KERENMI/蔦谷好位置、肌身で感じる“歌謡曲”の復興 世界に誇れる「日本の音楽の面白さ」とは?

KERENMI/蔦谷好位置が感じる“歌謡曲の復興”

 蔦谷好位置の変名プロジェクト・KERENMIがリブートした。KERENMI名義としては2020年3月リリースのアルバム『1』以来となる新曲「ふぞろい feat. Tani Yuuki & ひとみ from あたらよ」が7月27日に発表。2年以上の空白期間にKERENMIは何を思っていたのか。「ふぞろい」を軸にさまざまな話を聞かせてもらった。(宮崎敬太)

コロナ禍を経て見つめ直した自らのルーツ

ーー1stアルバムの時にインタビューした際、蔦谷さんはKERENMIというプロジェクトを「国内で椅子取りゲームをするのでなく、新しい場所を作っていきたい」と話していました。前作から2年以上経った今、改めて蔦谷さんにとってのKERENMIの位置付けを教えてください。

蔦谷好位置(以下、蔦谷):かなり変わりました。やっぱコロナが大きかった。特に最初の1年間は世界中が異様な雰囲気でしたよね。みんな外出できなくて、打ち合わせもリモート。僕も2020年から生活の8割はここ(自宅兼スタジオ)にいます。自分もいろんな打ち合わせをリモートでしてると、だんだん“東京”とか“日本”みたいなことにあまり意味を感じなくなってきたんです。そこから自ずと自分を見つめ直すようになって。僕はどのような体験して、何に影響を受けて、今に至ってるのか、と。

ーーなるほど。

蔦谷:自分自身のルーツですよね。グーっと掘り下げていくと、小学生の時に聴いていた歌謡曲に行き着いたんですよ。特に好きだったのが『シティハンター』のアニメで流れていた曲。TM NETWORK、PSY・S、岡村靖幸さんなどなど、全体的にめっちゃオシャレだったんです。あとは渡辺美里さんとか。特に大江千里さんにはかなり影響を受けていますね。彼は松任谷由実さんの影響もあるから、その遺伝子も自分の中に入ってるな、とか。80年代の歌謡曲。演歌的な歌謡じゃなくて、いわゆるニューミュージックと呼ばれる音楽にすごく影響を受けているんです。ブルーアイドソウル的でありながら、和声が綺麗で、情緒的なメロディがある。

ーー2020年の頃は、海外のトラップから派生したシンプルなメロディがトレンドで、KERENMIはそこを意識しつつ、日本らしさを感じるメロディを作っていたイメージがあります。

蔦谷:確かに『1』を作ってた頃は海外のトレンドを意識していました。だけどコロナを経て自身のルーツが歌謡曲にあったことを再認識して、同時に2020年くらいからJ-POPにおける歌謡曲の復興を感じたんです。潮流は2010年代後半からあったけど、2020年に入って加速して顕在化した。YOASOBI、マカロニえんぴつ、緑黄色社会、PEOPLE 1とか。この感じっていきのもがかりが出てきた時の勢いに近い。でも今の子たちの音楽はテンポ感が全然違うから、まったく古臭くないんですよね。

ーーコロナ期間を経て、蔦谷さん個人の中にある歌謡の体験と、現在の歌謡曲リバイバルがシンクロした?

蔦谷:そう。なんで歌謡曲が復興したのかといえば、それは若い子たちも歌謡曲を聴いて育ってきたからだと思うんですよ。僕は中学からジャズとヒップホップ、クラシックに流れていっていけすかないスタンスになっていったけど(笑)、根本にあるのは歌謡で。高校の時にMr.Childrenが出てきた時、「まったく興味ない」って顔をしていたけど、内心はめちゃくちゃ良い曲だなと思ってたし。

