世界的K-POPブームが作り上げられた背景 BTSをはじめとした“慰め”のメッセージ
2018年1月10日、韓国のグラミー賞と言われるゴールデンディスクアワードにおいて大賞を受賞したIUは、スピーチで「アーティストは皆誰かを慰める仕事をしています」と発言した。新型コロナウイルスに苛まれた2020年の今、私はこの発言を思い出している。
ケイティ・ペリーが「私たちにはこれまで以上に元気づけが必要な気がする。そしたらきっと新しい音楽がほしくなるでしょ」と発言して“笑顔を取り戻す”アルバム『Smile』をリリースしたように、カイリー・ミノーグが「ミラーボールが闇を照らしてくれる」と発言して今は夢見ることしか叶わない“満員のダンスフロア”へ連れて行ってくれる『Disco』をリリースしたように、そして松任谷由実が「後の世界史に刻まれるであろう、この未曾有の年の思いの記録を残しておかなければ」という強い意志のもと”きっと私たち人間には愛しか残らない”ということを記録した『深海の街』をリリースしたように、2020年は癒しと愛を与えて現実を忘れさせてくれるような曲が私たちをたくさん慰めてくれた。
そんな中、ひときわ活発的だったシーンがK-POPだ。奇しくも今年は、K-POPが持つ特徴と時代の潮流が、見事にマッチしたように思える。その最も大きなトピックが、BTSのシングル全米1位獲得およびグラミー賞ノミネートであろう。それでは何故K-POPがここまで世界を熱狂させるようになったのか、本稿で考察していきたい。
求められるのは一緒に楽しめるスター
アーティストの世界的人気を語る時、その軸となるのは世界一の音楽市場であるアメリカであろう。干支を一周巻き戻して2008年、BoAの全米デビューシングル「Eat You Up」がリリースされた。日本デビューも全米デビューもK-POPの先駆者である20年選手のBoAが道を切り拓き、後輩たちも次々と全米デビューを果たす。当時はアメリカに合わせて強いイメージを打ち出すアーティストが多かったが、最も好成績を残したのはWonder Girlsのモータウン調の曲「Nobody」(2009年/全米76位)だった。2012年にはPSYの「Gangnam Style」が全米2位を記録したが、こちらはコミカルなイメージと振付が強く印象に残った。また、そのハードなスタイルが“元祖ドゥンバキ”と称されるMONSTA Xは、世界進出にあたってR&Bを基調としたメロディアスなスタイルを打ち出し、アルバム『All About Luv』を全米5位にランクインさせた。BLACKPINKも「DDU-DU DDU-DU」(2018年/全米55位)以降Billboard Hot 100の常連となっているが、現状最も高い順位を記録した曲はセレーナ・ゴメスとコラボしたバブルガムポップ「Ice Cream」(2020年/全米13位)である。これらのことから、大衆は圧倒されるより、一緒に楽しめる曲を求めている傾向にあるのではないかと考える。
誰もが主人公? K-POPはインターネットの申し子
One Directionが2013年の曲「Diana」で「違う言葉を話すけど、君の呼ぶ声が聞こえる」と歌っていたが、韓国語話者は英語話者の16分の1である(参照)。自ら学ばない限り未知の言語とも言える韓国語で歌われているK-POPは、何故今世界的に愛されているのか。韻の踏み方が心地よく聞こえたり、特有の発音が病みつきになったり、メンバーが好きで何を歌っているのか理解したくて勉強したり、理由はさまざまあると思う。しかし私は、韓国語には一人称・二人称によるジェンダーの区別がないことも大いに関係しているのではないかと考える。日本語には一人称・二人称が複数存在してそれぞれ多かれ少なかれジェンダー的な役割を持っているのに対し、韓国語は目上かどうかや親しいかどうかを区別するだけで、ジェンダー的な役割は持っていない。そのため、ジェンダーに関わらず誰もが曲の主人公になる事ができる。ショーン・メンデスが2018年にリリースしたセルフタイトル作で性別の代名詞をすべて排除していたように、歌詞のジェンダーレス化が進む中、K-POPの歌詞は時代にマッチしていると言えるだろう。
また、K-POPは歌とダンスがセットであることが多く、アイコニックな振付もたくさん存在する。歌詞がわからなくても、ダンスは世界共通。TikTok全盛の今、真似したくなる振付は人気が出る。ZICOの「Any Song」がTikTokでバズって大ヒットを記録したように、今や公式自らが「#○○Challenge」というタグで曲をバズらせようとする時代だ。練習生という鍛錬の期間を経てデビューしたK-POPアイドルの高いダンス・スキルは、国境を超える大きな武器のひとつである。
さらに、K-POPはコンセプトごとに凝ったMVを制作する。歌詞がわからなくても、ダンスができなくても、MVの映像でぼんやりと全体像を把握することができる。今では公式で各国の言語に翻訳した字幕を提供しているレコード会社もある。公式の提供がなくても、インターネットが普及した今、検索すればすぐに訳詞がヒットする。
最後に、ファンとの距離が近いこと。K-POPアイドルはファンダムに名前をつけ、事ある毎にファンダムに愛の言葉を送る。サイン会や握手会、ハイタッチ会、コロナ禍の今であれば“ヨントン”と呼ばれるオンライントーク会。さまざまなイベントでメンバーとファンは交流ができる。それに参加できなくても、SNSやV LIVEという配信アプリでのメンバーの投稿や生配信(もちろん、ほとんどの場合は字幕が付く)がこまめに行われ、メンバーの素顔やメンバー同士の仲の良さを目の当たりにし、ファンはどんどんメンバーに親しみを抱いていく。新作を発表する前には決まった時間に画像や音源のプレビューが投稿され、ワクワク感を高める。TwitterのRTで回ってきた画像を見てプロフィールに飛んだが最後、気づけば目が離せない仕組みになっている。
K-POPは、インターネットを存分に利用して全方位から供給を行い、日々ファンを増やし続けている。その上アイドルごとにコンセプトが違うため、いつの間にか複数のグループのファンになっていた! ということも多々あるのだ。