アルバム『effector』インタビュー
androp、新たなバンド像を掴んだアルバム『effector』 音楽に向き合い続けた日々も明かす
前作『cocoon』から約3年9カ月ぶりとなるandropのニューアルバム『effector』が完成した。2020年1月に10周年の集大成となるライブ『androp -10th. Anniversary live-』を昭和女子大学・人見記念講堂で開催し、思い新たに次へという段階で、コロナ禍に突入した。ライブ活動ができないなどバンド、アーティストにとって苦しい時間が続いているが、その時間を滋養と切り替えて、クリエイティブかつ想像力豊かにandropの音楽世界を創造していったのが今回のアルバム『effector』だ。
2017年にCreepy Nutsとのコラボレーションで生まれた「SOS! feat. Creapy Nuts」や、それ以前にもラップ的なフロウや詩的なポリリズムで歌った曲はあるが、アルバムを幕開ける「Beautiful Beautiful」は攻撃的で、生々しい切迫感がミニマルなビートで刻みつけられる。ぐっと引き寄せられるこの曲を扉に入ったアルバムの世界は、キャッチーだが聴くたびに新たな音の発見や味わいがある、丁寧に下ごしらえをしたスープのような芳醇さがある。その音楽に浸るうちに、時に毒っ気のあるスパイスが感覚を刺激し、あるいは懐かしい記憶や思わぬ感情にも触れる。現実的でヒリリとしたロックミュージックの鋭利さを感じつつ、いつの間にかそのサウンドに耽溺している。そんな新しい感覚を覚えるアルバムだ。その制作やバンドのモードはどういったものだったのか、4人に話を聞いた。(吉羽さおり)
【記事最後に井上竜馬(SHE’S)、菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)、都築拓紀(四千頭身)、藤野良太(storyboard)、村松拓(Nothing's Carved In Stone)からのコメントも掲載】
オリジナル動画「日常に欠かせないものは?」
コロナ禍を経た分、その影響を受けてできていった
ーー3年9カ月ぶりのアルバム『effector』が完成しました。今年に入ってからの配信シングル「Beautiful Beautiful」、「Lonely」やライブなどでいろいろな布石があったにせよ、これまで以上に自由に、思うままに作られたクリエイティブなアルバムだという印象です。一方で歌詞からは、コロナ禍で過ごした時間やそこでの感情も織り込まれていると思いますが、コロナ禍という未経験の状況下で、まず曲作りにどう向かっていったのでしょう。
内澤崇仁(以下、内澤):2020年1月に10周年の集大成となるワンマンライブを終えて。また新たなandropへと意気込んでいた矢先に、コロナ禍でバタバタと予定が崩れていったんですよね。ライブもできなくなったりして。そこから、音楽と向き合う時間になって。自分としては今までにないほど、音楽をやる意味や、音楽を作り出す意味、言葉を紡ぐ意味をすごく考えさせられながら生活をする日々でしたね。
ーーライブができないなか、新作に向けて、バンドのこれからに向けてメンバー内ではどういったやり取りをしていたんですか。
内澤:もともと10周年のライブが終わった後に、新しいアルバムを出していこうという流れはあったので。はじめは、出鼻くじかれたという感じではありました。
佐藤拓也(以下、佐藤):なのでずっと制作はしていましたし、ツアーもやる予定があったんですけど。緊急事態宣言が出て、ステイホームとなってーー。
内澤:レコーディングのスタジオも取れないとかね。
佐藤:メンバーでリモートで打ち合わせをしながら、こういう状況だしアルバムをすぐに出すのは見送ろうかという話をしました。ツアーもできなくなってしまったから、今何ができるかをいろいろ話していたんですけど、結局2020年は配信シングル「RainMan」しか出せず、あとはオンラインライブが2回かな。外に出て活動をしたのはそれくらいしかできなかったですね。
ーーアルバムが先延ばしになりながらも、制作自体は続いていたと思いますが、制作の方法にコロナ禍による変化はありましたか。
内澤:意外と曲作りについては変わらずできたのかな。
佐藤:変わってないかもしれないですね。andropは、もともと内澤くんがしっかりとしたデモを作って、そこからみんなでデータをやりとりをしながら、ああしようこうしようとやっていくんですけど。もともとその方法も、リモートといえばリモートのようなものなので。
前田恭介(以下、前田):その方法は10数年変わっていないので、先駆けてましたね(笑)。
ーー曲を作る内澤さんは、先ほど音楽を作る意味や言葉を紡ぐ意味に向き合う時間だったと言っていましたが、何か自分から湧き上がってくるもの自体にも変化はありましたか。
内澤:音楽との向き合い方というものを考えながらだったので、自然と変わりますね……思考が変わっているというか。
ーーそれはライブという場がないということも大きい?
内澤:大きかったと思います。しかもいろんな要因で、音楽をやっている人も表現の場がなくて困っていたりとか、もしくは考えすぎて命を落としてしまうというニュースなどもあったりしたじゃないですか。自分としても、すごく考えさせられましたね。
ーーそこでその思いをどういったベクトルに向けていこうと?
