SHE’S 井上竜馬、ソングライターとしての現在地 コロナ禍に得た自信や楽曲制作への向き合い方を語る

SHE'S井上竜馬の現在地

 6月26日に開催したワンマン初の日比谷野外音楽堂公演のアンコールで、5thアルバム『Amulet』の10月リリースと、バンド史上初の日本武道館公演を来年2月に開催することをアナウンスしたSHE’S。奇しくもバンド結成10周年、メジャーデビュー5周年にあたる今年。昨年はアルバム『Tragicomedy』収録曲の半数以上がCMやドラマタイアップを獲得し、これまで以上にリスナーの幅を広げてきた。だが、それは結果でしかなく、むしろこれまでで最もパーソナルな作品が、時世とシンクロした音楽の不思議と可能性を感じさせる出来事でもあった。

 すでに今年、配信シングル「追い風」「Spell On Me」「Take It Easy」をリリースし、ニューアルバムにつながるタームに突入しているSHE’S。今回はフロントマンでソングライターの井上竜馬に『Tragicomedy』以降のバンドを振り返ってもらいつつ、現在地を探ってみた。(石角友香)【インタビュー最後にオリジナル動画&プレゼント情報あり】

『Tragicomedy』はたった一人のために書いた作品だからこそ伝わった

SHE'S井上竜馬(写真=林直幸)

ーー改めてアルバム『Tragicomedy』とツアーを振り返ってみていかがですか?

井上竜馬(以下、井上):あのアルバム自体、手応えとしてもSHE’Sにとってもファンのみんなにとっても、結構大きな作品になったなと感じていて。だから、ニューアルバムのリリースを発表したけど、今回の制作は自分の中で一番滞ったし、作るのが難しかったです。それぐらい『Tragicomedy』は思い入れのある作品になりましたね。その後のツアーは、コロナ禍でキャパの半分以下の集客でやってたんですけど、本当は春に開催予定だったのが中止になって、もう一回組み直して回った時は胸にきたんですよね。単純に、「不要不急」と言われてできなかったライブ・音楽の存在がやっぱりすごく大事だと思えたのも大きかったし。あの曲たちはみんなに渡すために生まれてきた音楽だったから、それをちゃんと手渡しできたのも自分たちの経験としてすごくよかったし、無事やれて安心した部分もありましたね。

『Tragicomedy』

ーーSHE’Sのチームほど、リスケジュールなど、きめ細かく動いていたバンドはなかなかいなかったなと。

井上:半分意地でしたけどね。「絶対やったる」って。みんなの意地。10周年に向けて「気合入れていこか!」と言っている時だったので、SHE’S自身もギアが上がってたし、周りのスタッフたちもすごく推してくれていたから。環境も良かったんですよね、タイアップも取れたりとか。すごく広まっていく中だったから、これで失速してられへんな、っていう半ば意地みたいなものは絶対あったと思うし、それを雑にしないようにスタッフ含め、丁寧に動いてくれたので、実現できたツアーだったなと思います。

ーー『あつまれ どうぶつの森×Nintendo Switch Lite』 2020春のCMタイアップに「Letter」が決まったり、いろんな歯車が合ってきてましたからね。

井上:不思議な感覚でしたけどね。「Higher」がセンバツ(第92回センバツMBS公式テーマソング)に決まって、大会はなくなってしまったけど、自粛になったがゆえに『あつまれ どうぶつの森』が異常にバズったっていうのもあるから、その分「Letter」も広まって。絶妙な環境でしたけど。でもどっちにしても、「コロナだったから俺たちダメだった」って言いたくなかったから、出来る限り動いてましたね。

SHE’S – Higher【MV】(第92回センバツ MBS公式テーマソング)
SHE’S – Letter【MV】

ーーファン以外のリスナーにSHE’Sの音楽が聴こえてきた、然るべき時期だったんでしょうね。

井上:確かにすごかったな。ドラマ『ホームルーム』のオープニング主題歌で「Unforgive」も使われて、「Tragicomedy」も特別ドラマ(ドラマ24特別編『40万キロかなたの恋』)のエンディングになって。「One」もNHK Eテレ『メジャーセカンド』第2シリーズのエンディング。「Blowing in the Wind」は住宅情報館のCMソング。ほぼタイアップになってる。あのアルバムはおかしいくらいすごかったんですよね(笑)。

SHE'S井上竜馬(写真=林直幸)

