現役ボイストレーナーが語る、“ボイトレ需要”の変化 プロから見た歌のうまさの条件とは?
“歌のうまさ”を競う歌唱番組や、オーディション番組、歌唱動画は年々増えている。採点マシンの発達により、細かな音程の違いや揺らぎなども視覚化されるようになり、視聴者が歌のうまさを直感的に捉えられるようになってきている昨今、本当に「うまい歌」「良い歌」はどういった基準のうえに成り立っているのか。ボイストレーナーとして音楽スクール 株式会社ウイングスミュージック代表取締役社長を務め、音楽プロデューサー、作詞・作曲・編曲家として音楽レーベル事業も営むMinnie P.に、“歌”を学びに来る人々のトレンドや、コロナ禍の影響で歌に対する意欲はどのように変化をしているのかを聞いた。(編集部)
歌い上げる楽曲、アーティストのトレンドがボイトレを始めるきっかけにも
ーーまず、Minnie P.さんの運営されている音楽スクール『Wings Music School(ウイングスミュージックスクール)』についてお聞きします。スクールが発足したのは何年でしょうか。
Minnie P.:現在の代官山校を開設したのは1995年ですが、その前身も含めると1990年ごろからになります。
ーー現在、多くの生徒さんがレッスンを受講していると思いますが、どういったきっかけで、何を期待して入校されることが多いですか。
Minnie P.:以前にYouTuberのヒカルさんが企画でボイストレーニング(以下、ボイトレ)にいらっしゃったんです。3時間のレッスンでデビューしたいとおっしゃって。その動画を見た方々を中心にとても反響がありました。あとは、私の著書(『声を磨けば、人生が変わる―自分に自信が持てる!ボイトレ―』/2018年)を読んで来てくださったという方も多いですね。そういった土壌があったうえで、ボイトレが面白そう、楽しそうっていうムードが広がったのもありますし、歌ではなく、話している時の自分の声がちょっと気になっているという方も多くいらっしゃって、だんだんと生徒さんが集まってくださったように感じます。
ーー最近はOfficial髭男dismなど、歌い上げる楽曲・アーティストが増えている印象がありますが、その流れもボイトレを始めるきっかけに影響はあるのでしょうか。
Minnie P.:あると思います。課題曲としてもヒゲダンさんの曲は人気で、「Pretender」、「I LOVE...」を選ぶ方も多いです。最近、なぜか男性アーティストの曲のキーが高くなっていて。女性アーティストはほぼ変わっていないのですが、もともとB'zとかを聴いてきた人たちが高い声を出そうとして、それを聴いた次の世代がもっと高い声……という流れなのかもしれません。あとレッスンで人気なのは、私が好きなのもありますけど、藤井風さんとか。
ーー藤井風さんの楽曲は難しい印象があります。
Minnie P.:そうなんですよ。ただ、今の若い方は、“難しい”っていう概念があまりないようで。例えば、私は「パプリカ」(Foorin/米津玄師作詞・作曲)は音程を取るのがすごく難しいなと思うんですが……今の方はそのまま受け止めるというか。まず曲を聴いて、何回も歌って、音だけ覚えて、その後で歌詞を見ると入っていくんですよ、と言われて。
ーーなるほど、覚え方がシンプルですね。
Minnie P.:若い方に限らず、あまり音楽に対して理論的なことを知らない人の方が、割と難しい歌をスッと歌えたりするんです。ただ、間違って覚えた場合に直りが遅い。逆にその辺りを知っている人は、楽曲に対しての先入観もありますけど、間違ったときはすぐ直せます。なのでお互いの良い点をとりながらレッスンをしています。
ーー生徒さんによって、音楽に関する知識や関心もさまざまだと思いますが、みなさんボイトレを経て、どのような手応えを得られていますか。
Minnie P.:まず、声が出るようになって、歌えなかった音域の曲が思うように歌えるようになったという方は多いです。ボイトレをした当日に変わるんですよね。それによって自信がついて、人前に出て話すことに不安がなくなるという方もいらっしゃいます。また、声の質自体が良くなるので、思いきり言いたいことが全部言えて良いプレゼンができたなど、ビジネスシーンでも役に立っているようです。スポーツインストラクターやアナウンサーといった声を使う職業の方もいらっしゃいますが、30歳を過ぎるとちょっと声が出にくくなることがあるんですね。そういった場合、声の使いすぎと、使い方の影響で喉に負担がかかってしまっていることが多いんですけど、ボイトレの結果今まで以上に声が出るようになったというお話を聞きます。中には、人生が楽しくなったとか、嫌なことがあっても歌えば大丈夫になり、人生が好転した人もたくさんいらっしゃいます。自信がつくことによって、明るく、前向きに行動ができることが大きいと思います。
コロナ禍の影響により、ボイトレに求められるニーズに変化も
ーー先ほど、ビジネスシーンでのプレゼン事例のお話もありましたが、この1年あまりコロナ禍の影響でオンラインで会議に出席する機会も増えているかと思います。ボイトレの側面から、コロナ禍の影響をどのように感じていますか?
Minnie P.:そうですね。コロナ禍によって人と会う機会、しゃべる機会、歌う機会が少なくなっているので、声が出づらくなったとよく聞きます。しゃべらないので顔が老けてきたという話も……。オンライン会議は、ずっとモニターを見て正面を向いているので、あまり表情が動かなくなりますし、言いたいことがタイミングよく言えなかったり。生徒さんの中にもなるべく楽しくプレゼンしたい、話をしたいという方が増えていますね。
ーー常にマスクをしているので、口を動かす機会も減ってきているように感じます。
Minnie P.:日頃から口を動かしていないと、筋肉が落ちるんですよね。ボイトレでは、歯と歯の間をあけて動かすことを基本としていますが、やはり口を開けて話すということを意識する時間は必要だと思います。皆さん、笑顔で話そうと思って口を横に開いて話すと思うんですが、本当は縦にも口を開けながら話した方がいいんです。横に開いたまま話してしまうと、喉だけに力が入ってしまうので。