木下百花、音楽に溶け込むアイドル時代のトラウマや人生観 奥田健介や柴田聡子との交流で掴んだソングライターとしての転機

木下百花、音楽家としての転機

SPANK HAPPY、坂本慎太郎などを参照したサウンド作り

ーー「ここに届けばいい」という場所に届けるためには、大衆に届けなければいけない、という言い方をされましたよね。最終的に届けたい「ここ」というのは、今の木下さんにとってどういう場所といえますか?

木下:そこを言葉にするのが難しいんですよね。……この間、ツイートで見たんですけど、柴田聡子さんや奇妙礼太郎さんみたいな、私が大好きで普段聴いている音楽が並んでいるプレイリストに、私の曲が入っていたんですよ。それがめちゃくちゃ嬉しくて。

ーーある意味、コアな音楽好きに好かれる場所に自分の音楽があることが、理想である?

木下:いや、そこを説明するのがめっちゃ難しくて。理想ではあるんですけど、本当に目指しているものは違うような気もしていて。今言ったような人たちに並びたくてやっていたのが『また明日』までなんです。でも、「本当にそこなんかなあ?」と考えだしたのが、そのあとで。そこにいる人たちには、そこにいる人たちが積み重ねてきたものがあると思うけど、私の場合、もっと違う色なんじゃないかなって思い始めたというか。私は、最初からそっちには行けないんですよ。なので、最近は自分に使えるものはちゃんと使って、自分で認めることができる範囲で広げていかないとなって思っているんです。

ーー正直、木下百花というミュージシャンの「説明の難しさ」というのは、聴き手としてもすごく感じるんです。「元NMB48」というバックグラウンドは強烈でもあるし、なにより木下さんは、なにかに対してのアンチテーゼとして音楽をやっているわけではないんですよね。もっと肯定的というか、木下さんには木下さんの王道があって、そこをひたすら歩んでいこうとしている感覚がある。カウンター的な表現って案外、言葉にして説明しやすいんですけど、木下さんはそうじゃないから。

木下:そうなんですよ。仰る通りで、なにかを否定する感じって、自分にはないんです。もちろんムカつくこともあるけど、そういうものからはこっちが離れるだけだし。わかりやすく「ぶっ壊すぞ!」みたいなこともないし。なので、常に説明が難しい。でも、なにをやるにしても、こういう説明がいるじゃないですか(と言って、手元の資料を触る)。こういう説明、すっごく嫌いで(笑)。

ーー(笑)。

木下:でも、自分のなかでわかっているだけではダメだから、人に説明しないといけないわけで……ずっと課題です、自分を説明することは。

ーー言葉で説明できないから、木下さんは音楽を必要としたんでしょうしね。ちょっと漠然とした質問ですが、木下さんが好きな音楽って、どんな音楽なんだと思いますか?

木下:好きな音楽……急に場面が変わったりする音楽は好きですね。「悪い友達」もそうなんですけど、間奏で急に場面が変わったりする。曲の中に違和感が生じているものが好きなんです。変な部分が絶対にある音楽というか。曲でも、歌詞でも、楽器でも、違和感が残ると、聴いちゃう。逆に、綺麗に整いまくっている音楽はあまり好きじゃないです。自分が作る曲も、全部が綺麗に終わっちゃうと悪い意味で「変やな」って思うんです。自分らしくないというか。特に今回の「悪い友達」は、受け口を広くするのが目標だった分、普通の曲になっちゃわないように、間奏でめちゃくちゃやってやろうっていうのがあって。やっぱり、どこかで自分が100パーセント出ていないと、落ち着かないんですよね。

ーー奥田さんとの「えっちなこと」の手応えがあったうえで、今回は何故、ご自分で編曲までやろうと思ったんですか?

木下:今まで私のなかにあったアレンジャーに対しての苦手意識って、自分の曲が変わってしまうことに対してだけじゃなくて、「アレンジャーがいないと、自分は成り立たないんじゃないか?」っていう不安でもあったんです。「悪い友達」を自分で編曲しようと思ったのは、そういう不安や後悔をなくしたいなと思って。できるだけ、自分でいろんなバランスを見て納得ができるものを作ろうと思ったのが、今回の曲です。打ち込みも初めて自分でやったんです。最初、エレピだけでデモを作ったんですけど、編曲をしていく中で、勝手に奥田さんから学んだことを生かそうと思いました。歌がちゃんと聴こえるようにとか、エレピと歌に対しての生楽器のバランスとかを気にしたりとか。メジャー感というわけじゃないですけど、開けている感じのものにしたいなと思って。そこが今回は一番大きいです。

ーーそもそもデモの段階では、どういった曲を作ろうというのがあったんですか?

