今夏フェス、異例づくめの“代打出演劇”を振り返る 藤井風、クラムボンら粋な演出が生んだドラマ
日本国内における新型コロナウイルスの感染状況は日々変わりつつあるため、今後はどうなるかわからない部分もあるが、フェスシーンに限定すれば、今年は大きな変化を迎えた年になった。近年、コロナ禍に伴い中止を余儀なくされていた夏フェスは今年試行錯誤しながらも、なんとか開催を迎えることができており、シーズンも終盤へ差し掛かっている。
ただ、コロナ禍と隣合わせでの開催ということもあり、今年はイベント開催の直前に演者が出演できなくなってしまい、代わりに別のアーティストが出演する、という事例がいくつか生まれている。この代打出演が今年のフェスの大きな特徴になっている。「代打」をしないといけない状況自体は良いことではないと思うが、各フェスを振り返った際、急遽決まった代打出演が、ある種のハイライトになっている事例もあるようだ。
例えば、『FUJI ROCK FESTIVAL '22』にてYOASOBIの代打で出演したクラムボンのパフォーマンス。出演依頼はライブ当日の5日前に行われたというこの代打出演。本来であれば、様々な意味でオファーを受けることを相当に迷うはずだが、『フジロック』に対する想いの強さから、クラムボンはこのオファーを受け、本来YOASOBIが出演する時間にステージに立った。こういう背景もあってか、その日のクラムボンの気合いは並々ならないもので、彼らのライブを見慣れている人も、その違いを実感したようだ。「次の曲は本来、ここに立つべきアーティストにリスペクトを込めて」と切り出し、YOASOBIの「優しい彗星」をワンコーラスだけカバーし、ワンコーラスが終わると「フルコーラスは彼らがここに戻ってきた時にとっときましょう」と言ったシーンはパフォーマンスの中でも象徴的なシーンとなった。
『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO』の代打出演で印象的だったのは、Vaundyの代わりに出演した藤井風。似たようなタイミングに、同じソロアーティストとしてブレイクを果たした藤井風がVaundyの代打で出演したのは印象的だった。この日の藤井風は鍵盤ひとつの弾き語りスタイルで出演を果たし、らしさ全開のパフォーマンスでオーディエンスを魅了した。「踊り子」「恋風邪にのせて」「napori」「東京フラッシュ」と、Vaundyの楽曲を惜しげもなく披露したのが印象的だったが、その他にも、King Gnu、カネコアヤノ、BiSHら、今年の『RISING SUN ROCK FESTIVAL』の出演キャンセルを余儀なくされたアーティストの楽曲もそれぞれカバーしてみせた。メジャーデビュー前から、YouTubeでコンスタントに様々なアーティストのカバー動画をあげ、ボーカリストとして確かな実力を磨いてきた藤井風だからこそのパフォーマンスのようにも感じられた。
ちなみに、King Gnuの代打で出演したレキシは「King Gnuでーす!!」といってコミカルに登場するも、その後、King Gnuのカバーはあえて一切行わず、代わりに「マツケンサンバII」を披露して、オーディエンスを沸かしていたようだった。実にレキシらしい代打出演であるように感じた。