花譜、ひとりの少女が世界規模のVシンガーになるまでの成長譚 プロデューサーの言葉と振り返る3年の軌跡
ひとりのバーチャルな少女が歌を口ずさんだ13秒の動画「花譜 #01」がYouTubeに投稿されたのは、今から3年前の2018年10月18日。その透明な歌声の正体は、地方都市に住む当時13才の花譜だ。音楽アプリを通じて彼女を見つけたのは、花譜をはじめ、バーチャルアーティスト、リアルアーティスト、クリエイターを抱えるYouTube発のクリエイティブレーベル<KAMITSUBAKI STUDIO>の統括プロデューサー・PIEDPIPER。そして花譜は、今日までに、YouTube登録者数57万人超え、bilibili登録者数18万人超えと国内外の熱狂的なファンに支えられるバーチャルシンガーに成長した。本稿では10月18日に活動3周年を迎えた花譜の3年間の軌跡をPIEDPIPERの声を抜粋しながら辿りたい。(引用は花譜3周年サイトのPIEDPIPERインタビューより)
「もともと何を考えているのか全然わからないタイプの子だったんですよね(笑)。今でも不思議なところは全然変わらずですが、出会った当初は尚更掴み所のない感じで、本当に田舎にいる素朴な女の子という印象でした。プロになりたいとか、音楽でご飯を食べるみたいな野心も全然なかったと思います。歌も単純に好きで歌っていただけであって、周りの友達に褒めてもらえると嬉しいくらいに思っていたのかな」(PIEDPIPER)
普通の女の子がバーチャルの世界に飛び込み、そこから歌手としての夢を叶えていく。ある種のシンデレラストーリーを歩む花譜の物語において、最初に披露されたオリジナル曲は、2018年12月6日に投稿された「糸」。同曲の作詞、作曲、編曲を手がけたボカロPであり、昨年『あの夏が飽和する。』で小説家デビューを果たしたカンザキイオリ。カンザキは、その後も花譜のオリジナル曲をほぼ全て手がけるキーパーソンとなる。後に2019年10月18日に設立された<KAMITSUBAKI STUDIO>に所属することになる二人のタッグは、同レーベルの誕生と密接に結びついている。
2019年2月からの約1カ月半は高校受験に伴い活動を一時休止。3月20日、再開の合図として別れの中に愛しさを描いたバラードナンバー「雛鳥」を投稿。同年6月28日公開の映画『ホットギミック ガールミーツボーイ』では、「夜が降り止む前に」にて花譜初となる映画主題歌を担当することになる。当時、この大抜擢につながったきっかけは、同作監督の山戸結希がデビュー前の花譜のカバー音源を聴き、心を掴まれたことにあったという。つまり、まだ無名の、何の実績もなかった花譜の才能を買ったタイアップだった。
そこからも花譜は、その歌声と花譜チームよるクリエイティブの高さで、観測者(ファンの名称)を増やしていく。ネットシーンにその名を轟かせた1stワンマンライブ『不可解』では、事前にクラウドファンディングを実施。目標額500万円に対し、最終的に4,000万円を超える支援金を集め、2019年8月1日、東京・恵比寿にあるLIQUIDROOMにてライブを開催した。当日は、YouTube Live生配信で同時視聴者数21,034人、全国各地の映画館、カラオケルームでのライブビューイングで2,023人を動員。Twitterでは「#花譜不可解」が世界のトレンドで1位に輝いた。
2019年9月11日には待望の1stアルバム『観測』をリリース。観測者への感謝を込めた「そして花になる」は、カンザキイオリが花譜の活動への想いなどの心境を実際に聞き出し、制作した曲。サビには〈私が歌を歌うのは/歌が好きだったってわけさ/好きなものを/好きなことを/好きでいることに理由はいらない〉と等身大の気持ちが忠実に表現されていて、直接心に訴えかけるものがある。