ずっと真夜中でいいのに。予想を裏切り続ける“無邪気で強い姿勢” テレビ初パフォーマンス『SONGS』で見せた実体の片鱗
1月30日、NHK『SONGS』でずっと真夜中でいいのに。が初のテレビ出演で生演奏を披露した。
インターネット発のアーティストの活躍が目覚ましい昨今だが、その中でも大きな一角を担うずっと真夜中でいいのに。の動画の総再生回数はいまや3億回に達している。今まで投稿されてきた動画はすべてアニメーションMVで、SNSなどでも顔や姿をほとんど映さずに活動してきたずっと真夜中でいいのに。だが、今回初めて、テレビでその実体の片鱗を明かした形だ。
ずっと真夜中でいいのに。(通称、ずとまよ)の作詞・作曲・ボーカルを務めるフロントマンのACAね。顔出しをせず、半ば架空の人物のような存在だった彼女が薄暗いセットの真ん中に立っているのを見た時、ぞわりとした。この人が本当に実在するのだということを実感して。
コードが垂れ下がっていたり、木材のようなものが無造作に置かれていたり、雑然とした倉庫のような雰囲気で作られた歌のセットで1曲目に披露したのは、デビュー曲「秒針を噛む」。2018年6月、突如としてYouTube上にて公開されて一気に注目を集め、今や8100万回再生を突破した、ずとまよの代表曲だ。アップテンポなメロディにさまざまな音がめまぐるしく鳴る中を、繊細な、けれど凛としたACAねの歌声が切り裂いてく。バンドメンバーの真ん中でACAねがギターを弾き、歌うシルエットに、これがずとまよなのだ、と改めて思い知った気持ちになる。
今回の番組では、ずっと真夜中でいいのに。について、各方面のクリエイターからのコメントも寄せられている。
YouTuberグループ・Fischer’s-フィッシャーズ-のシルクロードはずとまよの魅力について、「曲とアニメーションで何度も楽しめること」を挙げる。アニメを見て1回、曲を改めて聴き直して2回、内容の考察で3回、と繰り返し聴きたくなるつくりになっていることが、爆発的な再生回数に繋がった一つの要因ではないかと分析する。
続いて川谷絵音。ゲスの極み乙女。やindigo la Endなど複数のバンドやプロジェクトを立ち上げ、それぞれカラーの違う音楽を発信し続けている多才なミュージシャンだ。その川谷が挙げたのは、ずとまよ特有の予測できないメロディ構成の複雑さだ。「繊細な人なんだと思うんですけど、まっすぐな人ではないんだろうなと」と笑う。「曲の中で裏切ってやるぞという強い意志を感じるんですよね。それをいいなって僕は思ってしまうので」と語る川谷は、「秒針を噛む」が公開されてすぐ、ACAねに連絡を入れたそうだ。
歌のセットの中では、テレビ、オープンリール、扇風機など、およそ演奏に関係なく思われるものたちが改造されて楽器になり、耳なじみのない音を奏でている。「デジタルな部分と古いものをこうして取り入れることがすごく好きで。なんでも楽器になるから楽しいなって思います」とACAね。
2度3度と繰り返し鑑賞してようやく見えてくる楽曲の全体像。テンプレートにとらわれない構成。「裏切りたい」という気持ちもあるのかもしれないが、楽器を無邪気に鳴らして笑うACAねを見ていると、単純に、何でも使ってみて、あれこれ試行錯誤するのが楽しくて仕方ないのが感じられる。その姿はさながら、子どもがブロックを組み合わせて新しい形を生み出しているかのようだ。そう考えると、雑然としたセットはACAねの実験場のようでもあるし、アイデアと材料の詰まった脳内のようにも見えてくる。