ビルボードチャートでの躍進、『I-LAND』人気、aespaらバーチャルとの接近……DJ泡沫×NICE73が2020年のK-POPを総括
2020年は『BTS「Dynamite」がアメリカビルボードシングルチャート“HOT100”1位を獲得し、世界的な人気の定着を感じさせたK-POPシーン。国内でもソニーミュージックとJYPエンターテインメントによる『Nizi Project』、そしてそこから誕生したNiziUが人気を博するなど、これまでにない層にも届き始めている。
今回リアルサウンドでは、昨年に続き、当サイトでK-POPに関する記事を執筆するライターのDJ泡沫氏(写真右)と、K-POPイベントのMCや作詞・作曲家として活躍するNICE73氏(写真左)を迎え、2020年のシーンを総括する対談を行った。前半では、ビルボードチャートでのK-POPアーティストたちの存在感、K-POPシーンで活躍する海外メンバー、そしてコロナ禍において求められる“バーチャル”的存在などの話題をお届けする。(編集部)
【オリジナル動画】DJ泡沫×NICE73による2020年K-POP総括
“プデュ”後もサバイバルオーディション番組はまだまだ人気?
NICE73:去年も対談でお話ししましたが、あの時は世の中がこんなことになるとは思っていなかったですよね。
DJ泡沫:そうですね、世の中もだいぶ変わりました。K-POPシーンで言うと、新型コロナの影響でライブコンサートができなくなってしまった一方、楽曲はアメリカのビルボードチャートにランクインするのが定着してきている印象です。先日もBTSの後輩、TOMORROW X TOGETHER『minisode1 : Blue Hour』がビルボード200で25位になったように、数万枚売れるようになれば、ビルボード200にランクインするようになってきています。SuperMやBLACKPINKも2位でしたし、アルバムチャートであれば10位以内、時にはトップ3やトップ5に入っていますね。今年は外にあまり出られないから、家で音楽を聴くようになってストリーミングサービスの再生数が上がったというデータもありました(参照)。そういう意味で、今年はチャートに変化があったと言えますね。
NICE73:オンラインライブで言うと、海外から観ている方も多いですよね。私は日本のオンラインライブも観ますけど、韓国のものに慣れすぎてしまうと、質感も含めてどうしても観づらいところがあります。
DJ泡沫:日本はまだオンラインコンテンツに慣れていない感じがありますよね。
NICE73:韓国だと英語、日本語、韓国語、中国語など字幕も選べますし。基本的に、メンバーの中に一人は英語を話せる子がいますよね。
DJ泡沫:そうですね。そんな中、頑なにYGエンターテインメントはオンラインライブをやらないですね。SMはもちろん、JYPエンターテインメントもやっているのに。どうせやるなら派手に、ちょっと違ったことをやりたいというのもあるのか、もしくは“カムバ”が詰まりすぎていて、それどころじゃないのかも……。今までは間隔を空けてのリリースだったのが、TREASUREは今年3回もカムバしています。最近は中小事務所でもV LIVEを使ったオンラインライブをやっていますし、YGもそのうちやるのかもしれないですけど。
NICE73:来年のお楽しみということで(笑)。家にいて、オンラインライブをたくさん見るようになったのもあるんですけど、今年は日本も含めて、オーディション番組的なものも非常に熱かったと思うんですよ。
DJ泡沫:そうですね。韓国では人気投票の不正操作の問題があったので、アイドル系のサバイバルは下火になってしまい、代わりにトロット(韓国演歌)のサバイバルが流行っています。CDアルバムが40万枚以上売れる歌手が現れてきたり。日本ではそういう問題があまりなかったので、去年は『PRODUCE 101 JAPAN』も成功しましたし、やっぱり今年は『Nizi Project』ですよね。K-POPを全然知らない層にもリーチしています。
NICE73:『Nizi Project』がきっかけで、逆にJYP周りが知られるようになっていますよね。私はStray Kidsが好きなんですけど、彼らを全く知らない人が「THE FIRST TAKE」を見て、私に「Stray Kidsっていう男の子たちがいるんだけど、NiziUの子たちと同じ事務所らしくて、上手いんだよ」って。それでNiziUってすごいなって感動したんですよ。
DJ泡沫:NiziUのメンバーがStray Kidsの「God's Menu」「Back Door」のMVに出てますよね。
NICE73:最初はセット売りというか、Stray Kids+NiziUなのかなと思いきや、NiziUを見るためにStray KidsのMVを見るような感じで、もうだいぶ変わってきているのかなと感じました。
DJ泡沫:日本ではNiziUの認知度がすごく上がっているので、その辺りが逆転しているのが面白いですよね。そこを利用しようとするというのもしたかな戦略です。ABEMAでもStray KidsのメンバーとJ.Y. Parkの緊急対談をやっていましたね。日本オリジナル曲の「ALL IN」を共同プロデュースしている、というので。J.Y. Parkに興味があって見る人もStray Kidsを自動的に見ることになる。これは完全に“ファミリー売り”ですね。
NICE73:そうですね。だから、元々のファンは、複雑な感情があるかもしれないですけど、でもやっぱり大衆的なことを考えると正解だと思います。あとは11月末に『I-LAND』をきっかけにデビューしたENHYPEN。
