KERENMI/蔦谷好位置、肌身で感じる“歌謡曲”の復興 世界に誇れる「日本の音楽の面白さ」とは?

KERENMI/蔦谷好位置が感じる“歌謡曲の復興”

Taniくんは言葉(音とリズム)の人

ーーTani Yuukiさんのパートはどんなイメージで作ったんですか?

蔦谷:僕はTaniくんの言葉がすごいと思っているんです。音としてリズムが良くて韻の使い方が非常にうまい。「W/X/Y」のサビも実はずっと踏んでいて。うまいし、気持ちいいし、歌いたくなる。そんな人に「あえてこちらが作った歌詞とメロディで歌ってもらったらどうなるのかな?」というのがスタートですね。

ーー〈明らか あからさま? 死んだら消えていくのに泡沫(うたかた)〉という歌詞はかなり複雑に韻を踏んでて、すごくリズムもあります。

蔦谷:そうそう。歌も昔のR・ケリーみたいな感じ。今ああいうのって逆にないじゃないですか。でも彼は世代的にも通っていないだろうから、新しい体験になるんじゃないかと思ったんです。だからわざとトラップ以降の歌唱ではないメロディを作りました。仮歌は僕が歌っていたんですけど、Taniくんが歌うとちょっとメロディが違う感じになって。彼の癖というか節が入るんですね。それがすごく気持ちよかった。僕のほうから「こうしたほうがいい」という部分もあったけど、基本的には彼の感じを積極的に活かしていきました。

ーー面白いですね!

蔦谷:あと驚いたのは、Taniくんは歌詞の韻の意図を汲み取るのが早い。このメロディ、このリズム、だからここでこういう韻を踏んでいる、みたいなことを説明せずとも歌ってくれて。すごい瞬発力だと思いましたね。

ーーひとみさんとTaniさんの2人が歌うという面ではどんなことを意識したんですか?

蔦谷:最初からサビはデュエットにしたいと思っていたんですよ。イメージは「三年目の浮気」(笑)。内容はともかく、あのデュエット感を2022年の感覚でアップデートできないかなと思ったんです。TaniくんもひとみさんもTikTokが強いですよね。僕、好きで結構よく見ているんですよ。そうすると変な広告がめっちゃ出てくるんです。「彼氏の浮気を調べる方法」系のやつ。結局いつの時代になっても、世の中では浮気ってそんなに多いんだなと思って。そこに「三年目の浮気」のデュエット感をクロスオーバーさせた感じですね。男の子は自分がすごくモテて浮気がバレていないと思ってる。でも女の子は全部知ってる。でも同時に「かわいそうな自分」に酔っちゃってもいる。そこまで深刻じゃない。

ーー今っぽいなあ(笑)。しかし、蔦谷さんは柔軟ですね。僕は同世代だから余計に感じるんですが、近年はユースカルチャーの変化スピードが早いから中年は付いていけないことが多くて、例えばTikTokも面白さがわからないって人も少なくないんです。で、自分の青春時代の体験に固執して、今の若い子の文化を頭ごなしに否定しちゃったり。若い子たちの中に入っていって、いろんなことを吸収する蔦谷さんの姿勢は簡単そうで意外と難しいと思います。

蔦谷:僕は単純に新しいものが好きなんですよ。あと時代を作るのも変えるのもいつも若い人だと思っていて。あと時代の変化には絶対に抗えない。だから僕としては「柔軟に」というよりは、「今こういう感じか」みたいな感じですね。もちろん僕自身が面白いと思えばって前提はありますけど。

最近の日本の若い子たちのセンス、技術、ともに素晴らしい

ーー編曲にクレジットされているKOHD(コウダイ)さんはどんな方なんですか?

蔦谷:彼はagehaspringsに所属して20代のアレンジャー/プロデューサーです。素晴らしいセンスを持ってる。僕は最近の日本の若い子たちのセンス、技術、ともに素晴らしいと思ってるんです。特に最先端のサウンドに関してはまったく敵わない。嗅覚も、現場感も。だから一緒に作ってみようと。こんなことを言うと偉そうだけど、KOHDは今後僕に代わる存在になっていくと思う。

ーー具体的にはどのように作業したんですか?

蔦谷:基本的な部分を僕が作って、KOHDにアレンジをお願いしました。そしたら雰囲気がガラッと変わったんです。でも送られてきたオーディオデータを見てみるとめちゃくちゃ変えたというよりは適材適所に音を配置しているという感じなんですよ。僕も「なるほど、この雰囲気はこうやって出すんだ」ってめちゃくちゃ勉強になりました。逆にKOHDも僕の経験を吸収してると思うんですね。お互いに良いことしかない(笑)。

ーーサウンドにはどんな狙いがあったのでしょうか?

蔦谷:漠然としたアジアみたいなことを表現したかった。だからメロディもヨナ抜き(音階)みたいなものが多いんです。サウンドでは二胡(中国の弦楽器)の音を入れました。「なぜ日本の楽器じゃない二胡を?」ってのは当然の疑問だと思うんですけど、ちょっと話が飛んで僕はホールジーの「Ghost」のMVがすごく好きで。新宿のラブホかなんかで撮っているんですね。あれを見て「海外の人からすると“アジア”ってざっくりこんな感じなんだろうな」って思ったんです。それを「ふぞろい」のサウンドにも出したかったんですよ。音階は和風で、楽器は中国だけど、ざっくりとアジアっぽい。それでいい気がする。きっと海外の人の中には、中国で「東京オリンピック」が開催されると思っていた人もいると思うんです(笑)。

ーーめちゃめちゃわかります。僕らもヨーロッパや南米になるとどこがどこだかわかりませんもんね。

蔦谷:そうそう。こっちもざっくりとしか認識してない(笑)。お互いそんな状況だから「日本はこうだ!」って声高に主張するのではなく、日本もアジアの一部って捉えたほうがしっくりくるんじゃないかって思ったんですよ。YMOの『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』のジャケットもそういう面がありますよね? 日本人はあんな格好しないし。そんなイメージで二胡の音を入れて。つまりアジアっぽい音ならなんでもよかった。今回一番合ったのが二胡だったって感じですね。それをKOHDがチョップして繋いでくれて。そういうやりとりをずっとやっていました。

ーー蔦谷さんがおっしゃる世界が見る日本、それを踏まえた日本のあり方、イケてる日本の見せ方はとても納得できます。

蔦谷:こういうのって若い子は自然とやってると思うんですよ。長谷川白紙くんなんて日本からしか生まれ得ない。サンダーキャットが聴いたら絶対興奮する(笑)。僕がやってる音楽は長谷川白紙くんとは違うけど、考え方、やり方は今こういう感じですね。

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