ーーアルバムがリリースされてから決まったものもありますし。

井上:「Your Song」がサッポロビールの新CM「第97回箱根駅伝オリジナルCM」テーマソングとして年明けに使われたり。いろんなところでスタッフ陣も推してくれたし、自分たちの音楽がそれで広まって声をかけていただいたこともあったし。自信のあるアルバムだったから、それが結果に結びついて、さらに自信にもつながったという1年間でしたね。

SHE’S – Your Song 【MV】

ーーその時期に初めてSHE’Sを知ったという人も現実にいましたし。

井上:ありがたいことにそうですね。でもたまたまなので。時代を意識して書いたわけじゃなかったから。そもそもあのアルバム、不安っちゃ不安だったんですよね。去年のインタビューの時も話しましたけど(参考:SHE’S 井上竜馬が明かす、“心”と向き合い見出した答え 「愛する人を守るために使っていきたい」)。でも自分の持っていた概念が覆る体験をしたんですよね。たった一人のために書いた作品だからこそ、リスナーに伝わったというか。とにかく作りたいとか、伝えたい思いを思いっきり出そうと思って書いたら、不特定多数の人に一番届いた作品になったから、それがびっくりだったし、でも意外と音楽ってそういうものなのかなと。なんかハッとさせられた制作でしたね。今までの自分は気にしすぎやったんかな? とも思いましたし。

作曲するにあたってちゃんと理由が欲しかった

 

ーーそしてツアーをしつつ、新曲の制作も始まり。井上さんの中で次の曲を作るマインドに変化はありましたか?

井上:書き下ろし以外で日常的に「曲を書こう」という気にはなっていかなかったんですよね。燃え尽きじゃないけど、やり切ったって感覚の方が大きかったから。それに、コロナで人と会わなくなったことで、曲が書けなくなって。今まで人と話したり、人と触れ合って感じたことを歌にしてきてたから、それがなくなった途端に曲が書けなくなって、「まずいな」って焦りもありました。でも、書き下ろしの曲を書く機会があったから書けたというか、ちゃんと台本を見て、その世界があって、それと自分の経験とか価値観とか、そういうものと結び合わせて歌を作っていって、むしろ制作という日常に戻してくれた時間だったので、よかったですね。

ーーとにかく曲作りを生活の中に入れないと逆に怖いというミュージシャンの話も聞きました。

井上:僕はそういうモードにはならなかったですね。

ーー書きたいことが明快にならないと書けない?

井上:いや、書くことが溢れ出ないから書きたくなかったんです。どっちかというと、無理やり作って作りものみたいになってしまうことの方が嫌で。書こうと思えば書けるんですけど、やっぱり自分一人だと、何にもない日々だったから、今までのことを思い返したりすることぐらいしかなかったので。でもそういった思い返すということはこれまでにももうやってきたことだから、今やることじゃないなと思ったし。曲を書く理由がなかったんですよね。単純に。

ーーよしんばやったとして、そこに誠意とか愛情がない感じ?

井上:薄っぺらくなるのが嫌だったんですよ。トラックだけ作るとかは全然いいんですけど。歌として歌詞をつける時になんでもないようなものを作りたくなかったから、作曲するにあたってちゃんと理由が欲しかったんですよね。僕、作家じゃないし、バンドマンでコンポーザーなだけだから、流れ作業みたいに作曲するのは嫌なので。理由がないなら作らない、だから作らなかったです。

SHE'S井上竜馬(写真=林直幸)

ーー2021年に入ってからのタイアップはドラマ主題歌が続いて。お題があるせいかもしれないけど、「追い風」(ドラマ『青のSP(スクールポリス)‐嶋田隆平‐』主題歌)にしても「Spell On Me」(ドラマ『ラブコメの掟~こじらせ女子と年下男子~』EDテーマ)にしても非常に素直な感じで。

井上:そうですね。ただ、そもそも深読みするような表現はこれまでもしてきていないので、そこはあんまり変わってないかな。「Spell On Me」はそれにしても真っ直ぐですけど。ドラマの作品性もありつつ、より素直に書いたバラードではあったので、逆に新鮮ではありましたね。ラブソングでも片思いとか、テーマを設けて作ったことがなかったので。少し、恥じらいも感じながら歌詞を作っていましたね。

SHE’S – Spell On Me【MV】

ーー「追い風」はシンガロングであったり、エレクトロニックな音の使い方や服部(栞汰)さんのギターソロなど、SHE’Sのある種王道じゃないですか。そこまで思い切りいくのか、という感じもしました。

