Honda「VEZEL」CMソングでも脚光、藤井風の全方位の凄さ 規格外の才能がいよいよメインストリームへ
「もう全方位的にあらゆる意味で、神からのギフトが与えられまくっていて、俺すごく絶望するんですよ(笑)。まず、当たり前のように曲が素晴らしい、歌がめちゃくちゃ素晴らしい、それでピアノが話題沸騰になった人だから技術も超絶技巧で。で、顔がめちゃくちゃかっこいい……!」
「好きすぎて会いたくないし、会ったら絶望しそうで。フェスとかで一緒になるんですけど、会いたくないわ〜」
1年前にCreepy NutsのDJ松永がTBSラジオ『ACTION』にてこんなふうに語っていたが(※1)、同業者ならずとも同じことを感じている人は2021年6月現在さらに増えているのではないだろうか。「全方位」の凄さ、能力値のレーダーチャートを作ったら全ての項目が枠外に振り切れている感じにまず嫉妬し、絶望し、そして最終的に感服する。藤井風という存在の周りには、「ぐうの音が出ないくらい凄くて思わず笑ってしまう」というような空気が常に漂っている。
前述のDJ松永が触れていた際には「早耳の音楽ファンの間で話題」といった立ち位置だった藤井風だが、その規格外の才能がいよいよメインストリームに染み出してきそうなのが今のタイミングである。Spotifyでの「Early Noise」への選出や『関ジャム 完全燃SHOW』の恒例企画である年間ベスト楽曲ランキングにおいて選者3人全て(いしわたり淳治、蔦谷好位置、川谷絵音)がその楽曲をベスト10圏内にピックアップするなどアーリーアダプターの評価を十分に獲得した2020年を経て、先日リリースされた「きらり」はHonda「VEZEL」のCMソングにて使用されている。Suchmos「STAY TUNE」がこのブランドのCMを経て大きく飛躍していったことを考えると、藤井風にも同様の展開が待っていることを期待せざるを得ない。
いわゆる「お茶の間」に放り出されても問題ないスター性をすでに持っていると感じさせてくれたのが、先日のゴールデンウイークに行われた音楽フェス『VIVA LA ROCK』におけるJポップクラシックのカバー企画「VIVA LA J-ROCK ANTHEMS」でのパフォーマンスだった。この日彼が披露したのは1996年にリリースされた久保田利伸の「LA・LA・LA LOVE SONG」。フォーマルな衣装でピアノを弾きながら、そして曲中でハンドマイクに持ち替えて届けられたそのまろやかな歌声はまさに「息が止まるくらいの 甘いくちづけ」とも形容したくなるもので、ピアノというキーワードも相まって同曲が主題歌になっていたドラマ『ロングバケーション』の主人公、瀬名秀俊の佇まいを彷彿とさせた。言うまでもなく、瀬名を演じていたのは木村拓哉。1972年生まれの木村は当時24歳になる年で、1997年生まれの藤井風の今の年齢とほぼ同じである。
「ロンバケのキムタク」と言えば木村拓哉がまさに「時代を飲み込み始めた時期」でもあったわけで、さすがにそれと今の藤井風を比べるのは大げさな話かもしれない。ただ、あの日のステージはDJ松永が言うところの「全方位的な神様のギフト」を感じさせてくれるものだったし、加えて久保田利伸があの曲を含む彼のキャリアで体現してきた「黒人音楽的エッセンスとある種の歌謡性の融合」を受け継いでいるかのような歌いまわしも含めて「時代が動こうとしているムード」があったと確信している。