優里、菅田将暉、あいみょん……冬に聴きたくなるフォーキーな楽曲の進化と普遍性
アコースティックギターを奏でて歌う弾き語りを基調としたフォーキーなサウンド。そんな音楽が若い世代の間でここ数年、求心力を増している。
12月23日発表、Spotify「トップ200(JAPAN)」ウィークリーチャートでは、優里の「ベテルギウス」「ドライフラワー」が1位と2位にランクイン。あいみょんの「ハート」が12位にランクアップしていた。
冬は、フォーキーな楽曲が、新旧問わずチャート上位にランクインするケースが多いように感じる。人に想いを馳せることの増えるこの季節。誰かを想う気持ちが丁寧に綴られた楽曲が求められるのは必然だろう。耳から入り心を温めていく音楽の意義はいつの時代も不変だ。
2021年、数々の記録を樹立した 優里「ドライフラワー」
優里の楽曲はその筆頭と言えるだろう。「かくれんぼ」「ドライフラワー」といった代表曲で耳に残るのはその歌声の存在感とアコギの響きだ。失恋の寂寥感や悲嘆をパッケージした曲調と歌詞は”フォークソング系J-POP”の逸品と呼ぶに相応しい。特に「ドライフラワー」はBillboard JAPAN 2021年年間チャート・JAPAN HOT 100、DAM年間カラオケランキング2021の1位を獲得し、数々の記録を樹立した日本中でヒットした曲である。
ボーカロイドやDTMで制作された楽曲が躍進するJ-POPシーンの中で、こういったシンプルな楽曲のヒットはなぜ起こったのだろうか。1つは、楽曲が共有され得るきっかけを様々に含んでいたことが考えられる。2020年10月にリリースされた「ドライフラワー」はSNSや動画サイトで徐々に広がっていった。多くのリスナーやミュージシャンによる弾き語り動画や歌ってみた動画としてカバー映像が多数投稿されたからだ。アコギと歌という最小限の要素でも物足りなさを感じさせない、楽曲としての強度があるからこその広がり方だろう。
また、日常を温かな質感の映像で切り取ったMVは、リスナーにとっても身近なものであり、スマホで撮影した写真や動画を彷彿とさせた。その結果、TikTokでショートムービーのBGMとしても多く拡散されたのだ。コロナ禍の影響で、家の中やスマホ上のコンテンツに向き合う時間が増えていく中、最近ギターや動画編集を始めたという人にとってもぴったりの楽曲だったに違いない。
もちろんそれだけではヒットには繋がらない。楽曲の圧倒的な強度を忘れてはならないだろう。親しみやすいサウンドの中で年齢や性別を問わない普遍的な感傷を歌ったことも、カラオケで支持されたり、テレビパフォーマンスに注目が集まった理由といえるだろう。元々はロックバンドのボーカリストだったこともあり、その力強い歌声は良い意味でイメージを裏切る。自然体な楽曲と情熱的な歌声の組み合わせが幅広い世代に新鮮に映っているのかもしれない。最新曲「ベテルギウス」では重厚なサウンドの中でシャウトまじりの咆哮を轟かせ、現在チャートでも急上昇中だ。
フォーキーな楽曲の人気が高まっている理由の一つとして、菅田将暉の存在も大きいだろう。当代きっての実力派俳優だが、2017年からはソロ歌手としても活動を開始。盟友・石崎ひゅーいからの楽曲提供も一つのきっかけとなり、現在ではギターを持って歌う姿も定着している。
どこか物憂げな声はアコギのサウンドやフォーキーなサウンドにとてもよく合う。TVドラマ『ちゃんぽん食べたか』(NHK総合・2015年)にて佐野雅志/さだまさし役を演じたことも印象的だが、根底に流れるフォークの匂いは自作の楽曲でも健在だ。現役のスター俳優がフォークを懐かしむのではなく、現在進行形の洗練された音楽として届ける役割も果たしているように思う。