鬼頭明里、花澤香菜、早見沙織、上田麗奈……『鬼滅の刃』ブームで飛躍した女性声優たち 『無限列車編』以降の1年を振り返る
2019年のテレビアニメ放映から人気に火が付き、続編として昨年10月に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は観客動員数2800万人、興行収入も400億円を突破。日本歴代興行収入、さらに2020年の年間興行収入でも世界第1位を獲得し、昨年末に原作コミックスの最終巻が発売されると全23巻の累計発行部数は驚異の1億5000万部を突破と、今や『鬼滅の刃』ブームの勢いは止まるところを知らない。
今秋スタートするTVアニメ2期『「鬼滅の刃」遊郭編』(フジテレビ系)に先立ち、9月にはアニメ1期の特別編集版が5日間にわたり一挙放送され、9月25日には『無限列車編』が全編ノーカットでテレビ初放送される。この機会に……とチェックし、一気に作品の世界観に惹き込まれた視聴者も多く、さらにムーブメントが拡大するのは確実だろう。
もはや社会現象と化した“鬼滅ブーム”が、出演している声優陣にも大きな影響を与えたのは当然のこと。そのうち本稿では鬼頭明里、花澤香菜、早見沙織、上田麗奈と4人の女性声優にスポットを当て、『無限列車編』公開からこの1年の飛躍をアーティストとしての活動も踏まえつつ振り返ってみたい。
言わずと知れたヒロイン・竈門禰豆子を演じた鬼頭明里は、この1年で最も注目を集めた女性声優と言えるだろう。『しゃべくり007』や『ザ!世界仰天ニュース』(共に日本テレビ系)、『10万円でできるかな』(テレビ朝日系)といったバラエティ番組への出演でお茶の間の認知を高める一方、昨年秋には東名阪を回る初のライブツアーを開催。2019年のソロデビューから温めていた夢を遂に果たした。
「コンプレックスだった」と公言する地声の低さも、逆に“可愛いだけではない”キャラクターを演じるには奏功。例えば、ダブル主役に抜擢されて今春から放映中のアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオンZ』(テレビ東京系)では、自らの夢と父との絆の狭間で“闇落ち”する少年・碓氷アブトを好演している。そもそも禰豆子自体、鬼になったがゆえにほとんど人間の言葉が話せないという特異なキャラクター。ほぼ唸り声だけで感情を表現する芝居が、いかに表現力を必要とするか想像に難くない。
そんな一種“異色”な声質と技能は、彼女のアーティストとしての音楽性までも広げ、今年8月発売の1stミニアルバム『Kaleidoscope』では全く異なるタイプの5曲に挑戦。ストリングス、シンセ、ピアノ、ギター、ブラスと曲ごとに異なる楽器をフィーチャーし、まさに“万華鏡”というタイトル通りの色とりどりな世界を創り出した。
中でもリード曲の「No Continue」は、バトルアニメ『出会って5秒でバトル』(TOKYO MXほか)のOP主題歌ということもあり豪壮なヘヴィロックに。配信限定で英語バージョンもリリースされたが、これは昨年発表された「Tiny Light」(アニメ『地縛少年花子くん』エンディングテーマ)がSpotifyで600万回以上再生されるなど、海外人気の高さを受けてのものだったという。これもまた、『鬼滅の刃』の世界的ブームが、鬼頭明里というアーティストの才能を、国境を越えて知らしめた一例と言えるだろう。
“国境を越える”という意味では花澤香菜も外せない。代表曲の「恋愛サーキュレーション」がTikTokでバズったことをきっかけに、早くから中国で人気が爆発。ライブの開催やテレビ出演に加え、今年1月には香港の洗剤『arFUM』のCMに登場するなど、完全に中国でも知られた存在となっている。
もともと子役として活動していた経歴に加え、“鬼滅ブーム”もあってかこの1年でテレビ番組への露出も急増。『サンデー・ジャポン』(TBS系)、『激レアさんを連れてきた。』(テレビ朝日系)などに出演し、6月には『さんまのまんま初夏SP』で明石家さんまと22年ぶりの再会も果たした。
アーティストデビューから10年目を迎える今年、レーベル移籍を発表したのも大きなトピックだ。その際のコメントには「積極的に末永く音楽をお届けしていきたいという、前向きな理由」という頼もしい言葉もあり、9月発売の移籍第1弾シングルの表題曲「Moonlight Magic」はドラマ『お耳に合いましたら。』(テレビ東京系)のオープニングテーマに起用。実写ドラマの主題歌を担当するのは初で、中国語バージョンが収録されたインターナショナル盤も同時発売と、活躍の場を着実に広げている。
砂糖菓子のように甘く、綿のように柔らかいウィスパーボイスを活かし、『鬼滅の刃』の作品世界で、恋柱・甘露寺蜜璃として甘やかな存在感を示している花澤。取材で相対してみてもふんわりとした癒しのオーラはイメージ通りだが、その奥底には当人も気づかぬ無意識レベルにまで根付いた芯の強さも感じられる。まさに外柔内剛の構えで、今後の声優アーティスト界を引っ張っていってくれそうだ。