ずっと真夜中でいいのに。が示した“思考を止めない大切さ” コンセプトで魅せた『やきやきヤンキーツアー(炙りと燻製編)』

ずとまよ、が示した“思考を止めない大切さ”

 今の時代でシアワセになりたいと思ったら、与えられた情報を疑わず飲みこんで、長いものに巻かれるのが手っ取り早い。星野源が〈常に嘲り合うよな 僕ら “それが人”でも うんざりださよなら〉(「うちで踊ろう」)と歌い、米津玄師が〈正論と 暴論の 分類さえ出来やしない街を〉(「感電」)と歌うのが令和だ。嘲り合うのがフツウで、正論が機能しない世の中。考えることをやめて、感じることを捨てて、他人にも本心を見せないようにするのが一番お手軽にシアワセになれる。

 しかし、それは本物の幸せなんだろうか。ずっと真夜中でいいのに。が『やきやきヤンキーツアー(炙りと燻製編)』で提示したメッセージを読み解いていくと、そう考えずにはいられなかった。今回はそんなツアーのなかから1月31日に配信された、2020年11月29日@東京ガーデンシアターの模様をレポートする。

 タイトルの“やきやき”や“ヤンキー”というワードは、「お勉強しといてよ」を彷彿させるワード。アンコールの最後にもってきている点からしても、今回のメインテーマに据えていると思われる。要するにこのライブは、ACAねの感情参考書であり〈私を少しでも 想う強さが/君を悩ませていますように〉という願いなのだ。

 パフォーマンスは各メッセージを肉付けする形で展開された。薄暗い照明のなか、コンビニのドアを開き現れたACAねは〈今と これからと/考える時間が必要〉とオーディエンスに投げかけ、堂々とオープニングを飾る。パーンと抜ける高音には、この日に向けて仕上げてきた自信が滲む。“シコウ(思考×至高)”の時間の始まりだ。

 まず、思考は内省へと進んでいく。〈こんな自分に負けたくないのに〉と葛藤したり、〈取り繕ってしまうわ〉と辟易したりと、素直になれない自分と対峙。がんじがらめの自我に溺れていくのかと思えば、「低血ボルト」「マイノリティ脈略」と連投し自分の脚で立とうと試みる。“他者に望まれている自分”、すなわち“客観により無責任に構築された自分像”に染まることなく、素のままの自分を取り戻していくのだ。

 〈無気力な僕には戻れない〉と紡ぐ歌声は儚さと力強さが混在し、不安定に揺れ動く心情を鮮明に描き出す。ひときわ演出がロマンチックだったのは、「マリンブルーの庭園」だ。一面に広がる青い照明と下手側に刺すスポットライトは、海の底から空を見上げているよう。素顔を見せないACAねの性質を逆手にとり、舞台全体を1曲ごとに芸術として仕上げてしまうのは、ずっと真夜中でいいのに。の強みのひとつだとも言える。

 自身を顧みるターンは、〈魅力まで周りに合わせなくていいんだ〉〈当てはまる必要なんて無くていいんだ〉という言葉によって結ばれる。自分らしく生きていく大切さを秋の味覚になぞらえながらキュートに表現。オーディエンスとしゃもじでコミュニケーションをとりながら、自分の道を進んでいくことを肯定してみせた。

 そして〈君のこと 最後まで知りたいよ〉と切なる願いが響く「Ham」を皮切りに、気持ちは他人との関わりへと動き出す。“僕と君”もしくは“私と君”の関係を歌ったものへ、一気にシフトしていくのである。センチメンタルな歌詞と軽快なサウンドは裏腹で、観客に違和感を残すと共に歪な安定感を感じさせる。

 それを一気に、「Dear. Mr「F」」のエモーショナルな曲と胸に迫るリリックが崩しにかかるのだ。いうならば、積み上げたジェンガに特大の積み木を乗せるようなもの。次なる道を切り拓くため、前向きな“イイワケ”により状態を0に戻すのである。緩急のグラデ―ジョンは抜群で、観客席には思わず目頭を押さえる姿も見受けられた。

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