androp、新たなバンド像を掴んだアルバム『effector』 音楽に向き合い続けた日々も明かす

androp、『effector』を語る

自分たちの楽曲が、聴いてくれる人の心の何かを変える作用があればいい

ーー今回はより“曲”というものを作り込んでいる感じがしますね。バンドアンサンブルの高揚感や熱を大事にした曲もありますが、もっと曲が持つ景色を4人それぞれが突き詰めて作り上げている感があります。

伊藤:うん、そこは大事にしたいですね。

内澤:伊藤くんも言ったように経験が蓄積されていっているからというのはありますね。それによって、自分たちでいろんな判断ができるようになってきたというか。

ーーそれは近年のライブを観ていても思うことで、誰がどの楽器をやっていてもいいくらいの自由さで、曲が尊重されているというか。最終的にandropとしての表現になっていればいいというムードを感じます。

内澤:それはみんな強く思っていると思いますね。例えばギタリストだからギターじゃないと絶対にダメだという考えはないというか。

佐藤:前からそういうのがないんですよね。

内澤:かっこよく伝えるために最善を尽くすというスタイルで。

佐藤:9月のビルボードツアー『androp Billboard Live Tour 2021“Lonely”』は、内澤くんギター1回も持ってないしね。プロフィールにはギター/ボーカルってあるけど(笑)。

ーーそうでしたね(笑)。新鮮でした。

佐藤:でもそんなことにも気づいていないくらい、別にそこにこだわりはないというか、ああ、そういえばギター弾いてないねっていうくらいだったんですよね。

ーーその自由さを加速度的に感じているのが、この2、3年なのかなと思います。何が、そういう意識になっていったんですかね。

佐藤:徐々にといえば徐々になんですけど、多分それが急激に形として出はじめたのが、この2、3年ですかね。

内澤:自分たちのレーベルを立ち上げてから、一個一個のことが活動に直結しているというか、より自分ごととして感じるようになって。ちゃんと責任を考えたりだとか、いろいろと考えるようになったんだと思いますね。

ーーよりクリエイティブになっているバンドを、ファンも楽しんでいる感じですよね。

前田:最近はお客さんと接する機会が減ってしまっていますけど、面白がっていてくれていると思いますね。andropを聴いてくれる方は、“音楽”を聴いてくれているお客さんが多い印象なので。

内澤:うん、面白がっていてもらいたいですね。

佐藤:自分たちも面白がってやっているしね。11月に、リリースから10年を迎えた3rdアルバム『door』(2011年)の完全再現ツアーをやったんですけど。再現ライブをやった後に最新曲を演奏したときの違いが、これぞバンドだなと思ったんですよね。バンドってそうあるべきだよなとも思えたというか。

ーーとくに9月のビルボードライブを観ても思いましたが、以前の曲たちもどんどんアップデートされていて、アレンジを楽しんでいることも感じます。

佐藤:そうですね。ビルボードは、ほぼ新曲のようなアレンジでしたもんね(笑)。

内澤:人生経験みたいなものも音に反映されている気がします。自分の歌う言葉にしても、例えば“愛してる”という言葉でも、昔はそんなに人をちゃんと愛せていなかったのかもしれないし(笑)。でも経験を積むことによって、当時とはちがった意味を込めての“愛してる”という言葉を歌えるというか。そういうのもすべて、新しいアレンジに反映されている気がしますね。

ーー今回のアルバムの制作と、9月のビルボードライブはリンクしていたりするんですか。

佐藤:めちゃくちゃリンクしていますね。今回のビルボードツアーは、初めてサックスプレイヤーを入れて回ったツアーで、それは前田が提案してくれたものだったんです。最初はどんな感じになるかなと思ったんですけど、リハでスタジオ入って1曲鳴らした段階で、レコーディングにもきてもらおう、音源にもサックスを入れたいという気持ちになったんです。

ーー前田さんはどういうところからの提案だったんですか。

前田:サックスはどこからだったんだろう……海外のアーティストでもバンドでサックスを入れるというのが意外とあって、多分、拓とそういう話をしていた気がしますね。あとはどうしても、自分たち的にも同じ音でやっていると飽きちゃったりするじゃないですか。新しい刺激がほしいじゃないですけど。それで提案をしたら、みんながいいんじゃないかと言ってくれて。さすがandrop、懐が深いなと(笑)。それでサックスの方とスタジオに入ってみたら、想像以上によかったんですよね。

ーーアルバムでは「Water」「SuperCar」でサックスが入っています。これまでもストリングスやホーンを入れた曲はありましたけど、今回はその音、楽器の使い方がまた全然ちがいますね。より曲への絡みが濃いというか。

