秋山黄色、泣き虫、Maica_n……ロックの系譜に連なる歌の力 気鋭ソロアーティスト3組に注目
新しいプラットフォームが生まれると、それをきっかけに新しい才能が頭角を現すようになる。最近では、宅録技術が進歩し、楽曲を発表できる環境が多様化したことにより、ソロアーティストの勢いが増してきた印象だ。年始に放送された『関ジャム 完全燃SHOW』(1月19日放送回)で音楽プロデューサー・蔦谷好位置が、長谷川白紙や君島大空、諭吉佳作/men、崎山蒼志の名前を挙げながら「若い才能がどんどん出てきている!」「何十年に一度出るレベルの人がゴロゴロいる!」と興奮気味に語っていたことも記憶に新しい。
ソロと言えば、R&B/ヒップホップがバックグラウンドにあるアーティストが多いイメージがあるが、一方で、ロック/オルタナ要素の強いアーティストも次々と出てきている。
例えば、今年3月にメジャーデビューした秋山黄色がそうだ。メジャーデビュー作にあたる1stフルアルバム『From DROPOUT』はバラエティ豊かな内容となっており、表現者としての引き出しの多さが窺える。一方、収録曲を聴くと、そのベースにあるのが、エレキギター・エレキベース・ドラムによるロックサウンドであることがよく分かる。地声を張り上げるタイプのボーカルは、そのようなサウンドと非常に相性が良い。
また、『CDTVスペシャル!卒業ソング音楽祭2020』(TBS系)におけるギターを激しく掻き鳴らしながらのパフォーマンスも話題を呼んだ。内なる衝動を溢れさせるような彼の姿は、直前の紹介VTRに登場した「専門学校中退」「引きこもり」というワードが喚起するインドアっぽいイメージを覆すものだった(参照:秋山黄色、『CDTVスペシャル!』出演でSNSトレンド入り 「モノローグ」生パフォーマンスが同世代に与えた衝撃)。
秋山黄色といえば、歌詞も独特だ。以下に引用したのは「やさぐれカイドー」の1番Bメロ。
〈This is beams/慢性退屈/蛆のソープランド/Black line on eye/ミス 財布 何もない分/うちのモンスター/育っていくんだよ…/He 神父 完全トラップ/後ろ向けたらほんと良かったよ/いつからこここんなん建ってんの?〉
文章としての意味性は薄いように思えるが、音に乗ったときのリズムが気持ちよい。長音(ー)、促音(っ)、撥音(ん)、半濁音(「゜」のついた音)が効果的に使用されているためだ。字面を見ただけではそのすごさが分かりづらいと思うので、ぜひ実際に曲を聴いて体感してみてほしい。
秋山黄色のように、ヒップホップにおけるフロウとはまた別の言語感覚を持って、聴き心地の良い歌詞を書く人物は他にもいる。この観点から紹介したいのが、泣き虫の「大迷惑星。」という曲だ。低音域のしゃがれ声も彼ならではの個性だが、ここでは歌詞の話がしたい。この「大迷惑星。」では音の反復・押韻が多用されている。例えば、Aメロでは〈好き嫌い〉や〈また会お〉といった特定のワードが繰り返されている。〈見ない未来。期待しない。〉と、母音が同じ単語を羅列している箇所がある。〈夜な夜ナーナーにしたんだ。〉と、2つのワード(夜な夜な、ナーナーにする)を共通音で結合させている箇所がある。
さらに、好意に似た感情を「嫌い(大嫌い)」や「迷惑」といった言葉で表す意外性もリスナーを惹きつけているようだ。否定的な意味を持つ言葉を使用し、口から出た言葉と本心のチグハグさ、一人称の不器用さを表現しているところは、あいみょん「君はロックを聴かない」、槇原敬之「もう恋なんてしない」など歴代のヒット曲にも通じる。また、編曲を浅野尚志(でんぱ組.inc、カノエラナ、TEAM SHACHI、NICO Touches the Wallsらの制作に携わる人物)に依頼し、オーソドックスなアレンジに仕上げていることから、広く聴かれることを志向しているアーティストなのでは、と推測することができる。SNSで検索してみると、カバー動画も見受けられ、実際に楽曲が広まりつつあることがうかがえる。ここからの展開が気になるところだ。