1stアルバム『すっからかん』インタビュー
瑛人による1stアルバム『すっからかん』全曲解説 すべてをさらけ出した作品に詰め込んだ“瑛人という人間と音楽”
瑛人は、いつもニコニコしているただの「ピース野郎」ではない。
たくさんの自己嫌悪を抱えながらも、とりあえず笑顔を浮かべておくことで目の前のしんどい現実をなんとか誤魔化して乗り越え続け、自分にも他人にも余計な苦痛や心配を与えないよう振る舞ってきた、そんな人物だ。彼の音楽を聴くと、影に潜ませている哀愁をひしひしと感じさせられる。でも笑顔とピースサインを向けられると、一瞬でこちらも笑顔になってしまうような陽の光を持っているのもまた事実だ。
瑛人の音楽が日本中の耳と心にスッと入っていった理由は、その歌詞やメロディの表面的要素だけでなく、そこに彼の人間的なエネルギーが染み込んでいるからだろう。「ノーテンキには笑えないけど、とりあえず笑うところから始めるしかなくない?」といったマインドや、自己肯定感が十分にあるわけではないけどそれでもなんとか立ち続けていかなければならないという姿勢が、今の時代を生きる人たちにハマったのだとも言えると思う。
1月1日・元旦にリリースされた1stアルバム『すっからかん』は、瑛人という人間・音楽に詰まっている中身をすべてさらけ出した作品として完成した。(矢島由佳子)
状況が大変化した1年。でも、音楽に対するスタンスや喜びは変わらない
ーー2020年は、瑛人さんにとって変化の大きい1年でしたよね。
瑛人:大変化です!
ーー想像していましたか? こんなにたくさんの人が自分の曲を口ずさんで、テレビからもバンバン流れて、という日がくることを。
瑛人:いえ、まったく想像してなかったです。全部嬉しいですね。こうやってアルバムを出せることも、コカ・コーラやスーパーカップのCMソングをやらせてもらえることも、もう全部嬉しいです。
ーー「瑛人」という名前が広まるまでは、何のために、どういったモチベーションで音楽活動をされていましたか。
瑛人:これまでは特に何のためでもなくやってました。ただ楽しいからって。
ーー瑛人さんにとって音楽の楽しさの種類や形にも、この1年で変化がありましたか?
瑛人:歌ってるときの楽しさは一緒ですね。何も考えずにただ楽しい時間が過ぎるからすごく好きだという気持ちは、今も前も変わらないです。
ーー音楽活動の環境や状況が変わっても、音楽に対するスタンスや喜びは変わらない?
瑛人:なんとか、音楽に関しては今のところキープできてます。面倒だなと思うことが起きたりもするけど、音楽には何も関係ないです。ただ、前までは人が少ないところばかりだったので、いっぱい人がいる中で歌うのは不思議な時間でもあって……それを超楽しめるようになるのはこれからかなって思ってます。
ーー今までのように仲間内で作品を作って自主リリースしていく選択肢もあったと思うのですが、事務所に入ってメジャーのレコード会社と組むことを選んだのは、どういう想いがあったからですか?
瑛人:それはすごく悩んで……別に入らなくてもいいのかな? とか。TuneCoreもあるし、またそれを使ってどんどんやっていこうかなとも思ったのですが……やっぱり、自分では対応できないことがいっぱい起きてきて、誰か必要だなと感じて。「これはもうだめだ!」と。
ーーただ、メジャーでやる中でも小野寺淳之介さんやHOTDOGS、松本千夏さんなどこれまでの仲間との制作を続けられていますが、それはどういった想いからでしょう。
瑛人:これからも大事にしていきたい。だから、これまでの仲間もみんなこのアルバムに入ってます。みんなで最後にハッピーになりたいなと思ってます。みんなが「いい人生だなぁ」って思えるように。1人だけ「いい人生だなぁ」と思うのは違うなって。
ーーそんな仲間たちも参加している1stアルバムを『すっからかん』と名付けた理由や経緯は?
瑛人:「ハッピーになれよ」の歌詞で〈すっからかん〉と使ってて。Kさん(御徒町凧)と話してて、「『すっからかん』がいいんじゃね?」みたいになって、たしかにと。すっからかんって俺っぽいし、これで本当にすっからかんだしと思って。
ーー本当にすっからかん、というのは?
瑛人:(アルバムに収録された)オリジナル12曲、これを出したらストック曲がゼロ!
ーーなるほど(笑)。持っているものを全部出し切ったんですね。
瑛人:これ以上曲がないです(笑)。またゼロからです、本当に。
ーー「香水」という曲に対しては今どういう気持ちがありますか。
瑛人:最近はあまり歌ってないから、歌いたいなと思ってます。この間までは「香水」を歌ってたけど、最近は「ライナウ」をよく歌ってて、「香水」を歌う機会は減ってるんですよね。なので少し寂しくなってきています。大好きですから。「ありがとう」って感じですね。「『香水』くん」のせいで、って思うときもあるし、「『香水』くん」のおかげで、って言うときもあるし。
ーー「僕はバカ」は、origami PRODUCTIONSに所属する関口シンゴさんがアレンジを務められていますね。
瑛人:そうです、むっちゃいいアレンジにしてくれました。シンゴさんは常にあったかいし、優しいし、冷静で、かっこよかったです。
ーーリアルな歌詞を書くことも大事にされていますが、こうやってフィクションで映画のように歌詞を書くのも楽しい?
瑛人:楽しかったですね。でも映画の観過ぎというのは本当だし、妄想とリアルを混ぜてます。これは、最初にメロディができたんです。それで、何がハマるかなと思いながら、〈隣の部屋から聞こえる壁を通して〉って歌詞を入れたら、「この曲、妄想でできそうだな」と思って作りました。隣にすっごい可愛い女の子が住んでる設定で(笑)。
ーー(笑)。聴いていて、画や映像が浮かんでくる曲だなと思います。
瑛人:ミュージックビデオでは、俺が主人公で飯豊まりえさんと共演できたんですよ。妄想していた夢が撮影で叶いました(笑)。