Serphが語る『Skylapse』で追い求めた“音楽の安らぎと赦し” 「現実を超えた世界をシェアすることが文化や芸術の一つの本質」

Serphが語る『Skylapse』で追い求めた“音楽の安らぎと赦し” 「現実を超えた世界をシェアすることが文化や芸術の一つの本質」

 オーロラのように美しいメロディ、躍動する光のリズム、電子音が織りなすユートピア、Serphは未来を祝福するように音楽を作る。無尽蔵の創作意欲を発揮してきた電子音楽界の偉才が、新作『Skylapse』を発表した。昨年の9カ月連続リリースに続き、今年も2枚のEPとディズニーのカバーアルバムをドロップするなど、相変わらずの多作ぶりを見せていたが、フルアルバムの完成は2年ぶり。『Aerialist』以来の作品である。

 新作のテーマは「冬の空の移り変わり、果てしない高さ、そして透明感」。大衆性と実験性を同居させることに長けた作家だが、本作はシンプルな構造、ある種の素朴さに留意した作品だという。コロナ禍で中断せざるを得なかったものの、近年はライブでの顔出しと本数の増加が顕著だった彼である。明瞭な作風へと向かったのも、リスナーとの交歓が遠因としてあったのかもしれない。

 表題曲についてSerphは「癒し」、ないしは「赦し」の感覚があったと語っている。それはすなわち、「肯定」するということだろう。一貫して音楽における逃避を謳ってきた彼は、それゆえ神秘体験としての音楽を追及し続ける。Serphの音楽に貫かれる思想を、改めて紐解いた。(黒田隆太朗)

「人生を肯定する曲調やメッセージに惹かれる」

ーー『Skylapse』の制作はいつ頃から始まっていきましたか。

Serph:夏くらいから制作を始めて、3、4カ月で作った感じですね。

ーー常に作品をリリースしているので間が空いた感覚はありませんが、アルバムとしては2年ぶりになります。ご自身にとって他の作品とアルバムの制作では、どんな意識の違いがありますか?

Serph:今年はEPを2枚出したんですけど、そうすると5、6曲で1枚の作品を作ることになるので、イマイチ満足できなかったところがあるというか。尺的にこじんまりしちゃったなって思いがあって。それで何かテーマを決めて、10曲くらいの作品を出したかったところがありました。

ーーテーマは「冬の空の移り変わり、果てしない高さ、そして透明感」だそうですね。「冬」というのは何の象徴でしょうか。

Serph:気温も上がって、長さも伸びてきているし、年々夏が苛酷になっていってるじゃないですか。それで冬の空をすごく求めていたんですよね。湿度や温度が低いだけでも音楽の聴こえ方が研ぎ澄まされるし、思いっきり冬の空の下で聴く音楽をテーマに作りたいと思いました。

ーーつまり、音楽に癒しを求めていた?

Serph:そうですね。癒しとか鎮痛効果とか、筋弛緩作用。そういう感じのアルバムにしたかった。で、シンプルなテーマで作ってみたいっていう気持ちがありました。たとえば、前作(『Aerialist』)はもうちょっと音の作り的にも密度が濃い感じでしたけど、今回は空間を空けた作りになっています。

ーーシンプルな作風を心がけたのはなぜですか。

Serph:音楽の聴き方が歳とともに変わってきたんですよね。実験性の強いものをほとんど聴かなくなってきて、どんどん正直になってきているというか、ひねくれが減ってきている。今は安らぐものや美しいもの、心が和んだり、癒されるものを音楽に求めています。

ーーなるほど。

Serph:そしてディズニーのカバーアルバム(『Disney Glitter Melodies』)を制作している時にすごく感じたのが、はっきりしたメロディと、シンプルな構造でできている音楽は聴きやすいんだなってことで。今回は素朴さのあるメロディで1枚作ってみようと思いました。

ーーちなみに、ここ半年ほどで特に聴かれていた音楽はありますか。

Serph:坂本龍一とBrasstracks周辺の音。あとはゴスペルも聴いていました。

ーーゴスペルからの影響は、うっすら感じますね。

Serph:ゴスペルの持つ前向きさというか、人生を肯定する曲調やメッセージに惹かれます。カーク・フランクリンというプロデューサーがすごく好きで、彼が歌うコンテンポラリー・ゴスペルはトラックが洗練されていて、ポップな感じがありますね。そうしたゴスペル寄りのコード進行を持ったR&Bから影響を受けてます。

ーー坂本龍一は?