井上:ありがとうございます。初めてのゴールデン帯のドラマ主題歌だったから、代表作というか、一番広まるんだろうなと思いながら作ったので、SHE’Sの旨味、全部、闇鍋にしたれと思って(笑)、作ってましたね。絶対、イントロはピアノのリフからにしようとか色々考えてはいましたけど。ギターソロを入れようとか、最近のSHE’S的なトレンドのエレクトロは入れようとか、「SHE’Sってどんなバンド?」ということが1曲でわかるようなものにしたかったっていうのはありました。

SHE’S – 追い風【MV】(ドラマ「青のSP(スクールポリス)」主題歌)

ーー新しいことよりも素直にバンドの強みを出すべきだという感じ?

井上:どっちかというと今までやってきたことのアップデートに近かったのかもしれないですね。ピアノのイントロ、どういうのがイメージつくかな? とか。ポップソングよりはちょっとエモーショナルなコード使いとか、影から光に向かっていく、SHE’Sが今まで大事にしてきたそういう部分をちゃんと出そう、出した上でメロディでいいものが作れたらいいなと思って作ってました。

ーーそれによって、曲作りのスイッチが入ったってことでもないんですか?

井上:ああ、でも入りましたね。いっぱい書いたし。「追い風」にはならなかったけど、ドラマのために出した曲が他にも3曲ぐらいあったし、「Mirai」(シングル『追い風』収録)もCMのために書き下ろしましたし。で、アルバムの話をして。

SHE'S井上竜馬(写真=林直幸)

ーーアルバムの話も同時並行的に出てきたと。

井上:そうですね。サッポロビールのCMの時も書き下ろしで曲を書いていたので。結局使われたのは「Your Song」だったんですけど。去年8月ぐらいからは常にずっと曲は書いてたんじゃないかな。

ーーそうなった時に歌にしたいなと思うことって、どういうものでした? 2019年までと比べて。

井上:『Tragicomedy』のときは自然と生まれてきた曲に対してタイトルをつけたんですけど、それまでって、アルバムのテーマやタイトルありきで曲を作っていったので、「テーマどうしよう」と思って。それ以降で見えてきた問題を取り扱ったアルバムを作ろうと思ったんですよね。“プロブレムズ”というアルバムにして、次は自分の中の問題や、世界の問題、社会的な問題をーー28、9歳になるし、そろそろ歌っていこうかなと思ってたんですけど、思ってた10倍ぐらい書き下ろしが多くて、「無理やな」と思ったので今回はやめたんです。

ーーああ、タイアップが増えて。でもテーマにするぐらい明確なものがあったんですね。

井上:ありましたね。露骨になってきましたよね。去年一年、特に。例えばネットのいじめでたくさんの人が亡くなったり。もともとあったものが顕になった感じですかね、どっちかというと。何かがきっかけで生まれた問題というよりは、もともとあったけど、見て見ぬふりをしていたものが社会的に見えてきたから。怒りもありましたね。音楽家が例えば政治のことについて言及するのはタブーみたいなのもデフォルトになっているし、そういうものにNOって言っていく時期でもあるんかなっていうのは思ったりしましたね。

 海外のアーティストが好きで、洋楽を聴いて育ってきたから、海外のアーティストを見てても、ちゃんとしてるなと思うことも多くて。テイラー・スウィフトとかも若い時から自分の意見を発信してるし。それこそビリー・アイリッシュも若いのに昔から発信しているし。まだ10代とかですよね。別に僕、叩かれることに関して恐怖はないので、バンバン言っていこうかなと思ったり。まぁそうやっていろいろ思ったりしてたんですけど、収録曲を並べたときにちょっと整合性つかへんなと思ったので、テーマを変えて作った感じでしたね。

ーーいつかそのテーマの作品も聴きたいです。

井上:その分、そっちのテーマの曲のストックもたくさんできたので、そのタネを活かす機会を待ってる感じですかね。

ーー確かに「Take It Easy」まで書いたら、問題というテーマに戻すのは難しいかもしれない。

井上:無理ですね。ギリギリまで粘ったんですけど、それでこじつけて嘘をつくのは嫌やなと思って、やめましたね。それならいろんなシチュエーションで聴けて、いろんな気分の時にお守りになるようなアルバムになったらいいなと思って、『Amulet』にしたんです。

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる