを楽しめる日々が戻ってきたと思っていた矢先に届いた2店の閉店の報はさらなる衝撃を与えた。もちろん、その場所がなくなったからといって、クラブシーンそのものが終わるわけではない。だが、様々なジャンルや価値観を繋ぐ大きな“ハブ”として機能していた場所が失われることに対して、筆者を含む多くの人々があまりにも大きな喪失感を抱いたのは事実だろう。
場所に縛られない“ブランド”
だが、場所がなくなっても、その意思は残り続ける。9月に開催された音楽フェスティバル『J-WAVE presents INSPIRE TOKYO ~Best Music & Market』ではVISIONのキュレーションによるDJ陣が出演。さらに、後期VISIONの名物パーティーとなっていた 『EDGE HOUSE』が先日オープンしたばかりの新たなクラブ『BAIA Shibuya』で復活することが決定した。Contactについても、10月22日、23日に川崎市で開催予定の『Brightness - Music & Art Festival 2022 Autumn -』において、かつて同クラブで開催されてきた『LIVING ROOM™』がフィーチャーされている。以前からキュレーターとして参加していたApple MusicのDJ MIXシリーズについても更新が続いており、今後はVISION、Contact自体が一つのブランドとなって、クラブシーンを支えていくはずだ。
本日から3日間に渡り国立代々木競技場で開催される都市フェス「INSPIRE TOKYO」にDJブースを搭載したTechnics Sound Trailerが出現❗️
3日目の19日(月・祝)はSOUND MUSEUM VISIONがキュレーションするDJ陣がこの日限りのPOP UPを展開します。
11:00〜18:00にメインゲートフロアにてお待ちしています👍 pic.twitter.com/lxfsKp0cNA— SOUND MUSEUM VISION (@VISIONTOKYO) September 17, 2022
WE ARE BACK🔥#EDGEHOUSE pic.twitter.com/XWWQCI81Aa
— EDGE HOUSE🔥🏠 (@edgehouse_tokyo) October 11, 2022
また、ageHaでは場所を問わない形でのクラブイベントシリーズとして『THE FESTIVAL』が始動。10月1日にはその第一弾として、同クラブの代名詞的パーティーである『agefarre』がお台場の屋外会場で開催された。その他にも、11月4日開催予定のW&Wの来日公演をプロデュースするなど、こちらもageHa自体をブランドとした精力的な活動が期待される。また、最後の1カ月間に密着したドキュメンタリー映画『ageHa THE MOVIE』の制作も進められており、制作費用・プロモーション・多言語翻訳海外展開をサポートするためのクラウドファンディングも実施中。11月6日にはプレミア上映会も予定されている。この場所が与えた影響を改めて知るきっかけとなるだろう。