Kizuna AIとクラブミュージック、ミソシタら支えた黎明期……Vミュージックシーンの発展を5つの要素から紐解く

Vミュージックシーンの発展を紐解く

 キズナアイの本格的なアーティストデビューを皮切りに、VTuberの音楽シーンが活発化し始めたのが2018年。カルチャーの成長と共に盛り上がりを見せてきた“VTuberの音楽”は、時代が進むにつれてVTuberという枠を超え、幅広い人たちの耳に届くようになった。そこに至るまでには、短い年数ながらも数え切れないほどの出来事が起こったのは間違いないだろう。VTuberをはじめとした音楽シーンを形成してきたキーマンや転機、そして今のシーンの柱になっているであろう要素を解明する。

クラブミュージックが育んだ新たなシーン

 VTuberの音楽シーンを形成したのは、クラブミュージックであり、カルチャーのメインストリームとして常に生産性は高い。その要因として、純粋にVTuberというアバターを用いた表現との相性の良さもあるが、ボーカロイドを含むインターネットとの深い関わりや文脈の深さも考えられる。実際にクラブミュージックが盛り上がる1つの震源地になったのは、キズナアイの音楽キャリアのスタートだろう。2018年、Kizuna AI名義でアーティスト活動を本格的に開始し、初のオリジナル楽曲「Hello, Morning」を発表。それから9週連続配信リリースを行い、ダンスミュージックを主軸とした豪華プロデューサー陣との共作を披露した。キズナアイは、特段ダンスミュージックを広めようとしたというよりはフューチャーベースがネットミュージック発祥というカルチャーに沿った文脈であり、そしてダンスミュージック自体が世界中で受け入れやすいワイドなジャンルということで、キズナアイらしい見せ方を遂行した、と言ったほうが正しい。

Kizuna AI - Hello, Morning (Prod.Nor)

 そこから2021年まで計7回開催された音楽イベント『VIRTUAFREAK』の開催も2018年に始まり、クラブなどでVTuberの音楽を楽しむという土台が形成されていった。今でこそ多種多様なジャンルがリリースされているが、当時はリアルの生バンド、バーチャル内でのバンドパフォーマンスの表現など、ライブにおけるハードルが格段に高かったため、自身の音楽を現地で聴いてもらえるという意味でもクラブミュージックの需要は高かった。今ではオリジナル楽曲の数も増え、各メディアでの特集、さらにはラジオ番組『VTuber music DJ's』(YouTube)といった楽曲が知れ渡る環境があるため、クラブミュージックに縛られず音楽ジャンルの多様化が進んでいる。

個人勢の活躍

 個人勢の先駆けとしては、まず最初にミソシタの名前が思い浮かぶ。2018年3月の活動開始から約半年で<ポニーキャニオン>よりメジャーデビューし、“ポエムコア”というジャンルで独自の音楽性をバーチャルより発信した。企業系のVTuberが名だたるプロデューサー達とオリジナル楽曲をリリースする中、個人勢、ましてや音楽系VTuberという存在すらも認知が薄かった時代に、音楽を介して大きな革命を起こしたのだった。

バーチャルyoutuber ポエムコア『ミソシタ#9』ミッドナイト・ファイティングブリーフ

 音楽表現の1つとして、“個人勢の音楽系VTuber”と呼ばれるものは存在はしていたものの、アーティスト志向の強いプレイヤーは2019年後半以降、ようやく注目度が高まってきた印象がある。それまでは、どちらかというとクリエイター志向の強いVTuberたちが作曲を行い、それを色々な人たちがカバーする流れが個人勢というカテゴリを発展させてきた傾向がある。代表的な例で言えば、今も前線で活躍するミディが樋口楓と歌ってみたミックスのコラボを発表、さらには作曲系VTuberのレンチがギルザレンⅢ世にオリジナル楽曲を提供するなど、有名なVTuberがクリエイターの作品と交差することで“個人で音楽をやるVTuber”の存在が広まった印象が強い。

【樋口楓】ハイカラ浪漫【オリジナルMV】

 当時、「VTuberの音楽」といった誰も定めていないシーンにおける音楽の在り方が少なからずあった中で、今では純粋な表現の一環として音楽活動をするVTuberが増えてきている。必ずしもファンに刺さる音楽をやる必要はなく、好きな音楽を好きな時にやるマインドで活動がしやすい環境が生まれたのも、ミソシタを始めとした黎明期から音楽活動を行った先人たちの功績であり、それは今現在にも少なからず影響しているように思う。

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