鬼頭明里、花澤香菜、早見沙織、上田麗奈……『鬼滅の刃』ブームで飛躍した女性声優たち 『無限列車編』以降の1年を振り返る

 同じく柱の一員、蟲柱の胡蝶しのぶを演じる早見沙織は、シンガーとして花澤以上に長いキャリアを持つ。2009年に吉田仁美とのユニット・blue dropsとしてデビューし(早見はアニメ『そらのおとしもの』で演じたイカロス名義で活動)、2015年にソロデビュー。多くの曲で自ら作詞・作曲も手掛け、昨年9月にリリースされたミニアルバム『GARDEN』でもシティポップにボサノヴァ、フュージョンなど、スタイリッシュなサウンドスケープを映してみせた。

 涼やかで熟したボーカルは声優アーティストの枠内には収まりきらないもので、アニソン界の夏の祭典『Animelo Summer Live』にもデビュー以来ほぼ毎年出演。今年に至っては、凛として時雨のTK作曲による未発表の新曲「Awake」を突然披露して、オーディエンスの度肝を抜いた。静かに始まり、ハイトーンで無限に盛り上がるミディアムバラードは、圧倒的歌唱力を持つ彼女でなければ歌いこなせないもの。静寂と衝動、冷たさと熱さが交錯する楽曲に、早見自身が「深い闇の中でもいつか必ず光は差してくれる」という強い意志を持って詞を付けた本作の詳細は後日発表とのことなので、続報を待とう。

 しなやかで凛とした歌声は、彼女が担当するキャラクターにも通じ、淑やかにして名実ともに毒を放つ胡蝶しのぶもまた頭脳明晰なキレ者。古典のアニメ化ということで話題を呼び、来年オンエアされる『平家物語』(フジテレビ系)の平徳子役といい、今後も“訳アリ”な女性たちの波乱万丈な人生劇を描き出してほしい。

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 さらに、『鬼滅の刃』にて胡蝶しのぶの継子である栗花落カナヲを演じた上田麗奈は、今年3月に発表された『声優アワード』で鬼頭と共に助演女優賞を受賞。6月に劇場公開された『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』や、10月に放送開始となる『世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する』(TOKYO MXほか)ではヒロインを務めるなど、声優として確かなランクアップを果たしている。

 シンガーとしても2016年にソロデビューし、今年3月にはコロナ禍で8カ月延期となっていた初ライブを開催。さらに8月に発表したアルバム『Nebula』ではドン底まで落ち込み、そして浮上してゆく心の流れを、自身の経験を元に一つの作品に昇華するという、実にアーティスティックな試みを為している。TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDの前衛的なサウンドで苦しみや怒りを、siraphやコトリンゴの楽曲で希望の光を表すエアリーな歌声は、リスナーの思考を優しく、そして鋭く刺激せずにはおかない。

 演技派声優という評判も、哲学的ニュアンス豊富な音楽作品の源にある、彼女自身の思索の深さゆえ。それぞれに悲しみを背負った鬼殺隊士を演じるに、これほどピッタリな人物もいないだろう。主人公・竈門炭治郎の同期隊士として、いかなる成長を栗花落カナヲが画面の中で果たしてゆくか? それもまた彼女の手腕にかかっている。

上田麗奈「anemone」MUSIC VIDEO

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