渡辺直美にしか成し得ない前代未聞のコメディーショーを徹底レポ 東京ドームを爆笑の渦で満たしたお笑い芸人としての凄み

渡辺直美、前代未聞のコメディーショー

 2月11日、東京ドームで開催された『渡辺直美 (20) in 東京ドーム』。お笑いとエンターテインメントが融合したコメディショーは、彼女の20年間にわたるキャリアを様々なアプローチで浮き彫りにしていた。東京ドームでの単独公演のチケットを完売させたピン芸人は史上初。事前に告知されていた出演者は本人のみ。内容の詳細については明かされておらず、「渡辺直美が単独公演をやる」ということしか知らないまま集まった約4万5千人の観客がステージで繰り広げられるコント、漫談、音楽、ダンスに釘付けだった。豪華ゲストもサプライズでたくさん駆けつけたこの公演の模様をレポートする。

 スクリーン上で始まったカウントダウン。鳴り響くSEに合わせて観客が打ち鳴らす手拍子の熱が半端ではない。「5・4・3・2・1・0!」という声が客席の全エリアから沸き起こり、ダンサーチームによるパフォーマンスがスタート。そして、ポップアップでゆっくりとステージに姿を現した渡辺直美。特効の火薬が炸裂したが、観客の歓声の方がものすごかった気がする。「東京ドーム、ブチ上がっていくぞ!」と雄々しく声を響かせ、階段を下り始めた彼女はすでにビヨンセだった。「Crazy in Love」に合わせて繰り広げるパフォーマンスの輝きがものすごい。『スーパーボウル』のハーフタイムショーでも、こんなに絶大なエネルギーを体感することはなかなかできないかもしれない。そして、生演奏を繰り広げるバンドメンバーの豪華さに気づいた音楽愛好家もいたのではないか。サイトウジュン(Bandmaster, Organ)、小金丸慧(Guitar)、永井聖一(Guitar)、村田シゲ(Bass)、伊藤大地(Drums)、村上基(Trumpet)、武嶋聡(Sax, Flute)、池本茂貴(Trombone)、三星章紘(Percussion)、中込陽大(Keyboard)、DJ DAISHIZEN(Manipulator)――凄腕プレイヤーが揃っている。極上サウンドが冴えわたる中、花道の先端にあるセンターステージで彼女がセクシーなポーズを決めた瞬間、観客は完全に夢中になっていた。

 「すごいねー! こんなにたくさんの人、一斉に初めて見た!」――最初の小休止で、客席を見回しながら感激の声を上げた渡辺。「今日のライブは何をするのかわからず集まってますよね(笑)? ありがとうございます。芸歴20年を迎えまして、20周年記念ということで、私のことを隅から隅まで知ってもらえたらいいなという会ですので」――公演の主旨を説明した後、彼女がまず語ったのは0歳から18歳までの日々。個性豊かな両親、元気いっぱいだった小中校生時代、お笑いへの目覚め、アルバイト時代、NSC受験などについて、様々なエピソードを交えて伝える話術の切れ味が抜群だった。構成の巧みさ、絶妙なテンポと緩急、声の響きの美しさで裏打ちされたトークは、終始、まるで音楽のよう。ビヨンセのパフォーマンスであんなにも人々を魅了できる理由は、彼女がお笑いだけでなく、音楽の素養も極めて高いからなのだと思う。小学生時代の微笑ましい下ネタエピソードを紹介した際、4万5千人の観客が大爆笑。この種のテーマのトークがあれだけの数の人々を1つにしたのは、東京ドーム史上初だったのではないだろうか。

 NSC受験に至るまでの経緯が語られたところで、コント「ミュージカル~渡辺直美物語~」がスタート。2006年のNSC入学から今日までのことがミュージカル仕立てで描かれた。様々な時期を再現する中でサプライズ登場したゲスト陣は、すさまじい豪華さだった。NSCの同期・おたけ、太田博久(以上、ジャングルポケット)。先輩・向井慧(パンサー)、じろう、長谷川忍(以上、シソンヌ)、長田庄平、松尾駿(以上、チョコレートプラネット)。大切な出会いだった友近、近藤春菜(ハリセンボン)、箕輪はるか(ハリセンボン)。初のレギュラーコント番組『ピカルの定理』の仲間たち・大悟、ノブ(以上、千鳥)、又吉直樹(ピース)、吉村崇、徳井健太(以上、平成ノブシコブシ)、西森洋一、大林健二(以上、モンスターエンジン)、岩井勇気、澤部佑(以上、ハライチ)。複数の吉本興業社員を演じ分けた池田一真(しずる)。新人時代に組んでいたお笑いコンビ「わたもち」「フレッシュライム」の相方を演じた朝日奈央……次々登場したサプライズゲストは、渡辺が20年間の芸人キャリアの中で仲間たちに深く愛されてきたことの証明でもあった。

 彼女が脚本、楽曲の作詞作曲を全て手掛けたこのコントの終盤では、2021年に上演された主演ミュージカル『ヘアスプレー』のプリンシパル8名も登場。三浦宏規(リンク役)、平間壮一(シーウィード役)、清水くるみ(ペニー役)、田村芽実(アンバー役)、上口耕平(コーニー・コリンズ役)、エリアンナ(“モーターマウス”メイベル役)、石川禅(ウィルバー役)、瀬奈じゅん(ヴェルマ役)と一緒に繰り広げた歌とダンスは、東京ドームの大きなステージ上で美しい花のように開花していた。そしてアメリカへと旅立ち、現地での生活を描いたところで壮大なコントは終了。爆笑を誘う場面の連続だった20年の軌跡は、芸に対するひたむきさもまっすぐに伝えてくれた。

