AI&三浦大知、歩み寄ることで築くニュースタンダード ダンスのポテンシャルが存分に発揮された刺激的なコラボ
刻一刻と状況が変化するこのコロナ禍。昨日まで是とされていたことが、今日になって非となることも少なくない。私たちは常にその時その時の状況に応じた最善の選択をし、自分自身がどう行動すべきかを考え続けなければいけない。私たちは今、はっきり言って非常に難しい時代に生きている。そんななか、8月13日にAIが新曲「IN THE MIDDLE feat.三浦大知」を配信リリースした。
ロサンゼルスで生まれ鹿児島にて育ったAIは、ゴスペルやヒップホップ〜R&Bをルーツに持ちながらもJ-POPのフィールドで活動し、多くのヒット曲を生み出してきた。なかでも彼女のキャリアにおいて重要な意味を持っているのは、コラボレートワーク。安室奈美恵やEXILE ATUSHIをはじめ、ZEEBRA、加藤ミリヤ、AK-69、Awich、¥ellow Bucksなど、一部を挙げただけでも幅広いコラボレーションを果たしてきた歴史がある。その枠は日本国内だけに留まらず、クリス・ブラウン、スヌープ・ドッグ、チャカ・カーン、The Jacksonsなど、国境を越えた数々のレジェンドアーティストとも多数コラボレーションしている。ルーツであるブラックミュージックが様々なカルチャーと結びつきながら裾野を広げ、ポップミュージックにおける存在感を強めてきたように、AI自身もジャンルを問わず、マインドで共鳴したアーティストと手を取り合い、魅力的な楽曲を数多く生み出してきたのだ。互いをリスペクトしてコラボレーションするというのは、「相手がどんな人で、どんな家族がいて、どんな生い立ちで……とお互いのことが分かれば、仲良くなれる」(※1)というAI自身の信条にも通ずるものがあり、単なる“豪華な共演”以上の意味を持つことだと言えよう。
そんななか、今回コラボを果たした三浦大知は、ダンスボーカルグループ Folderのメンバーとしてデビューし、高度で先鋭的なダンスパフォーマンスと圧倒的な歌唱力を武器に、今や日本のダンスボーカルシーンのアイコン的存在となっている。そんな2人がコラボに至った経緯として、長年の友人であったこと以上に、AIが「歌って踊れるシンガー」であることが見逃せない。
マイケル・ジャクソンから多大な影響を受け、ロサンゼルスのアートスクールでダンスを専攻していたAI。ライブでは歌だけでなく、ダンスでもオーディエンスを魅了してきた。公開された「IN THE MIDDLE feat.三浦大知」のMVを見ても明らかだが、AIが三浦とほとんど同じ運動量で踊りながら歌っており、どちらも高いクオリティで作品に落とし込んでいることが窺える。1番からスムーズに流れていくゴスペル風コーラスパートのダンスは息もぴったりで、転調した2番ではクールなヒップホップダンスを自在に乗りこなす。そして圧巻なのは、2つにスプリットされていた画面が1つになり、AIと三浦が互いに向き合って踊る大サビのパート。振り付けにも携わっている三浦のスキルフルなダンスも見事だが、パワフルな歌唱がそのまま反映されたような、AIの大らかなダンスも素晴らしい。こうして“共に踊ること”を軸にコラボするのは、AIにとっても新鮮な経験だっただろうし、それによって互いのポテンシャルが最大限に発揮されているという点では、非常に意義深いコラボになっていると言えるだろう。
さて、この曲には「何を信用して良いかよく分からないこの時代にあって、私たちは真ん中にいたい」との想いが込められているという。タイトルの「IN THE MIDDLE」とは、「他人に左右されずに、世の中を広く中心から捉えて真実を見抜く目を持つ」というスタンスを意味している(※2)。見渡せば、偏った意見や根拠の薄い情報が蔓延るこの世の中において、周りに左右されずに自分の力で考えて行動することは重要な姿勢だ。AIと三浦大知の2人は、そんな時代における自らの生き方をこの曲で歌い提示する。
〈何が正しいとか/誰が間違ってるとか〉
〈何にも惑わされず〉
〈何度でも/そうやって生きてきた〉
序盤はピアノの演奏をバックに静寂を切り裂く2人のボーカルが美しい。力強さというよりはボリュームを抑えた歌声でピッチをキープし、聴き手に寄り添うように歌い始める。軽快なハンドクラップが鳴り始めるとリズムに躍動感が増し、同時に2人の語気も強まると、ただならぬ雰囲気が漂い始める。徐々にパワフルかつ野生的なドラミングと切れ味鋭いエレクトロニクスが登場。歌は基本ソロのバトンタッチと2人のハモりで進行する構成だが、〈We win We lose〉など部分的にユニゾンを見せるため、要所で空気がビシッと引き締まる感覚がある。その“緩急”に酔わされるのだ。サウンドプロデュースはUTA。AIとは「ハピネス」や「VOICE」でのタッグが印象的だった。「IN THE MIDDLE」ではそれぞれのソロパートと2人の同時歌唱、ダンスパートといった各段階を際立たせるために、激しさの中にも抑制の効いた音作りが見られる。そのため、単なるダンスミュージックともヒップホップともつかない唯一無二のサウンドスケープが広がっている。そうしたエッジの効いた目まぐるしい音世界のなかで、高いメロで感情を爆発させるように歌い上げるAIと、それを支えるようにして歌う三浦が、時に融和し、時に分離し、時に火花を散らすようにぶつかり合いながらマイクに息を吹き込む様子は見事と言わざるを得ない。とりわけ終盤で見せる大団円的なアプローチは圧巻で、ギターのバッキングがもたらす疾走感、電子音による近未来的なイメージ、それらに絡み合う2人の掛け合いは鳥肌モノだ。