Kitri、多彩な楽器&繊細なハーモニーが響いた『キトリの音楽会 #3 “木鳥と羊毛”』 新曲「未知階段」やカバーも聴きどころに

Kitri『キトリの音楽会 #3』レポート

 Kitriによるワンマンライブ『キトリの音楽会 #3 “木鳥と羊毛”』が東京 SHIBUYA PLEASURE PLEASUREにて行われた。この公演は本来、1stアルバム『Kitrist』のツアーとして2020年4月に予定されていたものだったが、コロナ禍によって度重なる延期に。1年近く経った先日2月15日に満を持して開催された。「Kitrist=Kitriを応援する人たち」にとっても、待ちに待ったライブと言えるだろう。

 Kitriといえば「姉妹によるピアノ連弾ユニット」というプロフィールが真っ先に思い浮かぶだろうが、『Primo』『Secondo』、そして『Kitrist』という3つの作品を経て、その表現性はどんどん拡張してきた。大橋トリオ、神谷洵平をはじめとした手練れのプロデューサーたちによるアレンジ、そしてライブで様々な楽器を取り入れながら、楽曲の肌触りを変化させてきたMona、Hinaの果敢な挑戦がその証である。今回も、そんなKitriの音楽性の広がりをじっくりと味わえるライブになった。

 開演時刻。拍手に包まれながらMonaとHinaの2人が登場すると、ピアノ連弾でオープニングとなる「水族館(クラシック曲)」「鏡」を披露。まずピアノの調べを丁寧に聴かせてくれるところにKitriらしさを感じたが、ピアノという一見シンプルな1台の楽器が低音から高音まで幅広い音域を担うからこそ、姉妹の連弾の中には光と闇が交互に行き交うように聴こえてくる。「鏡」はそんな“Kitriの連弾”を象徴するような1曲だ。

 2曲の演奏が終わったところで、早速本日のゲストとして、羊毛(羊毛とおはな)が迎え入れられた。華麗なギターサウンドを交えて、原曲でのアレンジも印象的だった「Akari」を聴かせたのも束の間、今回も驚かされたのは「矛盾律」だ。Monaがピアノとボーカル、羊毛がギターを弾きつつ、Hinaがウッドベース、カホン、ウィンドチャイム、コンサーティーナ(小さなアコーディオンのような楽器)といった珍しい楽器たちを1曲の中でとっ替えひっ替え。ハンドクラップも交えることでこの曲に潜む様々なリズムが露わとなり、独特の跳ね感が印象的な演奏となった。もともと反意語の羅列という挑戦的な歌詞を取り入れた楽曲だったが、ライブでも「矛盾律」は毎回違う顔を見せてくれる。ギターをサポートに任せることで、Hinaがリズムを刻む役割を重点的に果たしていることも新鮮で、まるで「矛盾律」という名の完成形のない深い物語を見ているかのようだった。

 「青空カケル」を温かい音色で披露した後、会場内の換気を行う合間のMCで、「今日いらしている皆さんは自動的にKitristですよ」「発売後、思わずCDショップでKの欄を探してしまいました」など、初のフルアルバム『Kitrist』がリリースされた喜びを改めて振り返った。この日の天気をそのまま歌い上げたような「雨上がり」に続いて、ライブはカバー曲のパートへ。披露されたのは、久保田早紀「異邦人」、欅坂46「二人セゾン」の2曲だ。どちらも意外な選曲ながら、Kitriの演奏で聴くとスッと体に馴染むから不思議である。「異邦人」は多くのアーティストにカバーされてきた言わずもがなの名曲。ソロアーティストによるカバーが多い印象だが、Kitriのようにコーラスを駆使した歌唱で聴けるカバーというのは珍しいかもしれない。紫の照明と夜空のような舞台演出で、ちょっとした"大人な空間”が作り出されていく。そして「二人セゾン」も、テンポをガッツリ落としたピアノアレンジで聴けるというのは貴重だろう。この曲でもコーラスの美しさが楽曲に彩りを与えており、「二人セゾン」が本来持っている歌謡的なメロディを新しい形で引き立てる。これまでのカバーの選曲を鑑みても、歌謡性あるメロディと切ない歌詞というのは、Kitriの演奏と抜群の相性を見せてきた。〈一瞬の光が重なって/折々の色が四季を作る〉でMonaとHinaの歌唱が重なる瞬間は、この上ないほど儚くて美しかった。

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