さとうもか、素直な想いを曲にする大切さ これまでの恋愛ソングと地続きにある『魔法のリノベ』オープニング曲を語る
岡山県出身のシンガーソングライターのさとうもかが、自身初のドラマタイアップとなる新曲「魔法」を配信リリースした。波瑠が主演するドラマ『魔法のリノベ』(カンテレ・フジテレビ系)のオープニング曲として、“変化”“素直になる”をテーマに書き下ろした楽曲には、TikTokをはじめとしたSNSで人気を呼んでいる「melt bitter」を始め、「melt summer」や「Glints」など、彼女がこれまで手がけてきた夏のラブソングと共通するワードが散りばめられている。これらの楽曲に登場する“君”と“わたし”は全て同一人物なのか。大抒情詩のようなラブストーリーの連作を綴る彼女の制作過程や、楽曲に込めた思いを詳しく聞いた。(永堀アツオ)
「本当の気持ちじゃないことを選ぶのはもうやめよう」
——ドラマのオープニング曲を担当することが決まったときはどんな心境でしたか?
さとうもか:映像や物語に合わせて曲を作ったことがあまりなくて。いつかやってみたいことの1つだったので、ドラマ『魔法のリノベ』のオープニング曲が決まったと教えてもらったときは「めっちゃ嬉しいな」っていう気持ちでした。その後に原作の漫画があることを知ったので、漫画を読んで、それから作りました。
——原作コミックを読んでどう感じましたか。
さとうもか:主人公の小梅さんに何となく自分と被るところがあって。新しい場所に移って、切磋琢磨していって、周りの人からの影響やいろんな人との出会いを経て、自分が変わっていくっていうストーリーなんですね。自分に重なる部分があったので、嬉しいというか、頑張りたいというか、とにかく早く曲にしたいという気持ちがありました。
——ご自身と重なった部分というのは?さとうもか:まず、岡山から上京して、環境が変わったっていうところですかね。コロナ禍でもあったので、お店は閉まっているし、まだ友達もできてないし、あんまり外にも出られないからすごく退屈していて。性格的にも、意地っ張りというか、不器用なところが似てて。小海さんは、仕事以外のことになると「どうせ自分はうまくできないしな……」っていうような感じの人なんですね。自分もちょうど「近くに友達もいないし、どうせ……」って思っていた時期だったので、「同じやん!」っていう嬉しい気持ちになりましたね(笑)。
——主人公に共感したところから書き始めたんですね。
さとうもか:あと、ドラマの方からは“変化”をテーマに書いてくださいと言われて。ただ、いざ書き始めたら、かなり苦戦して……。ドラマへの書き下ろしが初めてだったので、案を多めに作ってみようとは思ってたんですけど、実際に聴いてもらう前に50種類くらいメロディを作って。途中で、心が折れかけたんですよ。「もう無理かも。私じゃなくていいんじゃない?」ってなったんです。でも、「やるしかない!」って自分を奮い立たせて、もう1回、漫画を読み返して。改めて、自分に重なるところがあるなっていうのを自覚して。だから、作品に対する思い入れはどんどん強くなっていきましたね。それでまた何通りか作って、ディレクターやスタッフのOKも出て、ドラマサイドに送ってもらったら、それで決まって。それが6月の頭くらいでした。
——歌詞はすんなり書けましたか?
