トータス松本、連続テレビ小説『おちょやん』で“ダメ親父”を熱演 俳優への目覚めから演技派としての地位確立に至るまで

トータス松本『おちょやん』でも見せる俳優の一面

 妻(三戸なつめ)を早くに亡くし、養鶏で生計を立てているが、鶏の世話も弟ヨシヲ(荒田陽向)の世話も、家事も、千代にまかせっぱなしで、彼女は学校にも行けない。商売下手で家は大貧乏なのに、酒ばかり飲んでいる。街に行ったら10日ぐらい帰って来なくて、今で言うところのネグレクト状態になるのはザラ。

 おまけに突然「新しいお母さんや」と栗子(宮澤エマ。料理屋の仲居をしていたそうだが、三味線を持って来てよく弾いているところを見ると、その前は芸子だったと推測できる)を、連れて帰って来る。その栗子が家事も何もしないわ、ヨシヲの分のおはぎを勝手に食っちゃうわ、ヨシヲが崖から落ちて行方不明になり、村中大騒ぎで捜索しているのに加わろうともしないわ、というひどい女。

 で、千代と対立し、「あの子、奉公に出せばええやないの」と言い始め、お腹に子供がいることもあって、テルヲはそれに逆らうことができず……。と、「父親はダメな人」であることが多い歴代朝ドラの中でもトップレベルのダメ親父、という、おそらく普段の彼とは正反対の役柄を、おそらく普段のまんまのノリの関西弁や表情や動きで、活き活きと演じている。

 第3回の放送(12月2日)では、「あんな女、お母ちゃんと正反対やないか」と言う千代に、「せやろ。せやさけ惚れたんや。似ててみい、思い出してしまうやんけ」と答えるなど、かわいくて憎めないところもあるが、その憎めないところがよけいタチが悪い、とも言える。

 とにかく、「よくキャスティングしてくださいました!」としか言いようのない、このトータスのテルヲを、いつまでも観ていたいが、この展開だと12月7日の週からは、千代は街へ奉公に出ることになるだろうから、当然、出番は減るだろうな。

 そういえば、『龍馬伝』のジョン万次郎も、『いだてん~』の河西三省も、「途中から出る」「ずっとは出ない」役どころだった。ウルフルズでの活動があるし、長期間がっちり身柄を押さえられるような役のオファーは、そもそも受けないことにしているのかもしれない……。

 と思ったが、この役についてトータスは、「テルヲが今後もだらしなくてどうしようもない父親のままなのか、それとも最後は少しぐらい良い人間になるのか」「テルヲのこれからを温かく見守ってください」と言っているので、今後も出番は続くようです(参照)。ホッとしました。

 そういえば老人の役をやっているトータスは、まだ観たことがない気がする。そのあたりまで出続けてくれることを期待します。

■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「DI:GA ONLINE」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「KAMINOGE」などに寄稿中。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK

※記事初出時、一部内容に誤りがございました。訂正の上、お詫びいたします。

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