DJ泡沫:『I-LAND』はオンラインでやっていたのと、ENHYPENがBTSの事務所Big Hit Entertainmentと、Mnetの親会社のCJ ENMが共同で作ったBELIFTからデビューするのが大きいですね。ENHYPENはBig Hit直系とは少し形が違うんですけど、BTSのファン達は、デビューする後輩グループに注目しようという雰囲気があります。また、海外のファンからの注目が熱い感じもしますね。
NICE73:『I-LAND』では地域ごとの人気も分かるので、私は“中華圏の王子”“ギリシャの王子”みたいに心の中で呼んでました(笑)。このビジュアルはこの圏に人気があるのか、と考えて見ているのが面白かったです。
LOOΠΔの躍進、aespaらバーチャルとの接近
DJ泡沫:チャートの話に戻すと、海外のK-POPファンに注目されていた、LOOΠΔ(今月の少女)。ファン同士が呼びかけて、定期的にLOOΠΔの曲がiTunesチャートの10位以内に入ってくるという現象が起こっていて、固定のファンダムがある程度あるんだなと。それもあって、10月に発売した『Midnight(12:00)』がビルボード200にチャートインしました。
NICE73:初期のLOOΠΔって、若手プロデュースチームのMonoTreeがずっと手がけていて、そこからSM、EKKOの作家さんが入るようになって、だいぶカラーが変わっていった印象があります。日本のファンの中には「昔の方がよかった」という方もいらっしゃるみたいですが。
DJ泡沫:ただやっぱりそれで、あまり大衆的な人気がでなかったことを考えると、路線を変えざるを得ないという厳しい現実もあるのかなと思います。人気が出てきてから、また元の路線に戻すことはできますけど。
NICE73:ガールズグループで言うと、個人的にはSMからデビューした4人組のaespaが……8人って言った方がいいんですかね。
DJ泡沫:アバターメンバーの扱いがいまだに難しいですよね。グループの中にプチNCTがあるような感じというか(※メンバーを固定せず、コンセプトごとに選抜する)。SMは以前から、VRやARを使って、ホログラムコンサートをやっていましたよね。私もUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)に見に行ったんですけど、映像なのに本当にそこにいるようなリアル感があったんですよ。以前から力を入れていたものをしばらく中断していましたが、ここにきて“アバター”という形にして、本体メンバーと組み合わせるという少し大きな実験をしているのかな、と。メンバーが可変的になるNCT制度+過去にやってきたことの融合というイメージですかね。
NICE73:楽曲に関して言うと、aespaのデビュー曲「Black Mamba」は、もちろんSMが出しているものなので、クオリティは高い。だけど、Red Velvetが「Happiness」でデビューした時の「うわ、なんだこれ!」というような感覚が正直なくて。アメリカや世界市場に向けて出発していかなくちゃいけないから、あまり突飛なことをやっても……という考えもあるのかなと思ってしまいました。逆にRed Velvetの系譜はLOOΠΔがやろうとしている気がしていて。
DJ泡沫:LOOΠΔを最初に手がけていたチョン・ビョンギは、SMのボーイズグループなどを研究して、それを女子でできないかと考えたようで、EXOまでのことなどが反映されていたんじゃないかと思いますね(参照)。プロモーションの仕方やコンセプト、見せ方もボーイズグループっぽいというのがあると思います。aespaでいうと、韓国のオンラインゲーム『リーグ・オブ・レジェンド』のキャラクターたちに実際のアーティストが歌をかぶせて、グループを作るという企画から、K/DAが生まれて。かなり反響が大きかったので、グループとしてアカウントを持って、中国の雑誌の表紙になったり、アイドルとして活動し始めているんですよね。あれってほとんどアバターで、声は(G)I-DLEのミヨンやソヨンが担当しているので、その影響はあるんじゃないでしょうか。
NICE73:だからK/DAと重なって見えてしまうところもありますよね。とはいえSMですし、ここまでテクノロジーに投資していますから、どうなっていくのか期待です。
DJ泡沫:SMのような事務所は、他の事務所の良いところをうまい具合に取り入れてどれだけ売れるかというよりは、どれだけ新しいことをやっていくかが大事になっているというか。大手事務所は、すぐには結果が出ないこともあるかもしれないですけど、毎年何かしら新しいことちょっとずつやっていかないといけないですよね。特にSMはここ最近、NCTもそうですけど、新たなチャレンジを果敢にやっているように思います。
NICE73:今年はブームに向けて火をつけている作業が結構見られました。
DJ泡沫:来年以降、他の事務所も似たようなことをやり始めるかもしれないですね。実際、NCSOFTという『リネージュ』などを手がけている会社が、「UNIVERSE」というファンダム向けのプラットフォームを配信していて。IZ*ONEやMONSTA X、THE BOYZなどが参加しているのですが、メンバーたちがアバターになっていて、着せ替えができるんですよ。それでミュージックビデオを編集できるようなコンテンツもあって。本当にゲーム感覚ですよね。あとはメンバーの声を録音していて、AIを使って喋らせる音声コンテンツもあるようで。K-POPアイドルという3次元のものが、2.5次元化している。日本だと2次元を2.5次元化、3次元化する流れがありますが、その逆という感じです。3次元のものを2.5次元化するのは、ファンの良心に委ねられているところも大きいのかなと思いますが。
NICE73:すごい世の中になっていきますね。生身の人間がやることにプラスされるものがあるわけじゃないですか。どうなるんだろう!