『Me』インタビュー
AliA、想いの共有から生まれる渾身の音楽 6人の感性が刻印された1stアルバム制作を語り尽くす
骨太なロックサウンドと高い演奏スキル、計算し尽くされた緻密なアンサンブル、豊かな歌唱力、そして、人間の感情をつぶさに描いた歌詞の世界観。AliAは、おおよそロックバンドとして必要不可欠と思われる武器を完璧なまでに兼ね備えている。12月22日にリリースされたAliAの1stフルアルバム『Me』は、バンド結成から3年間にわたって培ってきた、そんなバンドの武器を全方位でパッケージした作品と言っていいだろう。現メンバーで初めて制作した「かくれんぼ」、レーベル名を冠した「SLIDE SUNSET」をはじめ、コロナ禍に配信リリースされた「ノスタルジア」や「100年に一度のこの夜に」など、バンドにとって大切な意味を持つ既発曲に、多彩なアプローチに振り切った新曲を加えた全13曲を収録している。以下のインタビューでは、新型コロナウイルス感染拡大の影響でアルバムリリースそのものが延期になり、メンバー間に軋轢が生まれたという経緯にも触れつつ、1stアルバムの制作にあたって何を大切にしたかったのかを紐解いた。それぞれの言葉からAliAがこの6人である意味が伝わると嬉しい。(秦理絵)
ライブに行くハードルを下げるための「100円ライブ」
ーーまず、12月5日にLINE CUBE SHIBUYAで開催された『-Me- release special 100円LIVE』のことを聞かせてください。AliAが何のためにバンドをやっているのかがすごく浮き彫りになる企画でした。
EREN:今回「100円ライブ」をやるに至ったのは、僕らのことを知ってはいるけど、ライブに来るまでに至ってない人たちが、どうやったら一歩目を踏み出してくれるかなっていうことを考えた結果だったんです。この1年間でSNSやYouTubeを通して、僕らを知ってくれてる人がすごく増えたんですよ。でも、いまいち実際のチケット売れ行きの伸び方がよくなかった。それで、チケット割引とか無料ではなく、意味のわからない「100円ライブ」をやるっていうことにしたんです(笑)。
ーー「無料ライブ」はたまに聞くけど、「100円ライブ」は珍しいですよね。
EREN:そう。それで面白がって来てくれないかなと思ったんです。
ーーSNSとかYouTube、TikTokでバズることが、実際にライブに足を運んでくれることに直結しないというか、そこに溝があるのは難しい問題ですね。
EREN:そうですね。いまは流行っているアーティストさんでもライブをしないっていうやり方を選んだりするじゃないですか。でもこれからは体感をしてもらう文化に寄っていくとは思うんです。時代は巡ってくるし、今後バンドのライブも爆発的に求められていくんじゃないかなって。YouTubeなどで活躍する顔を出さないアーティストさんが武道館をやったりするのも、結局そこに辿り着いてるからだと思うんです。そういう意味で溝はあるけど、僕らみたいなライブを生業とするアーティストが先導してライブに行くハードルを下げてあげるのが大事だと思いますね。
ーーライブの直前にAYAMEさんもTwitterでそういった想いを投稿されてましたね。
AYAME:あのツイートをしたのは、コロナ禍でライブに行くっていう行為を周りに言いづらかったりすることが気になってて。少しでも行きやすい環境を作りたかったんです。ライブに行けば絶対に楽しいし、そこでしか感じられないものがあるから。
SEIYA:それをLINE CUBE SHIBUYAでやるっていうのがAliAっぽいですよね。
ーー2000人規模のホール会場ですからね。しかも、演出に一切妥協がなかったじゃないですか。総勢8名の弦楽隊も招いたり。
SEIYA:背景のセットなどもこだわりましたし、演出照明も多めに入れてます。
ーー弦楽隊を入れたライブも初めての試みでしたよね。特にRINAさんはバイオリニストとして、ああいったライブに憧れもあったんじゃないかと思いますけど、どうでしたか?
