新連載「lit!」第3回:My Hair is Bad、BUMP OF CHICKEN、羊文学……この春、テレビや映画で話題のロックミュージック5選
BUMP OF CHICKEN「クロノスタシス」
昨年、結成25周年を迎え、NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』の主題歌も務めた4人組ロックバンド・BUMP OF CHICKEN。彼らは、その長きにわたる活動において、変わり続けていくことを至上命題として掲げながら歩んできたバンドである。だからこそ、今回、エレクトロミュージックを基調とした新曲が届けられたこと自体に対する驚きは大きなものではないが、何よりも感動的なのは、そうしたモダンなエレクトロサウンドと4人が鳴らすバンドサウンドの温かな重なり合いだ。一聴するとロックサウンドが後景に退いている印象を受けるが、全ては、藤原基央(Vo/Gt)が紡ぐメッセージをより深く響かせるためのアレンジなのだろう。歌と言葉の力を最大限に引き出すための一つひとつの丁寧なプレイにこそ、彼らのロックバンドとしての矜持を感じる。そして、そうした新基軸のサウンドに乗せて届けられるのは、過去と今、そして未来の時間軸を通して〈君〉を探し続ける切実な物語だ。「切ない」という感情に、これほどまでに豊かな輪郭を与えられるアーティストは、やはり彼らの他にいない。
Eve「Bubble feat. Uta」
テレビアニメ『呪術廻戦』(TBS系)の主題歌「廻廻奇譚」をはじめ、次々と大型タイアップを引き受けながら、今やユースカルチャーシーンを牽引する存在となったEve。3月リリースの新作アルバム『廻人』に続き、早くも新曲が届けられた。丹精に構築されたリズムセクションと、緻密なエンジニアリングによって立体感とスケール感が増幅されたサウンドスケープ。そして、それらを追い風にしながら加速していくエモーショナルな歌のメロディ。その全てが渾然一体となった時に生まれるロックの高揚感は、もはや抗い切れないほどに大きなものだ。今回の新曲は、まさにEveが長年にわたり磨き上げ続けてきた4つ打ちギターロックの最新型にして、一つの到達点であると思う。また、同曲には映画『バブル』において、りりあ。が声優を務めるキャラクター Uta=ウタとのデュエット曲という意味合いもある。終盤、2人の歌声が〈叫んでいこうぜ〉という合言葉を通して重なる箇所でエモーションが極地に達する展開が非常に素晴らしく、この楽曲自体が一つの「物語」としての完成度を誇っているとも言える。Eveの新たな代表曲になることは言うまでもなく、2022年の音楽シーンを鮮やかに彩るロックアンセムになる予感がする。
Chilli Beans.「マイボーイ」
2019年、Moto(Vo)、Maika(Ba/Vo)、Lily(Gt/Vo)によって結成された3ピースバンド・Chilli Beans.。勢いよく躍進する彼女たちから届けられた新曲「マイボーイ」は、カラフルな世界観と自由奔放な展開の中で、突き抜けるほどのポップさが全方位に炸裂しまくっている1曲だ。なんて高性能なポップソングなのだろう。彼女たちが鳴らすロックは、既存の価値観や枠組みをフラットに乗り越えていくような大胆さを誇っていて、そうしたボーダーレスな感覚は、もはやロックシーンを超えて、ポップミュージックシーン全体と共振し得るほどの大きな可能性を秘めているとさえ思える。それぞれ異なる強みや趣向を持つメンバー3人がソングライティングを担うという制作体制も大きく影響していると思われるが、Chilli Beans.の表現においては、ロックバンドという形態やバンドサウンドに対する固執は一切感じられない。あくまでもフラットに、必要な音を自由に選び取り、組み合わせながら、自分たちが大好きな音楽を形作っていく。逆説的ではあるけれども、ロックの在り方を無邪気にアップデートしてしまうのは、彼女たちのような存在なのかもしれない。とてつもなく大きなポテンシャルを感じる。