 YouTube生配信『NAOMI CLUB』でお馴染みの曲「ハッスルタイム」が鳴り響く中、衣装替えをしてステージに再登場した渡辺はピンク色のトロッコに乗り込み、アリーナ内を1周しながら観客からの質問に回答。Q:夢はなんですか? A:美味しいものを一生食べることです。Q:好きな食べ物は? A:お寿司です。Q:お昼は何を食べましたか? A:ちくわの天ぷら……などなど、近い距離でのコミュニケーションを彼女はとても楽しんでいた。「みんなの顔をよーく見て嬉しかった。SNSとかでいつも見てくれてるんでしょ? 会えて嬉しいです。本当にありがとう!」という言葉は、ファンの心を温めたはず。

 そして、今回の公演のための約2年間の準備について語る中、「東京ドームといえば音楽だ」と思い、密かに別名義「Peach Nap」で曲をリリースしていた旨が明かされた。その曲がバズった後、今回の公演でサプライズ披露し、「Peach Napって渡辺直美だったの⁉」となる予定だったそうだが、YouTubeにアップロードした「Mizu」のMVの再生数は2390回(本稿執筆時)。「Wasting Time」の再生数は41回(本稿執筆時)……その他を含む合計8曲をリリースし続けたが、著しい不発のまま迎えた公演当日。しかし、彼女は東京ドームにオリジナル曲を鳴り響かせることを諦めていなかった。「Peach Napはちょっとアレだったけど、今日という特別な日を1曲に残したいなって思ったんです。私、ヒップホップが好きだから、東京ドームのこの素敵な状況を曲にできないかなあって。今生きてること、リアルを大事にしたいから、友だちにお願いして『特別な東京ドームの感じをラップにできないかなあ?』って言ったら『いいですよ』と。その友だちと曲を披露しようと思うんです」――そして登場したサプライズゲストは、ラッパーの千葉雄喜。2人は「チーム友達」を一緒に歌いながらセンターステージへと向かった。千葉が東京ドームでぜひやりたかったのだという全観客によるスマホライトの点灯が実現して、4万5千人分の白い光を浴びた彼らは、「めっちゃきれい!」と感激。「こんな景色を見たら『なにこれ?』と思っちゃうね」という渡辺の言葉を合図にスタートしたオリジナルソング「なにこれ?」は、2人のラップの交わし合いが、特別なステージで噛み締める感動を浮き彫りにしていた。この曲は近日中に配信される。豪華コラボは、ヒップホップファンからの注目も集めるだろう。

 見どころ聴きどころ満載だったこの公演の終盤は、特大級の華やかさだった。レディー・ガガ「JUDAS」は、『徹子の部屋』に出演した際のガガ様を彷彿とさせる衣装を身に纏った渡辺の登場からスタート。総勢72名のダンサーを率いながら花道をパレードした末に彼女が辿り着いたセンターステージが高くせり上がり、発射された大量の銀テープが照明の光を浴びてキラキラ輝く様は壮観だった。ロングバージョンのアレンジによる「ハッスルタイム」を経てエンディングを迎えた時、広大な東京ドーム内を満たしていたすさまじい熱気。「本当に楽しかったです! 自分の中の目標がいろいろあるんですけど、『東京ドーム』っていう目標は今までの自分の中になくて。これはみなさんからのプレゼントというか、みなさんが日頃、応援してくださってるおかげでこうやって素敵なステージの上に立てたんだなと思ってます。いつも応援をありがとうございます! ピン芸人で初めて東京ドームをやったということになってますけど、ピン芸人とはいえ1人ではない。応援してくださってるみなさんのおかげでもありますし、今日までいろんなスタッフさんたちが支えてくれたおかげでこのようなステージに立つことができました。みんなの素晴らしい人生の中に私を入れてくれてありがとうございます。今までの20年、これからの20年、いつまで生きてるかわからないですけど、みんなと一緒に長生きして、またどこかで会えたら嬉しいなと思ってます」――挨拶をした彼女を包んだ拍手と歓声は、猛烈な熱を帯びていた。

 客席を背景に記念撮影をした後、「今日という日が本当に私にとって特別な日になりました。明日からもどんどん更新していって、みんなで最高の人生にしましょう! 今日が終わったら明日は来ます(笑)。明日からも素敵な1日になるように。みんなとまたどこかで会えたら嬉しいです! またみなさんお会いしましょう! 本当に本日はありがとうございました!」――晴れやかなトーンの声でメッセージを届けて、ステージから姿を消した渡辺。しかし、鳴り響くビートに合わせた歌声が聴こえてきた。「怖いよね? 姿見えてないのに声が聞こえて」という言葉を聞いて、観客は大爆笑。とびっきり明るいムードと共に終演を迎えていた。様々な要素が融合し、その全てが「渡辺直美」として輝いたこのコメディショーは、温かな幸福を観客の1人1人に届けていたと思う。

『渡辺直美 (20) in 東京ドーム』

 「Most tickets sold for a comedy show by a solo female comedian(女性ピン芸人によるコメディショーで販売されたチケットの最多枚数)」としてギネス世界記録に認定されたそうだが、ショー自体も未曽有の内容の連続だった。会場で過ごしていた人々は、「ものすごいものを観てしまった!」という思い出を胸に深く刻んだに違いない。

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