なぜ“歌の上手さ”にスポットが当てられる? ネット発アーティスト、オーディション番組……近年の傾向を探る

なぜ“歌の上手さ”にスポットが当てられる?

 ランキング番組『本当のとこ教えてランキング』(TBS系)で「声楽家190人が選んだ、歌が上手い歌手ランキングのベスト50」や「歌がうまい現役男女歌手ベスト50大発表!」などが放送された他、教養バラエティ番組『教えてもらう前と後』(TBS系)でも「歌手じゃないのに!★衝撃の歌うまベスト10」など、「歌うま」にスポットを当てた番組が多く放送されている。この傾向の裏には、何があるのか。

歌が上手いというシンプルな基準が呼ぶ共感

 YouTubeなど動画サイトやSpotifyなどサブスクリプションの普及によって、以前よりも非常に多種多様な音楽を手軽に楽しむことができるようになった時代。自分だけのお気に入りを見つけ、それをSNSで他者と共有・拡散することでヒット曲が生まれるという、売り上げを競うのとは違った新たなヒットの法則も生まれた。しかし選択肢が増えた分、アーティストや曲の善し悪しを決める基準が煩雑になり、流行の曲でも刺さらない人には刺さらないし、「まさかこの曲が?」と思う意外な曲が流行することも増えた。そんな中で、より多くの人と「この曲いいよね」と共感し合える基準として求められているのが、純粋な「歌の上手さ」だろう。

 近年増えているのが、ネット上で音楽のみを発表し評価を得ているネット発アーティストや、様々な楽曲のカバー(歌ってみた)動画を発表する歌い手だ。両者とも素顔を晒さないことが多く、こと歌い手に関しては、人気曲をカバーすれば他の歌い手と比較されるリスクもあるが、純粋に歌の上手さや表現力を評価してもらえるとして投稿者が増えている。

 そうした純粋な歌の上手さという部分にスポットを当て、コンテンツ化して人気を得ているのがYouTubeの「THE FIRST TAKE」だ。一切の装飾を取り払ったシンプルなアレンジと、一発録りという緊張感みなぎる状況に追い込むことで、歌手の純粋な歌の上手さを浮き彫りにした。また、そのシンプルさゆえに、視聴者はメロディの良さとは別に、「歌が上手いかどうか」という一点のみで、気持ちを共有し語り合うことが可能になった。

 今年初頭には「THE FIRST TAKE STAGEオーディション」が開催され、視聴者はまるで審査員になったかのような気持ちで誰が勝つかを予想しながら、麗奈がグランプリに輝くまでを見守っただろう。視聴者が審査員の気持ちになれたのは、基準が「歌が上手いかどうか」という、明瞭かつシンプルなものだったからだ。

 その「歌の上手さ」をより明確に数値化することで、視聴者の共感を得ているのが、カラオケ採点マシーンを使用した『THEカラオケ★バトル』(テレビ東京系)などのカラオケ番組で、ここ1年はより人気を増している。点数や優勝者の予想が当たればちょっとした高揚感も味わえるほか、しゃくりやビブラートなど細かいテクニックが解説されたことも、歌の上手さやテクニックに視聴者の注目を向けさせた一因だろう。オーディション番組も同様だ。NiziUを生み出した昨年の『Nizi Project』の大ブームは記憶に新しく、JO1をデビューさせた『PRODUCE 101 JAPAN』、現在SKY-HI主催オーディション『THE FIRST』などが開催中で、視聴者はいち視聴者という立場を超えて、まるで審査員になった気持ちで審査の成り行きを予想しながら、バトルの行方を見守っている。

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