Awesome City Club、きのこ帝国、フレンズ……映画『花束みたいな恋をした』彩る音楽 物語を動かす重要なカギに
1月29日公開の映画『花束みたいな恋をした』がヒット中だ。監督はドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』映画『罪の声』の土井裕泰、脚本はドラマ『最高の離婚』『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』の坂元裕二。先鋭的な作品を生み出し続ける両名がドラマ『カルテット』以来のタッグを組み、菅田将暉と有村架純を主演に迎えた話題作である。菅田将暉演じる山音麦、有村架純演じる八谷絹の2015年~2020年の恋模様を描いた王道の恋愛映画であると同時に、その時代の映画、小説、演劇、漫画、そして音楽といった大衆文化=ポップカルチャーが物語を動かす重要なカギとなっている。本稿では物語を彩る音楽を紹介していきたい。
麦と絹が出会った日、2人で入ったカラオケボックスで絹が歌ったのはきのこ帝国「クロノスタシス」だ。2014年にリリースされたアルバム『フェイクワールドワンダーランド』の収録曲であり、この前後にきのこ帝国に表出し始めたポップさとこれまでになかった横揺れのリズムが混ざりあったメロウな1曲。終わりたくない夢のような時間を〈時計の針が止まって見える現象〉になぞらえて歌った歌詞も、2人の関係の始まりを甘美に演出している。
麦と絹はともにこだわりの強いポップカルチャー好きであり、自分だけが知っている世界を強く愛し続けてきた人物として描かれる。2人は出会ったことで互いの持つ密かな喜びを共有し、気持ちが通じ合っていく。〈誰も知らない場所に行きたい/誰も知らない秘密を知りたい〉という言葉が紡がれる「クロノスタシス」の詞世界ともリンクし、日常に光が差し込むようなシーンに仕上がっている。
後半のカラオケのシーンではフレンズの「NIGHT TOWN」を麦と絹がデュエットで歌う場面もある。2017年のEP『プチタウン』に収録されたこの曲はもどかしい恋模様を小躍りしたくなる曲調で歌うフレンズの持ち味が凝縮されている。〈君の感覚を頂戴〉や〈同じ体温で眠りたいよ〉といった切なる願いが、おかもとえみとひろせひろせのツインボーカルで交わされるラブソング。この映画では甘い夢の場面ではなく、現実へと戻されていく場面においてわずかな温かさを演出している。この曲のロマンチックさを踏まえた上で、スクリーンでカラオケシーンに宿る切なさを堪能して欲しいと思う。また、フレンズはもう1曲とあるカットに登場しており、その場面との対比も心に残るはずだ。