CHAI「まるごと」と『恋せぬふたり』が伝える、“共感”以上に大切なこと ドラマのテーマと通ずるメッセージ
ドラマ『恋せぬふたり』(NHK総合)を鑑賞すると、少しの苦味と不思議な爽やかさに包まれる。まるごと果実をかじったかのような……。
それは、このドラマが掲げる“自分の幸せは自分で決める”というテーマに心が奮えるのと同時に、まだまだそれが啓蒙されている段階であるという現実への切なさとが入り混じっているからかもしれない。だが、不思議と重くなりすぎないのは、きっとエンディングに〈Oh yeah〉と聞こえてくる、あのキュートな主題歌のおかげではないだろうか。
〈誰にも言えなかった 愛想笑いならもうイヤ〉と歌うのは、双子のマナ(Vo/Key)とカナ(Vo/Gt)、そしてユウキ(Ba/Cho)、ユナ(Dr/Cho)からなる4人組バンド・CHAIだ。“NEO(ニュー・エキサイト・オンナバンド)”を名乗る彼女たちは、日本だけでなく海外からも注目が集まった。2018年にはアメリカ、イギリスの人気インディレーベルから海外デビューを果たし、ワールドツアー&各国のフェスに出演。そして2020年10月に<Sub Pop>と契約し、世界中のメディアから注目を集める存在に。
彼女たちがこれほどまでに絶賛される最大の理由は、CHAIの音楽に貫かれる“人間味への肯定”だ。代表曲「N.E.O.」のMVは、冒頭から「コンプレックスは、アートなり。」と浮かび上がると、もてはやされる美の基準についてポップに疑問を投げかけていく。
日本では一時期“量産型女子”なる言葉が聞こえてくるほど、ひとつの“かわいい”にとらわれている風潮があった。もちろん、その美意識だってひとつの正解。でも、それだけじゃなくてもいいじゃない、自分の個性を“かわいい”って認めちゃえばいいじゃない、と軽やかに歌うのが彼女たちの音楽だ。
だからといって、彼女たちが最初から自信満々だったわけではない。『VOGUE GIRL JAPAN』のインタビューでは、「わたしたちが知り合った頃って、4人とも本当にネガティブで、自分に自信がなかったよね」(マナ)と振り返っているのが印象的だった(※1)。一重の目をアイプチで大きく見せようとしていたこと。フェイスラインを髪の毛で隠していたこと。自分のことを好きになれない部分がたくさんあった、と。
それでも好きな音楽をステージで披露するためには、ネガティブではいられない。お互いに褒め合い、異なる個性を認め合い、そして“かわいい”と肯定し合っていく。そのプロセスが、CHAIの音楽にギュッと詰まっているのだろう。自分の“かわいい”は自分で決める。まさに『恋せぬふたり』の“自分の幸せは自分で決める”にも通じるマインドだ。
そんなCHAIが、このドラマのために書き下ろした主題歌「まるごと」が、しっくりこないわけがない。〈違いさえも まるごと愛せたらなあ〉の歌詞は、多くの視聴者の心を突き動かした、高橋羽(高橋一生)のセリフ「なんでこういうときって、こういう人間もいる、こういうこともある、って話終わらないんですかね?」ともリンクしているように感じる。