内澤:僕としては、これは昔から変わらないんですけど、聴いてくれる人ありきで音楽を作っているところがあるというか。自分の思っていることを曲にする、それが聴いてくれる人にとって何かしらのものになったらいいというのがやりたいことなんですけど。その純度を高めることに重きを置いていた気がしますね。今まではライブや移動などに使っていた分を、すべてそうした考える時間にあてて。その分、純度の高いものを作ろうという。
ーーもともと2020年にアルバムを出そうとしていたということは、曲自体はある程度揃っていたんですか。
佐藤:はい、その時点で結構デモはまとめていたんです。候補曲というか、20曲分くらいのフォルダを作って、みんなで聴きながら「これは入れよう」という話はしていたので。コロナ禍で一旦止まっていたんですけど、2021年に入ってもう一度、その予定していたものを動かしてみようかっていう感じで。ただ、サウンドだったり、内澤くんから出てくる言葉だったりが、コロナ禍を経た分その影響を受けてできていった感じですね。
内澤:曲を作った時期はバラバラで、コロナ禍でできた新しい曲から、古いものだと2008年に作った曲もありますね。
ーーその2008年に作った曲というと。
内澤:6曲目の「Know How」ですね。2008年のandrop結成前くらいにデモとして作りはじめたものがあって。これまで何度か世に出そうと、みんなで集まってはブラッシュアップさせてきた曲だったんです。コロナ禍で配信ライブをやるにあたって、せっかくだから何か面白いことをできないかという中で、まだどこにも出していない曲をやろうという案があって。その1曲として、「Know How」を配信ライブでやりはじめたんです。ライブでまた作り上げられていって、レコーディングに至るという形になりました。
ーー「Know How」は最初のデモ段階からアレンジなど変わっていますか。
内澤:最初のデモはサビがちがう感じで、2016年に今のサビになったんです。リズムパターンとかも2016年におおよそ今の雰囲気になって。歌詞については、最近ですね。
前田: andropって、ライブで曲をやってからレコーディングをするということがそんなに多いバンドじゃないので。みんながある程度ものにした感じで録れたのはよかったと思いますね。そういう意味でも、このアルバムの中でいうと、こなれた雰囲気が出ているかなと思いますね。
伊藤彬彦(以下、伊藤):プリプロに入って、各々が自分のやることを提示しながら組み上げたものだったので。「Know How」は結構、自分の手癖が多く入っているなと思います。
ーー歌詞は、〈新しいノーマル〉〈「今を生きろ」って今が こんな世の中じゃなあ〉など、リアルタイム感があります。
内澤:今だから出てきた言葉でしたね。実際に配信ライブでやって、そのときの感情で生まれてきた言葉と、有観客でもできるようになってお客さんの前で伝えようとして出てきた言葉というのも、自然と組み込んでいけたので。
ーーこうして世の中が透けて見えるような歌詞、時代の空気感が練りこまれている歌詞というのはandropでは新鮮で、だからこその生々しさがありました。それは今年最初の配信シングルとなった「Beautiful Beautiful」もそうで、この曲はコロナ禍だからという背景だけではないと思いますが、とにかく息詰まるようなスリリングな展開で、どこか不穏なニュアンスのあるトラックにのせて怒涛のように鋭い言葉や感情がリスナーになだれ込んでくる、衝撃的な曲でした。
内澤:そうですね。「Beautiful Beautiful」は、衝撃を与えたいなと思って作ったりもしていたので(笑)。andropじゃないと思われたい、みたいな。
佐藤:この曲もさっき話した20曲くらいのデモに入っていたもので。2020年はコロナ禍でどんなふうに活動をしていったらいいのか、もがきながら考えて出したのが「RainMan」という曲で。聴いてくれる人の心に寄り添う楽曲を出そうとなったんですけど。それを経た2021年はもうちょっと攻めていこう、刺激を与えられる曲を出していきたいという思いがあって。その第1弾はとくに熱いものがいいと、みんなでデモのなかから選んだのが「Beautiful Beautiful」だったんです。ただ、デモ段階ではもう少しメロウな感じだったんですけど。1年を経て、歌い方を完全にヒップホップの方に振り切って。狙った形になったのはよかったですね。
ーー曲が完成した際の手応えもあった?
内澤:はじめは面白がって作っていた気がするんですけど、でき上がったときに異質なものになったなという印象はありました。ラップみたいなAメロにしたのも、ある程度レコーディングが終わってミックスに回す前の歌入れ段階で変えているので。メンバーもびっくりしたと思いますね。
佐藤:びっくりしましたね。前のバージョンも好きだったから、その変化をどこかで聴いてもらえる機会があったら、それも面白いなと思います。バンドなので、どんどん変化していくというのがいいところだと思うし。
ーー今回のアルバムはエレクトロなビートと生のビートとが用いられていると思いますが、伊藤さんはアルバムを通していろんなパターンのドラミングで曲を色付けていますね。
伊藤:今回は打ち込みが結構あったりするので、生音を単発の素材として録ってそれを打ち込みに混ぜたりしているものもありますし。テイクとしては生の、割とダイナミクスがついたフレージングを録った上で、キックの音を打ち込みっぽくしているようなものがあったり。ドラムの音でジャンルの感じみたいなものが出ると思うので。曲のアレンジごとに、しっかりといいところが活かせるように、取捨選択してやっていった感じですね。
ーードラムの音選びやテクスチャーなども、メンバー間でアイデアを出し合って決めていくんですか。
内澤:基本的には、伊藤くんが自分の思ったものをやってもらうことが大きいですね。とくにパーカッションに関しては、僕が全然わからないままデータを打ち込んでいるので、これはドラマーの観点からみておかしくないか? とかをよく聞いたりしますね。
伊藤:あとはもうこれだけandropで何作も出してきたので、ここは生にしようとか、最終的にミックスの上がりを考えたとき、ここはもしかしたらデモみたいな音源の方がいいかもしれないなとか、経験として蓄積されてきているのもあるので。そういうことを加味しながら、進めていく感じです。