乃木坂46 北野日奈子は“努力・感謝・笑顔”を体現してきたメンバーだったーーアンダーの歴史も伝えた卒業公演を観て

乃木坂46 北野日奈子卒業公演レポ

 「きいちゃんって“努力・感謝・笑顔”の全部を持ってる」

 これは3月24日にぴあアリーナMMで開催された『乃木坂46 北野日奈子 卒業コンサート』での、和田まあやの発言だ。この日が乃木坂46としてのラストステージとなった2期生・北野日奈子を、乃木坂46がステージに立つ前の円陣での掛け声と重ねて発した言葉なのだが、和田の発言に大きく頷いたファンは少なくなかったはずだ。筆者も会場で「本当にそのとおり!」と納得させられ、「北野日奈子は9年間、どんなときも“努力・感謝・笑顔”を体現してきたメンバーだった」と改めて実感したのだから。

 2月に卒業した新内眞衣に続き、また2期生がひとりグループを去っていく。北野日奈子は7thシングル『バレッタ』(2013年11月発売)でセンターに抜擢された堀未央奈に続き、8thシングル『気づいたら片想い』(2014年4月発売)で初選抜入りを果たした2期生のひとり。堀同様にグループの最前線で活躍してきたメンバーだが、この9年間は決して順風満帆ではなかった。選抜とアンダーを行き来した時期も長かったし、2017〜18年にかけては体調不良による長期休業も経験している。この日のライブでも披露された2期生楽曲「ゆっくりと咲く花」ではないが、北野こそ「ゆっくりと咲く花」を体現し続けたメンバーだったのではないだろうか。

 そんな彼女の卒業コンサートは歌唱する楽曲や衣装まで、北野の意見が取り入れられた見応えのある内容だった。「気づいたら片想い」がオープニングを飾ったのも納得だし、「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」や「嫉妬の権利」「別れ際、もっと好きになる」などアンダー楽曲が多数選出されたのも、アンダーを長く経験した彼女ならでは。しかも、卒業コンサート自体を29thシングル『Actually…』アンダーメンバーとともに行うあたりにも、彼女らしいこだわりが伝わってくる。アンダーライブが乃木坂46在籍中最後のライブとなった卒業生も複数存在するが、今回のようなケースは10年以上の乃木坂46史の中でも初めてなのだから。

 「ここにいる理由」から始まったアンダー楽曲ブロックでは、自身が中元日芽香とWセンターを務めた「アンダー」含め、琴線に触れる切ないメロディを持つ楽曲が多かった。しかも、ここには堀や渡辺みり愛、寺田蘭世といった、先に卒業した同期メンバーがセンターに立つ楽曲も含まれている。北野はこのセットリストを通じて、3期生や4期生といった後輩たちにアンダー楽曲の素晴らしさを伝えると同時に、かつてのアンダーメンバーが孤軍奮闘し続けた歴史を語ろうとしたのではないか……そう思えてならなかった。

 そんな楽曲の多くでセンターに立つ北野は、パフォーマンス中こそ歌詞や楽曲の世界観を切ない表情やしなやかなダンスで表現しつつも、曲が終わると同時に自然と笑みを浮かべる。背中で後輩に思いを伝えながら、自身はアイドルとして最後のステージを1曲1曲、心の底から満喫しているようにも見えた。それは「君に贈る花がない」や「ゴルゴンゾーラ」「大人への近道」など、過去に自身が参加したユニット曲を3期生、4期生とともに披露する際にも、強く実感した。最近ではライブで披露するたびに涙を禁じ得ない「ゆっくりと咲く花」も、この日は同期の山崎怜奈と歌うことでこれまでとは異なる感覚が味わえたのも、おそらくそういった北野の心境が表れた結果なのだろう。

 また、堀の卒業以降触れにくかったため、自分がこの曲でセンターを務めることでこの先も後輩たちに歌い継いでいってほしいという願いを込めて披露された「バレッタ」も、堀の意志を引き継ぎつつ、後輩たちにバトンタッチしていこうとする北野のポジティブな思いが伝わる1曲だった。そして、本編最後に用意された「僕だけの光」と「日常」の流れは、北野がこのグループの中でもっとももがき苦しみ、そこから這い上がるまでの姿が表現された、今回の卒業コンサートのハイライトだ。「僕だけの光」は2017年秋に開催された『アンダーライブ全国ツアー2017 ~九州シリーズ~』で披露された、ピアノ伴奏を軸にしたバージョンで、北野はこのツアー終了後に長期休養に突入。翌年夏から本格復帰を果たし、同年秋には「日常」でセンターに抜擢され、その年12月の『アンダーライブ全国ツアー2018 ~関東シリーズ~』では同曲で圧巻のパフォーマンスを見せつけている。彼女にとってもっとも激動の1年強を表す2曲だが、この日は当時とは異なる晴れやかな表情を浮かべて「僕だけの光」を歌い、いつもは鬼気迫る表情が印象的な「日常」も今回はどこか達観したような笑みを浮かべつつパフォーマンス。筆者は「ああ、1曲1曲を、一瞬一瞬を愛おしいと感じながら、“今”と向き合っているんだな、楽しんでいるんだな」と受け取ったのだが、「すべてやりきった!」という意志が伝わる「日常」終了後の笑顔を目にして、その思いは確信へと変わった。

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