『ジョンの魂』に刻まれたジョン・レノンの激しい叫び 半世紀を経て聞こえる、アーティストとしての根源

『ジョンの魂』に刻まれたジョン・レノンの激しい叫び 半世紀を経て聞こえる、アーティストとしての根源

 ポップス、ロックに限らず、どんなジャンルの音楽であれ、これほど一人の人間が自身の心を切り裂き、生血が流れ出す光景を歌いきった作品はないし、おそらく今後も出ることはないのではないか。ジョン・レノンの1stソロアルバム『ジョンの魂』。

 The Beatlesとして数々の歴史的な名曲を発表し最高の人気を誇ったが、バンドは1970年に解散、ほぼ同時期から始めていたソロ活動の出発点として同年12月にリリースされたのが『ジョンの魂』だが、コロナ禍のせいだろうか、やや遅れたものの今回リリース50周年記念としてオリジナル盤のリミックス、リマスターを中心にマルチフォーマットで発売される。「とにかくジョンの声を明瞭に聞かせること」と、総指揮のオノ・ヨーコによる厳命のもとで作られた新装盤は、確かにこれまで以上にジョンの歌声をみずみずしく響かせ感動的だ。

 リンゴ・スターのドラムス、クラウス・フォアマンのベース、そしてジョンのギター/ピアノだけがサウンドのほとんどという極めて音数の少ない作品だけに、ボーカルの生々しいリアルな感情が間近に迫ってきて、この特別なアルバムをさらに大きなインパクトを持つものにしている。

LOOK AT ME. (Ultimate Mix, 2021) – John Lennon/Plastic Ono Band (4K Official Music Video)

 リバプールでの下積み時代から共にしてきたもっとも信頼するマネージャーの死によって混乱し始めたビジネス面や、ヨーコとの出会いを大きなきっかけに新しいアートワークや平和運動へと進みだしたジョンにとって、The Beatles解散は容易に受け入れられるステップでもあったが、そんな頃に出会ったのがアメリカの精神科医アーサー・ヤノフが提唱する「原初療法(Primal Therapy)」だった。幼少時のトラウマなどが成人後も神経症に影響を与えることから、原初的苦痛を再体験するというこの治療を受ける。幼い頃、父親の蒸発、両親の離婚、別の男と暮らす母親から離され伯母夫婦に育てられながらも10代でその母親を交通事故で亡くすなど、様々なつらい思いを経験したジョンにとって、それは特別な治療であった。

 その影響をもっともストレートに反映したのが『ジョンの魂』の1曲目「マザー」だ。最後には〈母さん、行かないで/父さん、帰ってきて〉と繰り返される激しい叫びは、エンターテインメントの枠を大きく蹴破り迫ってくるもので、オリジナルのアルバムタイトル『John Lennon/Plastic Ono Band』を『ジョンの魂』と名邦題にしたことに誰もが納得いくだろう。

ISOLATION. (Raw Studio Mix) – John Lennon/Plastic Ono Band (5K Official Music Video)

 さらに「悟り(I Found Out)」「孤独(Isolation)」「ぼくを見て(Look At Me)」といった内省的な切ない曲が多く並ぶが、それは世界をリードしていた人気アーティストの内面の赤裸々な姿であり、余計な虚飾、装飾を履いだむき出しの姿にファンたちはたじろいだ。だが、とどめを刺したのが「ゴッド(God)」で、「神なんて苦痛の度合いをはかる観念にすぎない」として、キリストもブッダもエルヴィス・プレスリーもボブ・ディランも、そして最後にはThe Beatlesも信じず、自身とヨーコだけを信じると宣言したのだった。

 そして「ゴッド」の最後で歌われる〈The dream is over〉という言葉ーーThe Beatleというものすら終わったんだ、次の道に進んでいるんだというジョンだからこそ言えた言葉でもあった。

 しかし、『ジョンの魂』にはこうした厳しさだけでなく、多彩な側面もある。例えば「ラヴ」のような極限的にシンプルな言葉で綴られた美しい曲だ。 ヨーコを通じて日本のさまざまな伝統文化への興味を広げたジョンが、もっとも興味を持ったのが俳句であり、「ラヴ」はその影響を強く感じられるもので、ごくごく簡単な単語を並べただけだが、だからこそイマジネーションの広がりが豊かで、普遍的な美しさに磨きがかかっている。

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