内澤:「Water」にも「SuperCar」にももともとサックスを入れる予定はなくて。「SuperCar」はビルボードのリハのときに入れようって決めたんですけど、「Water」に関しては入れる予定なく進んでいたんです。でもツアー中、大阪公演の後にメンバーみんなで話をしていたときに前田くんが、「『Water』には絶対サックス入れたほうがいいと思うな」って言って。

伊藤:熱く語ってたね。

内澤:じゃあ、これはもう入れるんだろうなと思って、僕もサックスを入れたデモに書き換えてレコーディングに臨もうと思っていたら、前田くんが「この曲サックス入れるのありだね。内澤くん、さすがだね」って言い出して(笑)。いや、ちょっと待ってくれよと。

佐藤:入れた方がいいっていうから入れたのにっていうね(笑)。

前田:うちのボーカル、さすがだわって思ってたんですよね。

内澤:自分で言ってたのに、忘れてたのがびっくりした。

伊藤:これはあるあるですね。

前田:自分が忘れていることでさらに衝撃的だったのは「Iro」のベースで。これはもともとリモートで作ってるときに僕が弾いたフレーズらしいんですよ。デモを作ってからレコーディングまで結構時間が空いていたんですけど、録る段階でデモを聴いて、「やっぱ内澤くんが作るベースラインかっけえな。弾けねえぞ、これ」みたいなこと言ってたら。「いや、あれは君が弾いてたやつだよ」って(笑)。

ーー(笑)。「Water」の話に戻すと、サックスは曲のアクセント的なものじゃなくて全体に絡んだものになっていて、間奏パートはバンドとの白熱したセッションがそのままパッケージされたものになっていますよね。レコーディング現場でもいろいろ試していった感じですか。

佐藤:内澤くんのデモは完成度が高いものが多いので、我々もどうしてもそれに近づけようというか丁寧に、丁寧にとなりがちなんですけど。レコーディングをしはじめたら、内澤くんが「もっとめちゃくちゃにやっていいよ」って言うので。逆にここまでやっちゃっていいの? っていうのが「Water」の間奏でしたね。サポートで入ってくれた鍵盤とサックスの方もめちゃくちゃやってくれて。

前田:ただ、やりながら誰も正解がわからなかったのはあって。みんな首を傾げながらレコーディングしてたんですよね。

佐藤:いいの?って言いながら。でももっとやれっていうんですよ。

伊藤:多分、内澤くんは完成形が見えていたんだと思うけどね。

内澤:でも、みんなもある程度見えてたよね?

佐藤:ああ、ニューヨークの河川敷でさすらいのサックスプレイヤーがひとりでひたすらに練習しているところでーー。

前田:そこに、バンドが演奏を合わせていく。

佐藤:という映像をみんなで思い浮かべながらやってました。

内澤:あれは面白かった。

ーー「SuperCar」は同じくサックスが入った曲でも、よりソウルフルな高揚感があります。アルバムラストで、ゴスペル的な「Iro」から「SuperCar」へと続いていく、この気持ちが昇華されていくような流れがいいですね。

内澤:「SuperCar」も10周年ライブが終わってすぐに作りはじめた曲で。andropは合唱するような曲が多いけれども、コロナ禍で声を出すことも合唱することもできなくなってしまったときに、たとえ一緒に声を出せなくてもコールアンドレスポンスをしていたときくらいライブで楽しめる曲を作りたいという思いからできた曲でした。だから、心で一緒に歌いましょうみたいな歌詞を設けたりもしましたね。これもライブでずっとやり続けてきた曲でもあるので、よりライブ感を重視して、それこそビルボードをきっかけにサックスを入れたりもしたので、はじめの段階からはどんどん変わっていった曲ですね。

ーーこの全10曲を束ねるタイトルとして、“effector”という言葉が出てきたのは。

内澤:タイトルを決めたのは最後の最後で、もう決めないと間に合いませんっていう状況までずっと考えていたんですけど。最初に言っていたような、自分たちの楽曲が、聴いてくれる人の心の何かしらを変える作用があればいいなという思いをより強く持って、制作に向かった作品なので。その願いを込めてのタイトルになりました。

ーーコロナ禍でYouTubeやTikTokなどSNSでの発信もはじめたり、ビルボードライブのような新たな編成によるライブがあったり、このアルバム『effector』では、これまでのandrop像も軽々と自分たちで壊しながら、音楽を自由に解き放っている。挑戦が続いていきますね。

佐藤:そうですね。新しいことにチャレンジしていない時はないというくらい、トライし続けている10数年で。これがandropのやり方という感じがしますね。2022年の活動も先々までいろいろ決まってきているんですけど、今年こうしてアルバムがリリースもできたし、それをさらに昇華していく、回収していく1年にできたらいいなと思っています。

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