連載「Signal to Real Noise」第十回:(sic)boy
(sic)boyがLAで語った音楽を作り続ける理由 ロックとヒップホップ、2つのコミュニティを見つめる視線
「Heaven's Drive」のヒットがもたらした変化
ーーこれまでのインタビューなどを拝見していると、リル・ピープやポスト・マローンっぽいと評されていることも少ないのかなと思うのですが、私は逆にそことは全く逆のものを感じていて。それは多分KMさんが気にしてるようなJ-ROCKっぽさだったり、(sic)boyさんのバックグラウンドにあるL’Arc〜en〜Cielらの影響だったり、そういうところに魅力があるのかなって思うんです。良くも悪くも日本の音楽シーンって、ジャンルにはめたがる傾向にあるから。
(sic)boy:確かに。今おっしゃっていただいたとおり、エモラップっていうジャンルにはめたがる人もいれば、逆にオリジナリティを感じてくれる人もいて。バラバラですけど、たまに日本ならではの感じだねと言ってくれる人もいます。
ーーこれは個人的な意見ですけど、それってもったいないなと思っていて。エモラップだけで終わらせるとか、トラップとロックの融合で終わらせるとか、ジャンルに当てはめて満足してしまうというか…。その辺り、(sic)boyさんはどう考えています?
(sic)boy:でもあまり僕自身は気にしてないかもしれないです。(ジャンルにはめられて)もったいないなと思うこともありますけど。
ーー2020年は特に転機になった年だと思いますが、軽音部でバンドを組んでから今に至るまで、アーティスト・(sic)boyとして転機になったと思う瞬間はありますか?
(sic)boy:一番転機になったのは、やっぱりKMさんとの出会いですかね。それまでと180度変わったなって思います。音楽的に表現の幅が狭められてしまうような部分を、KMさんは広げてくれるというか。今までネットに上げてた曲は全部タイプビートだったんですけど、KMさんはオーダーメイドでビートを提供してくれるので、すごい勉強になります。
ーー特に『CHAOS TAPE』を聞いてると、メロディラインの作り方やコーラスの重ね方にもこだわりを感じました。
(sic)boy:コーラスはかなり力を入れていますね。声を重ね過ぎていると言われることもあるんですけど、複数ボーカルが鳴ってるのが個人的に好きなんで。だからそこに注目してもらえるのはすごくうれしいですね。
ーーこれまでに色々なラッパーとも共演されてますけど、「Heaven’s Drive」で一緒にやったvividboooyさんとか、「Pink Vomit」でのLEXさんとか、そういう同世代、もしくは年下の日本のラッパーから何か刺激をもらうことってありますか。
(sic)boy:彼らの制作スタイルだったり、音楽に対する打ち込み方は見習いたいとは思ってます。最初は僕よりも年下だからとか思っていたんですよ、若いし、みたいな。でもそんなことは関係なくて。あと小節の使い方だったり、バースの展開の仕方だったりは自分にはない視点で攻めてくるので勉強になりますね。何より、単純に彼らのファンでもあるので。
ーー「Set me free」で共演したJUBEEさんはどうでした?
(sic)boy:結構スムーズに作れたイメージはあります。元の毛色っていうんですかね、ロックの感じもあったんで、そこはお互い気にせずに作れたなと思います。
ーー大ヒットした「Heaven’s Drive」についても伺いたいのですが、そもそもどういうきっかけで作られた曲なのでしょうか。
(sic)boy:2年前ぐらいにEBISU BATICAで『トップボーイ』ってイベントがあったんです。僕、vividboooy、Taeyoung Boy(現:TAEYO)、gummyboyが出てて、そのイベントで初めてvividboooyくんに会ったんです。みんなライブがすげえカッコよくて。そのときに「一緒に作ろうよ」って話したのがきっかけですね。そこから僕がデモを送って、何回かキャッチボールしてサウンドを作っていった感じです。
ーー最初に送ったデモのトラックの原型はKMさんが作ったもの?
(sic)boy:KMさんでしたね。
ーーそのときからギターリフも入っていたんですか?
(sic)boy:入ってました。KMさんがラフに打ち込んだものだったと思います。でも早い段階で生のギター音に変わってました。
ーーリリックを書くテーマやタイトルはvividboooyさんとどんなふうに決めていったんですか?
(sic)boy:最初に軽く電話したときがあって、そのときに決めました。コロナだったり、色々とうまくいかないことに対する不安を、現実逃避じゃないですけどそういう世界観でお互いに書いてみよう、みたいな話はしました。
ーー「Heaven’s Drive」が広まって、何となく自分の名前や曲が徐々に知れわたっているなと感じた瞬間はありますか?
(sic)boy:数字的なものになっちゃいますけど、Spotifyだったり各ストリーミングサービスでの再生回数とかはやっぱり見ててうれしいです。やりがいって言うんですかね……純粋に頑張ったなとは感じます。
ーー普段、リリックはどのようにして書いていますか?
(sic)boy:移動中だったり家にいるときにiPhoneにメモする癖がついていて。ビートを決めてから書くことは少ないですね。1週間ぐらい考えて、徐々に自分が言いたいことが分かってきたらまとめる作業をして……という感じで書いてます。
ーー(sic)boyさんの歌詞ってすごく異次元的、何か世紀末の東京を見ているような感じがするんですけど、歌詞を書くとき一貫したテーマみたいなものはある?
(sic)boy:リアル過ぎても非日常過ぎてもあんまり好きじゃなくて。その両方を混ぜながらっていう感覚はずっとありますね。
ーー例えばOnly Uさんと一緒にやってる「Kill this」も現代ならではのトピックというか。ソーシャルメディアに疲れたり、何か嫌なことがあったときの気持ちをそのまま歌にしてるのかなとも思ったんですけど。(sic)boyさんにとって歌詞を書いたり、歌として表現することってどういう意味を持つのかなと思って。
(sic)boy:確かに結構考え込んじゃうことは多かったりします。歌詞を書いてるとメンタル的につらくなることもあるし。
ーー自分が書いた歌詞の世界観に引きずり込まれちゃう。
(sic)boy:だから共感を求めてるわけではないですね。おまえもこうなんだろうとか、病んでるよねとか、そういうメッセージ性ではなくて。僕もそのうちの一人だし。「Kill this」はあの時期を思い出してみると、確かに悩んでいたな、と。
ーー(sic)boyさんがこういうことを歌ってくれるから気持ちが楽になった若いリスナーもたくさんいると思います。そういうメッセージももらいますか?
(sic)boy:そうですね。特に「Heaven’s Drive」以降知ってくださる方も増えて。ライブとかでも声掛けてもらったりするとうれしいですね。