稲垣吾郎、草なぎ剛・香取慎吾と共に歩み続けられる理由 小説家 平野啓一郎との対話から導かれた感情とは
2020年から続く新型コロナウイルスによる世界的なパンデミック。私たちは日々、感染者数や失われた命の数を耳にしてきた。「今日は増えた」「今日は減った」……いつの間にか目の前にある数字だけを見て一喜一憂し、その数の先にあるものへ想像力が及んでいない自分にハッとさせられることが幾度もあった。
再び感染者数が増加傾向にある今、雑誌『週刊文春WOMAN』(2021年夏号)に掲載された稲垣吾郎の作家対談連載ページ『談話室稲垣 Goro’s Salon 小説の書き方教えてください』が心に沁みたので記したい。
Vol.9を数える2021年夏号では、ゲストに小説家の平野啓一郎が登場。稲垣と平野は、これまでも稲垣がMCを務めた読書バラエティ『ゴロウ・デラックス』(TBS系)やラジオ『THE TRAD』(TOKYO FM)などで、平野の著書や音楽をテーマに語り合ってきた仲だ。
今回の対談も、平野の最新作『本心』をもとに、親との関係、人間の「本心」、死生観について見つめていく。2040年代の日本を舞台に描かれた長篇『本心』。半年前に事故で母親を亡くした主人公・朔也は、仮想空間に生前の母にそっくりな「母」を作り出す。
物語の概要に触れた稲垣は、「僕も同じようにVF(バーチャル・フィギュア)を作ってもらうかもしれないなと思いました」と語る。稲垣も現在47歳、両親について「おそらく人生は後半戦に入っている。元気な今のうちにちゃんと向き合っておいた方がいいな、と」、そう続けた。
人は誰しも必ず「死」が訪れるもの。そんなことはわかっていても、別れの瞬間を考えることはなるべく先送りにしたい、そう考えるのではないか。死について考え、語るということは、どこか避けるべきものとして捉えられるが、突然やってくる「その瞬間」を後悔なく迎えるためのアプローチだと考えれば、それは決してネガティブなものではない。
「死」を考えることは、結果として「生」を見つめることになる。なんだか矛盾しているような気分になるが、そういうところが人間が人間たる部分なのかもしれない。稲垣は『本心』でバーチャル・フィギュアの「母」が、朔也との会話を通じて学んでいく様子に興味を示す。
「母」が本来の母親が言わなそうなことを言えば違和感を抱き、かといって朔也が自分の知る母親像を「母」にインプットしようとすればするほど、「母」がバーチャルな存在であることを浮き彫りにしていく皮肉を感じていく。
人間だからこそ矛盾するし、予想を超えた行動をする。「わかるよ」と言われたら、「わかりっこない」と言いたくなる気持ちは、生きている人間ならではの揺らぎだ。他者はもちろん、自分自身もわからない部分があるからこそ、人は魅力的で興味が尽きず、愛情を注ぎ続けられるのだと、盛り上がる。
「僕で言うと、例えば草なぎ(剛)くんや香取(慎吾)くんといった何十年も一緒にいるメンバーですら、わからないことがいっぱいあります。でも、だからこそ一緒にい続けられるのかもしれない」と稲垣。
たしかに、国民的アイドルとして親しまれてきた彼らのことを、私たちは十分知っているように感じられるが、新しい作品や活動を目の当たりにするたびに、「こんな一面があったのか」と驚かされる喜びに出会える。