Kitriの歌う物語に身を委ねた夜 “ふたり”だけで届けた『キトリの音楽会#5』

Kitri『音楽会#5』東京公演レポ

 早朝から土砂降りだった雨も止み、湿気はあるが、静かな良い夜である。5月27日、Kitriによる『キトリの音楽会#5 “tea for two”』の東京公演が行われた。

 ここ数年は羊毛らを招いた編成でのステージを行ってきたKitriだが、全8カ所を回る今回のツアーでは、久しぶりにふたり編成でのライブを行っている。サポートを入れないライブは2019年以来とのことで、コロナ禍になってからは初である。きっと演奏するふたりはもちろん、見る人にとっても新鮮なライブになったのではないだろうか。

 ツアー2日目となる本公演の場所は、六本木にあるARK HILLS CAFE。オーガニックな内装があたたかいムードを醸し出している。まずはこのロケーションがこのライブの特徴だろう。客席と演者の距離が近く、天井の低い空間に親密さを感じるはずだ。ツアーの他の会場を見ても、いわゆるライブハウスやホールとは一風変わった、リラックスして音楽を楽しむような場所を選んでいるように思う。より近い距離感でKitriの音楽を楽しんでほしいという、そんな思いがあったのではないだろうか。この日のライブも、終始アットホームな空気が流れていた。

 クラシック「L'enfant prodigue Prelude」で幕を開けると、「踊る踊る夜」、「細胞のダンス」と続いていく。どちらかと言えば、Kitriのミステリアスでダークな一面が表に出た曲と言えるだろう。中でもアダムとイヴの楽園追放をモチーフに歌詞を膨らませたという前者は、ハラハラするような鍵盤の音色が印象的で、ライブへの期待感を刺激するようなスタートである。

 ちなみにこの日のステージセットは、ピアノを部屋の角に置き、そこから扇型に広がるように客席を設置。演者が背を向けて歌を聴かせるライブは、ポップスでは珍しい。オーディエンスの多くが、白いワンピースを着て演奏するふたりの背中を見ながら、聴こえてくる旋律に耳を傾けている。演者の表情や動きといった情報がない分、ただただ音楽に埋没していく感覚......彼女達が歌う曲の物語に、身を委ねるようなライブである。

 さて、最初のMCを終えると、Hinaがピアノから離れ、MPCを操りながらアコースティックギターを弾くスタイルに変化。Monaが弾く主旋律の隙間から聴こえる弦の音が心地よく、爽やかな音色の「青空カケル」は、特に会場の雰囲気にも合っていたように思う。透き通るようなHinaのボーカルが印象的で、心が軽くなるような歌声に惹きつけられる。

 短調のしっとりとした旋律で始まる「悲しみの秒針」も、同じセットで演奏された。悲哀を感じずにはいられないMonaのピアノと、メトロノームのように刻まれるパッドの音、そしてサンプリングされたチクタクと鳴る秒針の音が、物寂しさを掻き立てる。連弾という形態を軸にしながらも、Hinaがフレキシブルに動くことで、それぞれの楽曲が持つ個性がしっかりと表現されていく。清らかで伸びのあるふたりの歌唱、ハーモニーも安定しており、こうした表現力こそこのユニットが磨いてきたものだろう。

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