秋山黄色、『Mステ』「アイデンティティ」パフォーマンスで見せた“ライブアーティスト”としての説得力

秋山黄色、ライブアーティストとしての説得力

 マイクスタンドを倒し、抱え上げたギターを大きく振り下ろした歌い終わりの姿がとても鮮烈だった。テレビの音楽番組ではあまり聴かれることのない、マイクが床にぶつかる「ゴツン」という音も印象的だった。

 3月26日、秋山黄色は『ミュージックステーション』(テレビ朝日系、以下Mステ)に初出演した。披露したのは2ndアルバム『FIZZY POP SYNDROME』収録の「アイデンティティ」。出演に当たって、番組の公式サイトやSNSでは「ネクストブレーク必至のアーティスト」「注目のシンガーソングライター」として秋山黄色を紹介していた。

 音楽シーンの潮流の変化を受け、特に今年に入ってから『Mステ』は意欲的にニューカマーを出演陣のラインナップにセレクトしている。アイドルグループやベテランのアーティストだけでなく、TikTokやYouTubeで話題となりストリーミングサービスのランキングを駆け上がった気鋭のシンガーソングライターやユニットが初登場を果たすことが多くなっている。

 秋山黄色も、言ってしまえば、動画サイトから注目を集めデビューに至ったアーティストではある。「ネクストブレーク必至」というキャッチコピーで初めて彼を知った人には、そういう“ネット発”的なイメージを持っていた人もいたかもしれない。

 が、パフォーマンスの“絵”を見れば一目瞭然だった。彼が表現しているもののど真ん中にあるのはロックバンドの衝動と熱量だ。ドラム、ベース、ギター3人のサポートメンバーをバックに、ライブハウスのステージのような演出。そうしたスタイルだけでなく、秋山黄色の佇まいそのものが、ライブアーティストとしての説得力を持っていた。

 秋山黄色は今、6月まで続く全国ツアー『一鬼一遊TOUR Lv.2』の真っ最中である。本来なら昨年3月のメジャーデビュー後に初のツアーが予定されていたが、新型コロナウイルスの影響で全ての公演は中止になってしまった。彼にとってはこのツアーが2019年9月にTSUTAYA O-Crestで行われた初ワンマン以来の有観客のワンマンライブとなる。少しずつキャパの大きなハコに立ち熱狂の輪が広がっていくのを実感するライブアーティストのブレイクストーリーを体感するはずだった2020年の機会は失われてしまったが、それでも、彼にとっては、コロナ禍の中で実際に観客を目の前にライブを行い、興奮をその場で分かち合う体験の喜びを感じている最中なのだろう。そういうことも感じさせるパフォーマンスだった。

 そして、もう一つ印象的だったのは、全般にパワフルでアグレッシブな曲調の「アイデンティティ」の中で、ふっと浮き上がるような虚無感を醸し出す中盤の〈歩く死人に 歩く死人に〉と歌う箇所。『Mステ』出演時にはそこだけモノクロに映像加工され、数秒の違和感を残すような画面設計になっていた。

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