RINA:初期の曲もいつか弦楽隊を呼んでやりたかったので、この機会に実現できてすごく嬉しかったです。初めて来てくれた人も多かったんですけど、そのなかでAliAの世界観を見せることができたのはよかったですね。
ーー初めてのホール会場という点では、TKTさん、BOBさんはどうでしたか?
TKT:もとから広いステージを想像しながら曲を作ってたので、やりたいことに近づけてるなっていう手応えはありましたね。
BOB:いままでライブハウスでやってきたから、ちょっと勝手は違うんですよ。お客さんとの距離もありますし。でも表現していきたいことは、この路線なのかなっていう確信は得られたと思います。僕は根っからのメタラーなんで、「今回のライブ、Metallicaみたいだな」って思いました(笑)。S&M(Symphony & METALLICA/1999年にメタリカがオーケストラと共演した伝説のライブ)じゃんって。
SEIYA:あははは! そういう表現好き。
ーー(笑)。本当に現場主義のバンドですよね、AliAって。
EREN:そうですね。(一緒にやるのが)誰でもいいわけじゃないし、やらされてるわけでもないので。その瞬間に意味を作っていきたい。そうやって生きていきたいんです。
ーーいまの言葉は今回のアルバム『Me』にも完全に通じるなと思いました。全13曲を聴いて、こんなにも作り手の輪郭が見える音楽ってあるのか、と思ったんですよ。
EREN:そうやって受け取ってもらえるのは嬉しいです。今回、どの曲をアルバムに入れるかっていうドラフト会議みたいなことをしたんですよ。ここ(事務所の会議室)でホワイトボートに書いて。「Me」っていう曲がひとつの基盤になって、曲を選んでいったんですけど、そのテーマはずっと同じなんです。
ーーというと?
EREN:例えば、帰り道とか電車のなかで聴いたときに、一人ひとりが映画の主人公だって、そういうふうに思ってほしいんですよ。苦しいこともあるかもしれないけど、自分が生きてるいまはとても素晴らしいものだって、そう思えるきっかけを与えるのがAliAかなと、僕は思っているんです。僕らが描いたものによって日々が色づくなら、それをしたい。ファンからのメッセージで、「AliAがきっかけで結婚しました」とか、そういうものもあるんです。自分たちを通して全然知らなかった人たちの人生が変わるって豊かなことだなと思うんですよ。
ーーそれがAliAの根底にずっとある想いなんですね。
EREN:僕がこういう気持ちで歌を作りたいっていうのを言わせてもらって。そこにメンバーの想いも混ざってくるから、僕が設計図は出すけど、完成図は6人らしいものになったんじゃないかなと思いますね。
お互いの価値観を共有しながら乗り越えていった軋轢
ーーコロナ禍で一度は作品の発表が見送られたそうですね。
RINA:はい。ずっとレコーディングはしてたんですけど……。
ーー本来は2020年の頭に世界ツアーから帰ってきたタイミングで出せれば、という感じだったんですか?
SEIYA:そうですね。2019年に国内42本のツアーを終えて、年明けの1月2日から海外ツアーに行きました。1月終わりにポーランドから日本へ帰ってくるときに、ちょうど中国の武漢で新型コロナウイルスが出始めて、ロシアの空港が大変なことになってたんです。そのあと日本にも広がって、予定していたアジアツアーも中止になってしまって。そうなったときに、いままで勢いで、なんとなくバンドが続いてしまっていたことに気づいたんです。ツアーを開催して音源を出すことが次々に決まっていくけれど、それってどういうことなんだっけ? って。
ーー立ち止まるきっかけになったんですね。
SEIYA:はい。
ーー資料によると、そういうなかでメンバー同士の軋轢が生まれたということですけど。お互いに歯車が噛み合わない時期があったということですか?