Serph:彼の音楽は昔からずっと聴いていて、全作品に影響を受けています。

ーーその中でも、この最近の気分はどの作品になりますか?

Serph:「andata」という曲や、『/04』とか『/05』のようなピアノ作品ですね。彼の作る音楽はコードやピアノの組み方がシンプルで、エレガントで美しく、日本人っぽさがありますね。日本という閉じた世界ならではの郷愁や素朴さ、和やかな感じ……そうした和風の雰囲気に惹かれています。

ーー今話されたニュアンスは、Serphさんの音楽にも通じますね。

Serph:日本人であることから離れられないというか、育った時に聴いていた音楽、観てきた映画や親しんできたアニメ、ゲームから影響を受けているので、日本とは切っても切り離せない感じがあるのかもしれないです。

Serph – Wintermute (Official Audio)

「現実から遊離する感覚は、音楽の役目として大きい」

ーー『Skylapse』では、中盤の「Spirit Circle」や「North Star」にゲーム音楽的なニュアンスを感じました。

Serph:植松伸夫の音楽とか、チップチューンの坂本教授がすごく好きで。ファミコンとかスーパーファミコンで使われていた音楽というか、8ビットや16ビットのシンセの音がすごくしっくり来るんですよね。

ーー童心が刺激される?

Serph:まさに。ひとつのノスタルジーだと思います。

ーーSerphさんの音楽には子供心と言いますか、幼さや冒険心があるように思います。

Serph:子供のようなフレッシュな気持ちで楽しめるのが音楽の良さだと思うので、制作を通じて童心に帰るというか……それこそ子供の頃にゲームをやっている時は、現実の嫌なことは何も考えないわけじゃないですか。そういう逃避や、現実から遊離する感覚は、音楽の役目として大きいと思うんですよね。空に心を飛ばすことで、現実を忘れることとか現実から離れていくことがあるというか。

ーー「果てしない高さ」や「透明感」というのも、非現実の象徴であり、逃避願望の表れということですね。

Serph:そうそう、そうですね。

ーー10曲目の「Cloud Nine」は澄んだ空気と、心が煌めくようなドラマを感じます。

Serph:「Cloud Nine」はクリスマスマーケットだったり、骨董市や古本市に偶然行き当って、なんとなく過ごした1日が実は大事な1日だったと感じるようなイメージがありました。

ーー表題曲ともうひとつ、6曲目の「Spirit Circle」が今作の核になっているような印象を受けました。

Serph:作っている時には意識していませんでしたが、完成してみると確かに6曲目は気合いを入れて作ったところがありますね。これはリズムでかなり遊んだ曲で、アルバムの中では情報量多めの曲になっています。3曲目の「Satellite」から6曲目の「Spirit Circle」までが割とサイバーパンクっぽいというか、グリッジや刺激強めノイズを混ぜた感じがあって。そこまでの流れで少しだけ今っぽさというか、ハイテクでサイファイな感じを出しています。

ーー「Spirit Circle」を終えると少し場面が切り替わるというか、心温まる穏やかな流れになっていくように感じました。

Serph:7曲目(「North Star」)はモロに癒し系で、8曲目(「Melt Flux」)はエレクトロニカというか、これだけちょっとダンス寄りな感じですね。「Melt Flux」は冬の空を写実的に描いた感覚が一番強い曲でした。

ーー写実的というのは?

Serph:冬の空は気持ちよ過ぎて、空を眺めていると自分と空の区別がつかなくなっていく感じがあって。この曲では空間の広がりとか遠さを表しています。音の作り的には、Burialに影響を受けていますね。

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