さとうもか:自分に近いところがあったので、スッと書けたんですけど、「恋愛要素も入れてほしい」という要望を入れ込むのに最後は苦戦しました。
——(笑)。
さとうもか:でも、最終的にはわりと自分が思うことを書けたんですよね。原作を読んで大切だと思った軸というのは、「自分が素直になっていく」ことだったんです。主人公の小梅さんも、どんどん変化して、素直になっていった。だから、そこを軸にしようって決めて、自分の人生とも照らし合わせてみて。ちょうど自分自身、失恋というわけではないんですけど、大切に思っていた人が遠くに引っ越してしまって。これからどうなるかわからないけど、我慢したりとか、諦めたりするよりは、本当に自分の気持ちに素直に従っていった方がいいなって思っていて。そういうことを曲に落とし込めたかなと思います。
——“素直になる”がテーマになっているラブソングなんですね。さとうもか:そうですね。今までの自分の人生も、頭ですごく考えて選んだものより、「これが欲しいからここにいく」とか、「こう思うからこうする」って直感的に選んでいく方がいいものがあって。たとえ失敗したとしても、それでよかったと思えることが多かったんですね。最近はちょっとそういうことが減っていたという感覚があって、自分を奮い立たせるという気持ちもありました。そういう生き方の方が、自分が幸せになれる。そして、自分が幸せになれたら、他人にも幸せを還元できるっていう考えがあって。それが去年1年はあまりできてなかった感覚があったんです。
——新しい土地に引っ越して、楽曲制作の環境も大きく変化したから。
さとうもか:あんまり自分に余裕がなかったんですよね。「本当にこれでいいのかな?」と思うこともたくさんあって。でも、「仕方ないか」って本当の気持ちじゃないことを選んだりしていたけど、それはもうやめようって思いました。
——素直になるというのは、本当の自分を取り戻すことでもあるんですかね。去年、渋谷クラブクアトロで「愛ゆえに」を聴いたときに、見失ってしまった本当の自分を探している感じがありました。
さとうもか:本当にそんな感じでした。クアトロのときは一番憂鬱だったかもしれない。でも人生を振り返ると、あんまりなかったことなんですよ。急にこの1年でそういうことがあって。そしたら、どんどん自分がよくない方にいってしまう感覚がめちゃくちゃありました。だから改めて、自分の感情に素直になることは大切なことなんだなって実感して。それをちゃんと曲として残しておきたいし、傲慢かもしれないけど、聴いてくれて同じような考えになってくれる人がいたらいいなって思ったりしました。
「一生続く確証はないからこそ、全力で想いを伝えたい」
——歌詞を読み込んでいくと、さとうもかさんがこれまで歌ってきた夏のラブソング群を思い出すフレーズが入ってますよね。これはあえて同じフレーズを使ってるんですか?
さとうもか:はい。過去の自分の恋愛ソングは、わりと一貫性があるんです。全部同じ人への曲だったりするので、過去の歌詞をちょっとだけ散りばめたりして。そういう風に書いてます。
——じゃあ、原作コミックとリンクさせて書いたドラマオープニング曲だけど、実体験がベースになってるのは変わらないんですね。
さとうもか:そうですね。
——過去の曲も少し振り返ってもらいたいなと思います。「melt summer」はどんな曲でしょう。
さとうもか:大学に入ったときに好きな人がいて。その人とのいろんな思い出を組み合わせてストーリー仕立てにしたんですけど、そのときの思い出を、本当に忘れたくなくて。何回も頭の中で思い出したりしてたんですね。その思い出をいつか曲にしたいとずっと思っていて。でも大切な思い出すぎて、すぐにはできなかった。それから2年くらいかけて歌詞を微調整しながら作った曲で、これから恋が始まるっていう片思いの気持ちを歌っています。
——夏にドライブして、コンビニでコーラと花火を買って、海辺で唇を不意に重ねる二人が描かれてます。そして、同じく“melt”がついた「melt bitter」は?
さとうもか:「melt summer」の“あなた”との大失恋ですね。そのときに思ったことをいっぱい書いた感じでした。
——「melt bitter」には〈最後の言葉は 「またね」だったけど〉というフレーズがありますが、「魔法」には〈お守りにしすぎてる「またね」って言葉を〉とあります。
さとうもか:「前に進むような歌詞にすれば」って言われたんですけど、でも自分の中では、それがまず引っかかって。別に前に進もうとか、今は何にも思ってなかったので。いろいろと考えたときに、やっぱり思ってないことを曲にするのはダメだなと思って。自分の思いをいろいろと考えた中で、やっぱりまだちょっとは期待していたいなっていう気持ちがあったんですよね。今はそんなに、恋愛をしたいっていう気持ちはないんですけど。
——「またね」と言って去っていった“あなた”への未練があるということですか。「またね」を待ってる?
さとうもか:うん、そうですね。その人が海外に行っちゃって。「melt bitter」を作ったときも海外にいて、「Glints」という曲を作ったときには日本に戻ってきてたんです。「Glints」はとにかく、その瞬間を大切にしていこうって気持ちを書いたんですけど、それにも通じるというか。そのときの流れを曲にしてなかったなっていうのもあって、今とそのときの気持ちが近いものがあるから、これなら本心で書けるかなという気持ちで作りました。
——「Glints」では、その“あなた”から連絡が来て、「melt summer」や「melt bitter」と同じく映画を見に行ったり、ドライブしたり、コンビニに行ったりしていて。そんな時間を〈魔法みたいね〉と言ってますよね。
さとうもか:どんな人間関係でも、一生続いていく確証はないじゃないですか。だから誰と過ごしているときも、本当に全力の気持ちで、好きって思う人に対してはちゃんと「好き」って伝えたいし、楽しいと思ったら、「楽しい」って言いたいし、共有できたらいいなと思ってて。それをしていたら、後悔はないんじゃないかなって。「Glints」のときは、またいつどこに行っちゃうかわからない状況だったので、この夏は最高にして、一生の思い出にしようっていう曲になりました。