ーー蔦谷さんと同世代なので、その感覚はめっちゃわかります(笑)。僕のルーツも中学の時にハマったBUCK-TICKだと最近再認識しましたし。

蔦谷:でしょ? そうなるよね。経験には抗えない。そんな感覚を経て、僕は歌謡曲が日本の強みではないかと思うようになったんです。しかも僕は歌謡曲を作ることにも人生の大半を費やしてきた。その手癖は誇れることだなと思えるようになったんですよ。

ーーわかります。政治的な意味合いを抜きにして、僕も日本人が日本の文化をレペゼンしないでどうすんねんという気持ちがあるので。

蔦谷:(笑)。僕の場合は、コロナでの経験から生まれたのが「ふぞろい」なんです。サウンドの装いは最先端でありたいけど、自分が持ってる普遍的なメロディの強さは武器だから、そこは海外の真似する必要はないなって。肯定的に捉えるようになりました。アメリカでもエモを経て前よりもメロディが強くはなってきたけど、やっぱり日本人のようなメロディは作らないんですよ。僕はそこが日本の音楽の面白さだなって思うんです。

夢の中で作ったメロディから始まった「ふぞろい」

KERENMI - ふぞろい feat. Tani Yuuki & ひとみ from あたらよ (Official Music Video)

ーーそこを踏まえてのTani Yuukiさんとあたらよのひとみさんが参加されているんですね。

蔦谷:2人の名前は打ち合わせの中でスタッフさんから出てきたんです。2020年からずっとアルバムを作っていて、未発表曲が数十曲溜まっていて。「どの曲をリリースしようか」とか「フィーチャリングは誰がいいかな」みたいな話をしてる中で、Taniくんとひとみさんの名前が挙がったんです。Taniくんの「Myra」も、あたらよの「10月無口な君を忘れる」も知っていたけど、ちゃんとは聴いていなかったので改めて全音源を聴き直したらめっちゃ好きになっちゃったので、2人とやれるなら書き下ろそうと思って。なので「ふぞろい」は2人をイメージして作りました。

ーースペシャルな曲ですね。

蔦谷:僕、作曲モードに入ると夢でも仕事するんです。この曲の〈誰も知らない 知られちゃいけない〉という頭の部分は夢の中でできたメロディと歌詞。ハッて目覚めてボイスレコーダーに録音しました(笑)。

ーーROTH BART BARONも同じようなことをおっしゃっていました(笑)。

蔦谷:本当ですか! 僕だけじゃないんだな……。「ふぞろい」はその夢の中でできた〈誰も知らない 知られちゃいけない〉から作っていきました。「ここはひとみさんだな」と思って。あとひとみさんにはセリフを言ってほしかった。

ーー「10月無口な君を忘れる」のセリフは印象的ですもんね。

蔦谷:あれが好きなんですよ。実は「ふぞろい」のセリフは彼女が仮で入れてくれたバージョンを採用しています。僕のイメージではあまり演技をしてほしくなくて、独り言みたいなニュアンスが欲しかったんです。仮音源はたぶんiPhoneのGarageBandで録ってると思うんですけど、良い感じで音が悪い。それが絶妙だったのでそのまま採用しました。他の部分はここのスタジオで歌ってもらっています。ひとみさんは失恋の歌をたくさん歌ってるから感情を入れるのがすごくうまかった。でもR&B的な歌唱を通っていなかったらしくて、楽しんでやってくれましたね。Aメロにウィスパーが入っているんです。R&Bでは昔からあるレコーディング手法なんですけど、ボーカルをハーモニーで録って、ダブルで左右に振るんですね。そこに音程がない吐息みたいな囁き声を敷くと、サラウンド感が増して音に広がりが出るんです。そういうのが初体験だったみたいで楽しそうでした。歌の色気も増したし、めっちゃ良い感じになりました。

ーーいいコラボレーションですね。

蔦谷:レコーディング後に聞いた話なんですけど、ひとみさんは一筆書きで曲を書くらしいんです。メロディと歌詞が最初から最後まで一緒に出てくるらしくて。しかも5分くらいで。天才かよって思いました。レコーディングの前に聞いていたら、こっちも構えちゃいましたよ(笑)。

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