木下:デモの段階では、最近のSPANK HAPPY(FINAL SPANK HAPPY)をパクろうと思ってて(笑)。「エイリアンセックスフレンド」みたいな、お洒落な曲を作りたいなと思ってました。でも、最終的にはもっといろんな要素が入ってきていると思います。パーカッションとドラムの関係性で参考にしたのは、坂本慎太郎さんとか。あと、間奏のトラックはTemporexっていう、カリフォルニアのミュージシャンの感じを意識したりとか。いろんなものを全部ぶち込むのが好きなんです。1個のテーマじゃつまらないから。あと、やっぱりサポートのみんなと一緒に作っているうちに、変わっていっちゃうんですよ。特にギターの伊東(真一)さんは好き勝手やって返してくるので(笑)。

柴田聡子との会話から生まれた「悪い友達」

ーー木下さんは基本的に、曲と歌詞はどのような順番や関係性で作られるんですか?

木下:歌詞を書き溜めているんです。曲はあとからですね。歌詞は電車で、iPhoneで書くことが多いです。でも、書き溜めている量がすごく多いから、サボっている期間が長いんですよ(笑)。バーッと書き溜めて、そこから引っ張ってきて組み合わせたりするので、ここ半年は書いていないかもしれない。

ーー歌詞には、ご自分のどんな部分が表れやすいと思いますか?

木下:自分の歌詞について、前に知り合いに「なにかから逃げているよね」って言われたことがあって。なにかを遠ざけたり、逃げたりしている。これは性格なのかな……。さっきも話したみたいに、私は、自分が嫌ならその人から離れるし、「執着しないでね」っていう歌詞を書きがちだと思います。ただ、「悪い友達」の歌詞は柴田聡子さんと釣り堀に行ったときに考えたものなので、ちょっとテイストが違うかもしれないです。

ーー釣り堀に行ったんですか。

木下:そう(笑)、一緒にライブをしたあとに、お茶友達みたいになって。柴田さんと鯉を釣りながら、「友達いますか?」みたいな話になって、柴田さんは「どついたるねんしか友達いない」って言ってたんですけど(笑)。そこから、“悪い友達”の話になって。「悪い友達って、こっちが付いていこうとすると、結局、ひとりぼっちにしてくるじゃないですか」みたいなことを柴田さんが言っていて。そういうことも盛り込んで歌詞は書きました。いつもだと自分ひとりで悶々としがちなんですけど、今回は人との話の中ででき上がったので、いつもとちょっと違うかもしれない。今までよりも聴いている人が想像しやすいように書くことも意識しました。

ーーこれまでの曲でも、木下さんの書く歌詞には常に他者がいるような印象もありましたけどね。「君」という存在に語りかけていたり、なにかとお喋りしているような感覚があるというか。

木下:なんやろう……やっぱり、悶々とする感情って、人と関わって生み出されるものだから。そもそも私の性格的に、漠然と孤独っていうわけでもないですし、「ひとりぼっちや、死のう」みたいなこともないですし(笑)、誰かと関わったりしたうえで考えを巡らせることも多いので。それに、歌詞って自分との対話でもあるので。自分のなかで考えて、自分のなかで話したりもするから、そういうのが出ているのかなって思います。

ーーこと音楽の中における木下さんの言葉って、ラップというか、フロウというか、お喋りというか……非常に独特な抑揚を持っていると思うんです。セリフが入ってきたりもするし。

木下:そうですね(笑)。

ーー木下さんの音楽の中では、「歌」というものが広く捉えられているなと思うんです。ご自身が「歌」の中にも様々な形や要素を求めるのは、なぜなんだと思いますか?

木下:「卍JK卍」のときに「私、ラッパーになります」とかふざけたことを言っていたんですけど(笑)、そもそも、ゆるいラップが好きなんです。泉まくらさんみたいな、囁く感じのラップが好きで。あと、ポエトリーリーディングっていうんですかね、ああいうのもすごく好きです。SPANK HAPPYですごく好きな曲があるんですけど、ずっと喋っている曲があって。曲中で喋るのは、そういうものからの影響は大きいかもしないです。あと、自分の聴いてきた音楽を振り返ると、例えば、アイドルソングとかアニソンって、曲の後ろで囁くような声とかセリフが入っていたりするんですよね。自分が聴いている曲に自ずと影響されている部分はあると思います。それと、言葉を書きすぎて収まり切らなかったときに、ラップにしたり喋ったりしますね(笑)。

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