SEIYA:歯車が噛み合わないというレベルじゃなかったです。
EREN:シンプルに思ったことが伝わる環境じゃなかったんです。みんな性格も違うし……。僕は思ったことをはっきり言う人なんですよ。でも、それが得意じゃない人もいる。例えばAYAMEは、自分が思ってることを否定されるのが苦手だし、どちらかと言うとSEIYAもそういうタイプ。そういうなかで、お互いに疑い合ってしまったことがあって。「将来、僕たちどうしたいんだっけ?」という迷いが、コロナの時期に重なったんですよね。
ーーなるほど。
EREN:それで1回、お互いに言いづらいことを言い合うようにして。特に男女で言いづらいこともあるけど、そこは腹を括って言いました。気を遣っても意味がないので。
TKT:それは絶対に必要な時間だったんですよ。アルバムが1回延期になったことで、一度完成していた曲もアレンジし直して収録しているんです。
RINA:「おにごっこ」とかね。
EREN:「ケセラセラ」も完成してから、1年後にアレンジし直しています。
TKT:1曲1曲にいままでよりも時間をかけられるようになったんです。
ーーより自分たちの音楽を突き詰めていくきっかけになったと。
EREN:そうですね。いままで1曲に対してのテンポが速かったんですよね。そりゃ、わからないですよ。そのテンポ感で作ってたら、いいか、悪いかなんて。
RINA:今回のアルバムは全曲、プレイのことだけじゃなくて、どういう想いで作られているとか、マインドの話をする時間が長かったんです。それがあるかないかでは、本当にテイクが違うんです。「100年に一度のこの夜に」とかも修学旅行で好きな子がいたとか、そういう具体的なエピソードがあって。全曲にコンセプトがあるんです。そういうコミュニケーションは時間がないとできなかったことですよね。
EREN:そう、本当に今回は全員とたくさん話したんですよ。僕がうまく伝えられないと、AYAMEとかは「わかんないよ」って怒るんですけど(笑)。
AYAME:でも今回はスムーズだったよ。ERENくんは、私が気持ちよく歌ったほうがいいってわかってくれるんです。やっぱり声はナマモノだから、その日の気持ちが全部声に出ちゃう。失恋した日に明るい曲を歌っても明るくはならないとか。「Me」っていう曲は最初に1回録ってるんですけど、ちょっと良くないねっていうことで、2回目に録り直したら全く違うように録れて。そういうことがおもむろに出た曲でしたね。
EREN:僕、AYAMEには「歌を歌わないでほしい」って言うんですよ。「これは歌ってるように聴こえるから嫌だ。もっと話してるようにしてほしい」って。AYAMEは出会ったときから、「上手いって言われるのが嫌だ」と言っていたんですけど、なんとなくその気持ちもわかるから、ボーカルじゃない僕とTKTが歌の勉強をして、一緒にAYAMEのディレクションをするんです。
AYAME:そういう話をして行き詰まると「はい、やめよう!」みたいになってーー。
EREN:1回休憩する。
TKT:そうだね。今回、僕らが覚えたのは休憩ですね。リハーサルでも、レコーディングでも、歌録りでも。休憩をちゃんと取る。
EREN:いままでほぼ休憩がなかったからね。
ーーいまの「歌の上手さを目指すわけじゃない」っていうのは興味深い話だと思いました。結局、上手いっていうのは前提でしかないってことですよね。
AYAME:本当にそうですね。
ーーそれって楽器隊全員にも当てはまるんじゃないかなと思うんですよ。AliAって音楽集団的な一面があって、全員がテクニカルな技術を持っている。でも、それ以上にひとりの人間として何を思って、どう演奏するかが大事だったんじゃないかなって。
EREN:本当にそう。気持ちの問題ですよね。
AYAME:私は「上手い」って言われるより、「AYAMEちゃんの歌が好き」って言われる方が嬉しいんです。そういう単純なことでいい。だから「AliAの音楽が好き」って言われたい。
ーーメンバー間の軋轢は、時間をかけて曲作りすることで解消されていったんですか?
SEIYA:そうですね。ちょっと前に映画『君の名は。』を観たんですけど、僕って偏屈なので流行っているものって観なくていいと思っちゃうんです。でも、ERENとかTKTはそういう作品が大好きで、ある日ERENに『君の名は。』を観せてもらったんですよ。そしたら、ERENやTKTが何を観て嬉しさや楽しさを感じているのか、共有できた気がしたんです。2人の好きなものに触れることで、メンバーを知るヒントが増えたんですよ。
EREN:まあ、みんな少しずつ素直になっていったんですよ。それが軋轢解消のカギだったのかもしれないです。